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音楽に壁はあるし、国境も恥もある。何なら差別もある。

色んな友人、知人と「はじめて買ったCD」の話になった際、私の中に「嘘をつくか」、「正直にいうか」という選択肢が生まれる。

はじめて買ったCD、正確には買ってもらったCDなのだけれど、音楽仲間だったり、あまり関係性の深くない知人相手だったりする時は、

「JUDY AND MARYの『そばかす』のシングルだよ」

と答えるようにしている。実際にテレビで流れるJUDY AND MARYの音楽に興味を持ち、買ってもらったCDをヘビーローテーションして大いにハマり、結果大ファンになってバンド活動を始めたきっかけになったため、話の運びとしてもこの回答がスマートなのである。

しかし、ご想像の通りこの回答は、嘘である。厳密に言えば、『そばかす』は4枚目に買ってもらったCDであり、本当に最初に買ってもらったCDは、

ドラマ『家なき子2』のサントラである。

家なき子。それも、2である。家なき子2は、個人的感想だが1には劣るものの良いドラマだった。余談だが、未だに榎本加奈子やその夫の大魔神佐々木を見ると、

「エリカが例えてあげる!」

から始まる名調子を思い出し、なんだか恥ずかしい気持ちになる。

家なき子といえば、ショッキングなドラマの内容もそうだけれど、なにより中島みゆきの主題歌が最高である。

ただ、正直2の主題歌である『旅人のうた』より、1の主題歌である『空と君とのあいだに』の方が好きだし、そもそも、家なき子2のドラマの劇中曲が好きだったと言う記憶もない。

つまり、当時何を思ってこれを買ってもらったのか全く思い出せないけれど、おそらく当時の自分には何かがピッタリとハマってこのCDを買ってもらったのだと思う。安達祐実のファンだったかと言われればそのような事もなく、『REX 恐竜物語』も見ていない。

2枚目に買ってもらったCDは、コミックソング界の帝王、嘉門達夫の『替え歌メドレー』だった。当時まだ小学生だった私は、このことがきっかけで多くの昭和、平成の名曲を「原曲よりも先に替え歌で知る」という業を背負って生きることになった。

3枚目は、『クロノ・トリガー』のサントラだった。クロノ・トリガーは名曲も多いのだが、音楽が好きだったというよりもクロノ・トリガーが好きだっただけである。

これらの3枚を正しい購入履歴で説明するのは、よっぽど気の知れた友人に限られる。なぜかといえば、理由は簡単。「人は聞いてる音楽で他人の評価を下すことがある」からである。

10年近く前、私はカラオケで湘南乃風の曲が分からなかったり、ランキング常連のアイドルの曲を知らずに、「流行りにノれない寒い奴」とみなされ、非国民扱いを受けた事がある。

また、バンド活動期に知り合った人間に言わせれば、JUDY AND MARYどころか、邦楽を聴いてる時点でダサい、と断じられる事もよくあり、音楽が好きで集まった仲間から、好きだった音楽を否定されるというとても悲しい思いを経験した。

彼らに言わせれば、邦楽は商業主義で中身のない音楽であり、洋楽こそが聞くに値する真の音楽であったらしい。

ただ、私からすれば、カラオケの狭い個室でタオルを振り回したりみんなお揃いのミュージックマンのスティングレイで、Red Hot Chili Peppersのフリーのスラップを全く同じ奏法でコピーしている方がよっぽどダサいと思っていたので、ある意味おあいこである。

そんな彼らからすれば、(我々世代で言えばの話になるが)小学校の頃にB'zや小室ファミリーなどで音楽に目覚め、中高生で洋楽と言う本物の音楽に触れ、レッチリに影響を受けることこそが音楽における義務教育であり、サントラやコミックソングが入り口で、未だに邦楽を聞いている奴は、音楽好きの風上にも置けない、落伍者なのである。

きっと彼らは今でもビリーアイリッシュを聞き、ブルーノマーズこそが本物であると信念を持ち、洋楽信仰を貫いているのだろうと信じているが、もしも奴らと再会してカラオケに行き、「やっぱ懐メロだよね」なんて言いながら当時流行っていた邦楽を歌い出したとしたら、私は迷わずそいつにノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチを申し込み、凶器攻撃の連発で確実に息の根を止めようと思う。

安達祐実や嘉門達夫には申し訳ないが、そんな事もあって、はじめて買ったCDは今でも胸を張って好きだと言える、私にとって1柱の神である「JUDY AND MARY」で回答するようにしているのだ。

話が発展し、私が今でもJUDY AND MARYが好きだと言うと「ジュディマリなんかのどこがいいの?」と、見下してくるような人もいるが、それはもう信仰している宗教の違い、という事で割り切るしかない。

「人は聞いてる音楽で他人の評価を下すことがある」と言ったが、好きな音楽で人を判断する事自体は、間違いではないと私は思う。「必ずそう」と言えないだけで、アニソンをよく聞く人はきっとアニメが好きだし、アイドルソングの曲が好きな人はきっとアイドル好きで、強めのヒップホップが好きな人はきっとアウトローな人が多い。これは偏見ではなく、傾向の話である。

そして、曲やジャンルに、本来好みはあっても優劣はなく、誰かから「好き」と思わせる何かがある以上、全ての音楽は等しく価値のあるものであり、音楽の好みで価値観に優劣をつける行為がナンセンスなのだ。ラップ好きの方がアニソン好きよりもセンスが優れている、と言う事実はない。

音楽の好みは属性を判断する材料になり得るが、音楽に優劣はない以上、人間やセンスの優劣を判断する材料にはなり得ない、ということである。

なんて、偉そうなことを述べておきながら、私自身初めて買ったCDの話で嘘をついており、そしてそれは自分の中で優劣をつけて見栄を張っている証である。なんとも間抜けで説得力のない、悲しい話だ。はじめて「曲が好きで」買ったCDが『そばかす』なのだ、ということで、許してもらいたい。

今の世代の人たちは、私が若者だった頃に比べて音楽に関する差別がグッと少なくなったと思う。アニメソングやアイドルソングが好きでも、あまり奇異な目で見られる事はなく、堂々と好きであることをアピール出来、羨ましいところもある。

しかし、それでもきっと音楽に優劣をつける行為は無くならず、これからも音楽に差別は在り続けるのだと思う。何故なら、音楽的な被差別を経験した私自身でさえ、一部のキャラソンや電波ソングを何となくの知識や偏見で下に見ているからである。

BAD END

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