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真夏の無計画 3日目 ~リベンジは無計画的に~

ちゃんとした宿に連泊するなんて考えてみればいつぶりだろうか。今までの旅行ではネットカフェや漫画喫茶をフル活用して夜を明かしてきた。それが今やgotoキャンペーンとクーポンの会わせ技で宿に泊まった方が安いというのだ。布団とはなんと快適なことか。7時頃に気持ちよく目覚めた。
フロントに鍵を置いてチェックアウト。急勾配の駐車場からデミ夫を恐る恐る発進させる。本当にこんなとこによく停められたもんだ。

旭展望台➔鱗友朝市

デミ夫で坂を下って登って、朝食の前に旭展望台というちょっとした展望スポットに行ってみる。有名観光地の天狗山のロープウェイは時間的に動いてないし、あの宙ぶらりんの乗り物は地味に金がかかる。

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旭展望台は山にちょっと分け入ったところにあった。景色は、いいのはいいが見えているのは南小樽の方向で、中心部ではない。空は若干曇っているが日が射してきた。天気は大丈夫だろうか。あの場所には晴れの時に行きたいのだ。昨日行けなかったあの場所には。

そう、今日我々は神威岬に行く。

昨日の夜、考えるのが嫌になった私は、後悔を引きずったまま旅行するくらいなら、と開き直りF氏が眠るのを横目に勝手に神威岬リベンジを決定した。昨日はかなり距離を走って行きたい観光地を巡れた上、飛行機は一日前の便で来たので日程には腐るほど余裕があり、リベンジの時間は十分にある。F氏には朝起きてすぐ伝えたが、悪友の無茶への慣れなのか、彼の器の大きさなのか、単に寝ぼけているのか、割とすんなり受け入れてくれた。まったく我が儘な同行者を持って大変だなぁ(爆)

神威岬にアタックする前に朝食。ここは小樽、港街である。港で朝、となると朝市に行くしかない。昨日、ろくなものを食べれなかったのでこれもリベンジなのだ。というわけで、鱗友朝市という場所にやってきた。時間が遅かったのか、コロナで観光客が乏しいのか、賑わいは皆無といっていいが店は開いていた。小樽丼というのを頼む。

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しびれる美味さだ。なんだこれは。醤油かけた海鮮丼なのに強く甘みを感じる。うまい。いくらもうにもサーモンもうまい。なんだこれは。(私は情動が一定ラインを越えると語彙不足に陥る傾向があるので悪しからず。)思えば、うには20年生きてきて初めて食べた気がする。初めて食べたのがこれほどうまいと他の機会に食べたとき感動がなくなってしまうのでは、と心配になった。値段を言うのは野暮なので、昨夜の宿代よりも高かったとだけ言っておこう(goto+クーポンの威力)。しかし、その価値は十二分にあった。

我々だけ美味しい食事というのも不憫なので、デミ夫にもガソリンを与える。北海道は街の間の距離間隔が異常に広いから気を付けろと散々言われたので、ガソリンはこまめに入れようと決めていた。余市付近にある「モダ」というガソリンスタンドに立ち寄った。その奇天烈なネーミングと妙に派手な看板で怪しい感じだが、ぐーぐる先生によるとこの辺りでは最も安いようだ。

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モダではセルフ給油中にしきりにモダカード、略して「モダカ」と呼ばれる割引カードを勧めてくる。これは作るのに100円かかるので、一回きりの給油でそんなんいるか、と思って聞き流していた。だが、これはこの旅行唯一といっていい後悔ポイントだった。実はこのよくわからない怪しいガススタ「モダ」はなんと全道に広く分布していて、大抵の街で一番の安さを誇っていたのだ。結果的には、この旅のほとんどの給油をモダで行うことになったのである。モダカは確実にお得だったのだ。北海道をレンタカーで巡る人にはぜひ、モダカを作ることをおすすめする。

モダ➔神威岬

話が脱輪した(車旅行なので脱線とは言わない気がした)。ガソリン満タンのデミ夫は海沿いの道を快調に走る。晴れてきたので景色はとてもよく、この分なら神威岬もきっと綺麗だぞ、と思っていたら岬まであと少しの所で急に曇ってきた。灰色の雲が岬を覆っている。昨日入れなかった岬へ向かうゲートは開いており、昨日の出来事を思い出して軽く憤慨していると駐車場に着いた。さあいざ岬へ、と意気揚々ドアを開けた。

閉めた。

ものすごい寒さだ。風が冷たすぎる。なんだこれは。
あわてて上着を出したら、半袖と長袖の間くらいの袖の長さのものを持ってきてしまったことに気付いた。仕方ないのでそれを着て、ドアを開ける。

