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ライブコマースでモノは売れるのか

中国での流行を皮切りに一時期トレンドワードとなった『ライブコマース』。
日本でもライブコマースを主軸に据えるインフルエンサーやプラットフォームが生まれ、小売の新たなジャンルとして注目を集めてきた。
ここ最近あまり話題に上らなくなっていたライブコマースだったが、先日三越伊勢丹が配信したプレスリリースによって再注目されることとなった。

本文をよく読めば『三越伊勢丹が過去に実施したライブコマースで、過去最高のEC売上につなが』ったという話なのだが、タイトルだけ見て『ライブコマースによって過去最高のEC売上を叩き出した』と誤読した人も多かったようだ。(※1)
それ自体は広報の書き方のうまさであり、結果的に小売界隈以外でも話題になっていたので素晴らしい手腕と言わざるを得ないものの、これだけみてライブコマースに可能性を感じる人が増えるのは危険なのではないかと私は考えている。

なぜならば、ライブコマースはやればモノが売れる魔法のフォーマットではないからだ。

ライブコマースは『テレビショッピング』ではない

よくライブコマースはテレビショッピングを現代版にアップデートしたものだと言われる。
私も以前はそう認識しており、今もその表現には一理あると思いつつも、ライブ配信とテレビショッピングの間には大きな違いがあると考えている。

それは、ライブ配信の『双方向性』だ。

テレビショッピングは、旧来型のテレビのフォーマットに従っているため一方向性であり、商品のよさをひたすらプレゼンすることが求められる。
一方で、ライブ配信は常に画面にコメントが表示され、そのコメントを受けてリアクションしたり、リアルタイムでリクエストに応えることが期待される。

私は日頃イベントのファシリテーターも務めることがあるので、この『双方向』的コンテンツの難しさを嫌というほど感じている。
双方向性が強ければ強いほどコンテンツクオリティのコントロールが難しく、発言者をたてれば観客がしらけ、観客を優先させれば発言者に不満が残るという絶妙なバランスをとりながら進行しなければならないからだ。

また観客の参加が動画上のコメントである場合はさらに困難を極める。話を進行させつつも一瞬で流れていく滝のようなコメントに目を通し、文脈に愛想な話題をピックアップして、話の流れに乗じて紹介するなど聖徳太子と同じかそれ以上のマルチタスク能力が必要とされる。

だからといってコメントへの反応を減らして淡々と商品紹介をするだけでは従来のテレビ番組となんら変わらず、コメント欄の『世論』は演者から遠のき、批判が渦巻くことになる。

ライブコマースに限らず、現代のライブ配信はこの『コメント』が曲者である。
たとえ小さな違和感であっても、他人が言葉にすることでそこに確信が生まれ、自分の主張にお墨付きを与えてくれる。
よくもわるくもコメント欄という存在は感情の増幅器であり、コンテンツに対する『わかる』でつながる場所なのだ。

つまりライブコマースは例えるなら、テレビショッピングそのものよりも『それをみながらTwitterであれやこれや実況すること』に近いのではないか、と私は思っている。

たとえばラグビーのW杯では多くの人が中継を見ながらツイートしていた。さらに日曜の夜にはそのドラマ名がトレンドに上がるほど大河ドラマへの言及が増え、バチェラーの新作が公開されれば一様に考察を述べる。

ライブ配信はこうした『あれやこれや言うことでゆるやかに人とつながること』がより凝縮された場であり、ついダラダラとテレビを流し見していたらたまたま切り替わってしまったテレビショッピングとは根本的なコンテンツ体験が異なるのだ。

『コンテンツ』から『コンテキスト』の時代へ

前述の通り、ライブコマースはそのコンテンツへの出会いからしてテレビショッピングとは趣が異なる。
テレビショッピングが視聴される理由が『暇な時にチャンネルを回していたらマシな番組がそれしかなかったから』と長らく言われてきたように、テレビには枠という制限があるが、インターネットにはそれがない。(※2)

インターネットを主戦場とするライブコマースの動画は『暇な時にたまたま出会ってしまった』というたどりつき方をしてもらえる可能性が低く、『わざわざ見に行きたい』と思ってもらえる作り方をする必要がある。

しかしここで生じる矛盾は、モノを売り込むための動画を誰も見たいとは思っていない点である。
中国以外でライブコマースプラットフォームが苦境に立たされているのは、この矛盾によるところが大きいのではないかと私は考えている。

一方で、結果的にライブでモノを売っているブランドはすでにたくさんある。

365日毎日ライブ配信を続けたことで有名になったCOHINAを筆頭に、SNSを中心に支持を集めるfoufou、アパレルブランドの中でもインスタ活用が抜群にうまいと言われるAmeri Vintageなど、そのほとんどがインスタライブを使っている。

