見出し画像

タイムアウトからタイムインへ?

タイムアウトとは、不適切な行動に対して、一旦全ての強化子を取り除く事です。教育現場など人に対しても用いられる手法で、動物トレーニングでは、一般的に餌を持って動物の前から後ろに下がる(立ち去る)という手段で行われます。さて、皆さんはタイムアウトについて、どのような考えを持っていますか?タイムアウトには、不適切な行動に対するトレーナーの考え方が濃縮されており、また、動物に対する向き合い方や、知識、価値感などトレーナの本質が現れる瞬間でもあります。私自身、タイムアウトについての考え方が大きく二転三転してきました。当時、私の頭の中で考えていた事を時間の流れに沿って追いかけてみますので、しばしお付き合いください。
 
第1世代(良くない行動は見逃さない)
 
「良くない行動には、タイムアウトで対処するように」と教えられました。良くない行動を見過ごすと動物に舐められ、言う事を聞かなくなる。トレーニングで大切な事は、動物の「良くない行動」を見逃さないことだ!と解釈した。
威嚇・攻撃だけでなく、採血拒否、ゲート通過拒否、おもちゃで遊んで帰ってこない等、イルカがトレーナーの前から離れた事に対してもタイムアウトを使用、なぜなら、これらすべて良くない行動だから。
当然、タイムアウトの使用頻度は急上。しかし、行動に改善が見られず、むしろ悪化?
 
タイムアウトって効果あるのか?
 
第2世代(タイムアウトの効果を高めたい)
 
悪いのは良くない行動をした動物で、動物は制裁や罰を受けなければならない。私は悪くないし私のやり方は変えない、動物が行動を変えるべき。タイムアウトの効果を高める工夫してみよう。
 
①普段のトレーニング中にタイムアウトみたいな紛らわしい事は極力避けるべきだ。
 ・トレーニング中に安易に後ろに下がらない。
 ・よそ見しない、トレーニング中に他のトレーナと打合せしない。
 
②タイムアウトは慣れると効果が下がるので、少ない回数で効果的に使わなければならない。
 ・タイムアウトは悪い行動が出たら初期段階ですぐに行う
 
③タイムアウトの継続時間は短すぎると効果が少ないので、十分時間を取る必要がある。ただし、取りすぎると諦めて終了と勘違いするので適切な継続時間を見極めなければならない。
 ・タイムアウトは短すぎても長すぎてもダメ
 
④そして、最も大切な事は、動物が見ている時に、当てつけがましく餌を取り上げるように悪意を持って動物の前から立ち去った方が効果が高いはず。
 
それでも、タイムアウトの効果は不十分。もっと大きな罰や制裁を使ったほうが動物の行動は良くなるのかもしれない。
 
あれ、変な方向に向かっているような気が・・・。
 
第3世代(迷走+再構築)
 
「オペラント心理学入門(レイノルズ著)」のP121あたりで、罰についての記載を発見。維持されている反応に罰を使っても効果無しとの記載あり。タイムアウトで不適切な行動を無くしたり、適切な行動に変えることは出来ないってこと?
えー!聞いてないよ!
そもそも、私は動物のトレーニングで嫌悪刺激は使いたくなかったはず。タイムアウトって嫌悪刺激だったのか?どこかで間違えた?
色々と考えた結果、タイムアウトの目的設定で間違えていたような気がしてきた。
タイムアウトに何を求めていたのか、目的を見直してみることにする。
 
①不適切な行動を強化しない
②一旦、動物に落ち着いてもらう、ついでに自分自身も一旦落ち着く
③あわよくば正解を探すきっかけなれば十分
④タイムアウトで動物の不適切な行動を無くしたい
⑤不適切な行動をしたら良い事は取り上げられるべきだ
⑥動物は反省すべきである
 
トレーニングは強化するかしないかの選択(OK or NG)で進めていくもので、タイムアウトは強化をしない手段の一つに過ぎない。そう考えるとタイムアウトの目的として適切なのは①~③まで。最初から④~⑥はタイムアウトの目的に含めてはいけなかった。
トレーナーの不適切な行動が、動物の不適切な行動を誘発したと考えると、④~⑥はトレーナーが負うべき責任なのではないか。
という事は、④~⑥は以下のように訂正しなければならない。
 
④不適切な行動を無くすのはレーナーの方だ。
⑤不適切な行動をしたトレーナーは、トレーニングの時間を取り上げられるべきだ。
⑥反省すべきはトレーナーである
 
第4世代(再構築)
 
タイムアウトには、動物が強化を得ることが出来るチャンスを奪われてしまうので、嫌な事(嫌悪刺激)や、罰という側面が含まれる。しかし、この嫌悪刺激の部分に頼るとうまくいかない。出来るだけ嫌悪刺激に頼らないトレーニングをしたいので、タイムアウトには強化しない事だけを求めるべきだ。
もちろん、感情に左右されてはいけない。タイムアウトを行う基準の統一は必要だし、計画的に行うべきだ。
タイムアウトでは、動物は強化されないし嫌な事も起きない、つまりニュートラルな状態を目指す。ニュートラルな状況をつくれるのであれば、別にタイムアウトである必要はく、場面ごとに最適と思われる手段を取ればよい。
 
しかし、これでは不適切な行動の改善にはつながらない・・・。
 
第5世代(タイムアウトからタイムインへ)
 
タイムアウトは不適切な行動を強化しない事だけを求めるべき。
一方で、不適切な行動の改善には、適切な条件と基準を設けた行動修正のためのトレーニングが必要だ。適切な条件と基準を設けるためには、まずは情報収集が必要で、動物の意思を聞いてあげる事から始める必要がある。動物には動物の都合があり、動物の話を聞きながら(ノンバーバルコミュニケーション)、動物の意思を尊重しつつ、トレーナーと動物の双方が思考と試行を繰り返し、行動の改善や妥協点を探していく←これはタイムイン!。
結果的にタイムアウトの出番は減少する。
しかし、観察・コミュニケーション・思考が必要で、多くの時間と労力がかかる。
 
まとめ
そもそも、タイムアウトをしなければならない状況はだれも望んでいません。不適切な行動が現れた原因は動物にありますか?それともトレーナーですか?
動物が不適切な行動をとった原因はトレーナーにあるとすれば、タイムアウトを受けるのはトレーナーです。トレーナーは大好きな動物の前から離れなければなりません、とても残念です。何が悪かったのか、次はどうすれば良いか考えるのはトレーナーの役目で、トレーナー自身が行動を変える必要があります。ある意味動物は被害者です、タイムアウトに罰(嫌悪刺激)としての意味合いは最小限に留めたいところです。例えば動物が見ていない隙にこっそりと立ち去るなど、状況に応じて工夫したほうが良さそうです。また、本当にすべての強化子を取り除く必要があるのか、タイムアウトの必要性についても同時に考えましょう。
 
当初の計画や予測が甘く、不適切な行動の予兆を察知できずに、無理やり続行した結果、タイムアウトしなければならなくなった!こう考えるとタイムアウトは恥ずかしい事ですね。もちろん、タイムアウトが必要な場面で、タイムアウトを行わない(出来ない)のも如何なものかと思いますけど・・・。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?