閉まる。

風が強すぎてドアが閉まってしまうレベルである。
気温は低くはないのだろうが、平均風速は12~15m/sくらいあるのではないか(高校でなぜかヨット部にいたので何となくわかる)。しかし、ここまで来て帰るわけにはいかない。ようやく車から出て、上着が持っていかれそうになるのをなんとかしのぎながら岬の方へと登っていく。風は強まる一方だ。途中、風上に背中を向けて立つと、もたれられそうな感覚で面白い。前衛的なダンスかな、と思えるほどの前傾姿勢で歩いて女人禁制の門までたどり着いた。

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この暴風なので覚悟はしていたが、やはり岬先端部は立ち入り禁止になっていた。しかし、意外と悔しさは無い。これほどの暴風になると、立ち入り禁止は大いに妥当だし(下手に行ったら吹き飛ばされそう)、風自体がもはや貴重な体験である。人間はあまりにも程度が過ぎると笑いが込み上げてくるようで、あの時あの場所にいた人々は皆笑顔だった気がする。我々も互いの落武者のようになった髪型を発見するなどして終始ゲラゲラ笑った。

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頭部が変形してるように見えて大変不気味だが、これはパラサイトではなく暴風をくらっている私である。
そのあと少し高台に登ると岬の先端がよく見えた。強風により雲がすごいスピードで移動していく中、一瞬だけ晴れ間が覗いて、岬を照らした。神秘的であった。アイヌ民族がこの地をカムイと名付けた理由がよくわかる。

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自然の美しさと厳しさ、両方を味わうことができてとても満足だった。

神威岬を立ち去る。岬から遠ざかることわずか2,3キロ、なんとあれだけ厚かった雲はすっかり晴れてしまった。振り返ると、岬だけが雲に覆われている。冷静に分析するなら積丹半島の山が西側からくる雲を遮っていて、岬の方に流れていくのだろうが、その雰囲気はやはり神がかっている気がしてならない。こんなん絶対カムイいはるやん。

神威岬➔黄金岬

神威岬と小樽の間は一本道なので来た道を戻るしかない。海があまりにも綺麗なので途中で砂浜に降りてみた。積丹ブルーと呼ばれる青が砂浜に映える。写真をパチパチ撮る。波打ち際で夢中で写真を撮っていたら起こる出来事は安易に想像がつくよね。

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この写真を撮った約0.5秒後、私の両足は積丹ブルーの波に沈んだ。靴下が海水に侵食される気持ち悪い感触が足首を包む。あわてて裸足になって砂浜を駆け上がったら、砂が火傷するような熱さになっていた。フライパンの上のポップコーンのような挙動を見せつつ何とか水道までたどり着いた。F氏は呆れ顔。つくづく間抜けな同行者ですまないと思う。

気を取り直して進む。Googleマップで見つけた黄金岬という場所に寄ってみた。どこから岬に入ればいいのかわからず港をうろうろしていたが、しばらくしてようやくトンネルの横に展望台へ向かう階段を見つけた。なかなか急な階段を登ってしばらく行くと、岬の先端に木で組まれた展望台があった。

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展望台からの景色は素晴らしかった。海がすごく青く見える。積丹ブルーの名は伊達じゃない。

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岬の先にある小島は宝島というらしい。目的地をえっがくんだ~たからじまあああ(唐突なサカナクション、車内で聞いてた)
そういえば今日の目的地まだ描けてないぞ。どこに泊まればいいんだ。

風が涼しくて心地いいので離れるのが名残惜しかった。階段を降りて港のあたりまで戻ると、黄金岬という名前につられてきたとおぼしき観光客が幾人も入口を見つけられずに右往左往している。良い所なので自信を持ってもう少し大きい黄金感のある目印を用意してほしい。デミ夫に乗り込み出発。

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しばらく行くと、海にロウソクみたいな岩がぽつんと立っていた。あとから調べたら、やっぱりローソク岩というらしい。まんますぎて面白くないし、指っぽいので今話題の呪術マンガにあやかって「両面宿儺の指岩」とかにしたらどうだろうか。わからない人は少年ジャンプでも読みたまへ。ちなみに私は松田デミ夫の名付け親であることから分かる通りネーミングセンスが皆無である。ちなみにこの岩は1940年までは二倍の太さだったらしいが、波に削られ文字通り風前の灯状態のようだ。