インスタライブでは(今のところ)直接購入につなげることはできないにも関わらず、ブランドたちがライブコマースプラットフォームではなくインスタライブを使うのは、そこにファンがいるからに他ならない。

さらにファンからしても、フォローの動機が『インスタライブを見たい』に変わりつつあるのではないか、とすら思う(※)。

インスタライブでは、基本的にフォロワー以外が配信開始に気づくことは難しい。つまり見ているのはほとんどがファンであり、そのブランドのコンテンツ配信を楽しみにしている、というマインドが醸成されている。
畢竟、そこでのコメントのやりとりは好意的なものに溢れ、ファン同士でコンテンツに突っ込んだり配信者とやりとりしながら、平和なコミュニケーションの場が形成されていく。

この連続したコミュニケーションを根底にしたブランドとしてのコンテキストこそがライブ動画配信の肝であり、モノはその『結果として』売れるのではないか、と私は思うのだ。

要するに、ライブ配信単発ではなくライブ配信によって積み重ねられたコンテキストによってモノは売れるのだ。

『購入』にいたる裏には複数の『コンテンツ』がある

これはライブ配信に限ったことではなく、テキストや写真でも同じことが言えるだろう。

もちろんアフィリエイト的なLPの作り込みによって売れるものもあるし、淡々と物撮り写真にショッピングリンクをつけてインスタ投稿するだけで売れるブランドもあるだろう。

ただ、コンテンツ単発で売ることを考えることの弊害は、10倍売れるには10倍コンテンツを作る必要がある点にある。

一方でコンテキストを積み重ねてきたブランドは、アカウントに紐づくファンが増えることで1コンテンツごとの売上が増え、年数が立てば立つほど1コンテンツあたりのROIが下がっていく。

もちろん実際にはそう理想通りにいくことばかりではないだろうが、コンテンツを『いかに金を生み出したか』だけで個別に判断してしまうと、まわりまわって金を生み出す力を弱めることにもつながりかねないのだ。

私が『ライブコマース』と聞いて覚える違和感は、まさにここにある。

本来購入は『AをみたからBを買う』と単純に表せるものではなく、複数チャネルでの接触を積み重ねたことによって生じる現象だ。

広告や口コミや検索や店頭での発見など、日常生活の中で何度も触れた中で、あるとき心が『買う』に動いた瞬間、人はお金を出す。
その場所はECであったり店舗であったり、今ならメルカリやインスタということもあるかもしれないが、それらはほとんどが『アシスト』的な役割であり、意識的にせよ無意識的にせよもっと前段階で接した情報も意思決定において大きな役割を担っている。

ライブコマースにかぎらず、コンテンツとコマースを直接的に考えすぎることの弊害は、こうした前提にある無数の情報接触を無視して単独のコンテンツのみで購入に至らせようとすること、その結果としてコンテンツの質が落ちてしまうことにある。

今口コミや中立的な批評誌としてのLDKが人気を博しているのは、データによって最適化されたインターネットの世界で『コマースに直結させるためのコンテンツ』が増えすぎた結果、それらのコンテンツに辟易している人が増えたからなのではないかとすら思う。

ブランドがモノを売って生計を立てている限り、最終的には売るためにコンテンツを作らなければならない。
しかし現代において本当にモノを売るのは『コンテンツ』ではなく『コンテキスト』なのではないかと私は思うのだ。

※1...たとえ実際に過去最高EC売上を記録したとしても、その意味するところは「瞬間最高売上」の話であり、ライブ配信によって1つの商品を紹介すれば瞬間的に最高売上を更新することはそう難しくないのではないか、という見方もできる
※2...『出会い方』という切り口だけで考えるなら、テレビショッピングのインターネット版はTikTokのコンテンツなのではないか、と思う。暇なときにTikTokを立ち上げるのがテレビをつける行為だとするならば、ザッピングする中でたまたま出会ったコスメ動画にハマっておすすめコスメを検索して購入した…という体験はまさに "テレビショッピング的"だ。と思っていたら、TikTokもコマース機能搭載をテストし始めたということでますますテレビショッピング化に拍車がかかりそうだなと思っている。
※3...『ストーリーズを見たい』という動機も大きい気はしている。何はともあれ、そのブランドの最新情報について知るためにフィード投稿ではなく通知が可視化されやすいライブorストーリーズに動機が移行しており、それらの更新が頻繁ではないアカウントは『保存』機能でスクラップはしてもフォローはしない、という行動が増えているように思う。

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