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朝が豪華だったので昼飯は三日目にしてすでにおなじみのセイコーマート。100円くらいで買える惣菜も豊富で、おにぎりやスパゲッティーは常に100円均一と安さの殿堂だ。茶碗蒸しがあったので買って食べてみる。しっかり大きいホタテが入っていて普通にうまい。下宿の前にできてほしいと切に願う。
腹ごしらえをしながら、今後の予定を考えた結果、定山渓を回って札幌で泊まることにした。昨日に比べて移動距離がやたらと短いが、先はまだまだ長いし焦ることはない。小樽から道道1号を抜けて定山渓に向かう。途中、市街地を意地でも通りたくないカーナビとGoogle先生の謎案内でやたら細い道やアップダウンの猛烈に激しい道などを案内され惑わされるなどした。マップのルート選択に距離優先、時間優先の他に「常識優先」の項はないのか。定山渓まではそんなにかからないだろうと踏んでいたが、意外と山道だったのでへっぽこドライバーにはいささか骨がおれた。

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でかいダムの横を通ったりした。北海道にあるものは基本的に巨大な気がする。小樽の水供給を一手に担う朝里ダム。これはあれだな、超大型巨人が出てくるやつ。

北海道を走っていて思うのは、工事しすぎではないかということだ。この道道1号なんて定山渓まで着く間に5,6箇所は片側規制区間があった。トンネルの中もいきなり工事してるので怖い。そんな集中的にするものなのだろうか。北海道の道路事情は謎が多い。

ゆっくり走ったので定山渓に着いたのは3時ごろになった。駐車場を探すが一時的に泊めておける場所が見つからず、仕方なく日帰り温泉の広い駐車場に停める。

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結論から言うと、温泉に入らない定山渓巡りはただの川見物だ。深い渓流できれいといえばきれいなんだが、曇天で水量が少ないともなるとなんとも微妙でいまいち迫力に欠ける。

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素敵な景色ではあるのだが、ここまで北海道で見た景色が壮大すぎた弊害が発生してしまっているのは否めないし、山道を走った疲れもあった。あくまで個人の見解である。今度来るときはちゃんと温泉に入りたい。定山渓を出て札幌市街へ向かう。

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しばらく行くと市電が横に出てきた。自分が運転する車が路面電車のあるところを走るのは初めての経験なので少し怖い。でも私は路面電車大好き人間なのでかわいい車両が前から走ってくるのはとても楽しい(F氏はよそ見がちな私を見てひやひやしている。)

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うひょー、これは怖い(歓喜)。モーターのうなりが聞こえる街は大好物である。しばらく並走を楽しみ、市街地のホテルに着いた。車を止めようとしたが、またも駐車場が驚異的に狭い。市街地で無料なので仕方ないといえばそうだが、乗車歴二年そこらのぺーぱーどらいばあが駐車するには厳しすぎやしないか。悲鳴をあげながら5,6回切りかえして何とかデミ夫を隙間に入れた。チェックインを済ませて街へ歩いて出る。もう車を出すのは御免だ。

さて、待ちに待った晩飯の時間だ。すすきのに行きつけのラーメン屋がある。と言ってみたがまだ二回目である。二年前の冬の北海道旅行で最後に食べたのがここの味噌ラーメンであった。私の中にあった味噌ラーメンの概念を覆す美味しさだったのでまた来たいと思っていた。

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見た目がもう美味しい。今や私の中で味噌ラーメンといえばこれだ。スープまで完飲するのは塩分濃度的に健康に悪いらしいが、無視。健康を度外視して飲んだ。最高。

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満腹になってすることも無いのですすきのをだらだら歩く。まだ外は明るいが、二人とも札幌には何度か来たことがあり、疲れているので人の多い観光地に行く気にもならない。しかし、まだホテルに戻るには早いので、私の提案(脅迫?)で環状線になった路面電車を一周することになった(な ぜ な の か)。電車で一周する間に明日の行程を考えたりするもまとまらない。

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市電を降りるとさすがに暗くなっていた。この時計のある交差点は、札幌が舞台のマンガ、波よ聴いてくれのOPで出てきたので、同じくアニメを見ていたF氏とちょっと盛り上がった。

翌日の行き先が決まらないままホテルに戻ってテレビをつけると天気予報をやっていた。明日は、道内ほぼ全域で雨予報とのことでしかめっ面をしていると、唯一晴れマークを煌々と輝かせる土地があった。それは道北。しめた。無計画の強みは雨雲から逃げられるという点にあるのだ。行き先は決まった。

四日目は、日本最北の地、稚内に行く。
だが、我々は道北を甘く見ていた。
我々はこの日、死を覚悟することになるのだ。





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