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スポーツ選手のYoutuber化はセカンドキャリアのロールモデルとなるか

昨年あたりから、Youtubeをはじめる元野球選手が増えてきた。
その草分け的存在が高木豊チャンネルである。

プロ野球ファンには言わずとしれたレジェンドで、解説者としても人気が高い高木豊さんのYoutubeには、OB・現役を問わず豪華ゲストが出演することも人気の理由である。

同じく元ロッテの里崎選手のYoutubeチャンネルも、彼の元来のしゃべり上手なキャラクターも相まって人気が高い。こちらも現時点で登録者数は22万人だ。

さらにYoutubeの波は現役選手にも広がっている。
その代表格がダルビッシュ有選手。

もともとTwitterの発信も積極的に行ってきたダルビッシュ選手のYoutube動画はSNSでもたびたび話題になり、ニュースにも取り上げられるなど短期間で視聴者数を伸ばしている。チャンネル登録者数はすでに40万人を超える。

こうしたチャンネルの人気もあり、OB選手を中心にYoutubeの開設が増えてきた。

野球選手のセカンドキャリアといえばコーチか解説者を想像する人も多いが、それらの仕事は実はとても狭き門である。
コーチの枠も解説者の枠も一定数しかないにも関わらず、引退する選手は毎年増え続けていくからだ。

こうした背景を踏まえると、スポーツ選手がセカンドキャリアの選択肢としてYoutubeに活路を見出すのも当然の成り行きのように思われる。

一方で、Youtubeはすでに芸能人も参入し始め、どんどん競争が激化し始めている。
広告単価も下落傾向にあり、2019年時点では1再生あたり0.1円がおおまかな相場とされている。
つまり100万回再生されたとしても広告収入は10万円。
安定した収入を得るには、数十万回再生される動画をコンスタントに作り続けなければならない。

さらに時事ネタ系の動画は賞味期限が短いため、ロングテール的に稼ぎ続けてくれるコンテンツにはなりづらいという問題もある。
例えば順位予測や選手の移籍への考察は一瞬の需要は高いが、そのあと継続的に見られるコンテンツにはなりづらい。

もっともストック性が高いのは教育的なコンテンツで、例えば試合の場面ごとに配球の考え方やバッター心理などを解説する動画は数年後も価値が落ちづらい。
また学びのある動画はチャンネルオーナーやゲストの知名度にも左右されづらい。

実際、Youtubeではストレッチや筋トレ、英語などHow to系のコンテンツはその運営者の知名度ではなく中身の質によって人気が出た例も多い。
書籍の内容を5分で解説するといったシリーズも人気を博している。

「学び」と「動画」はとても相性がいい。

しかしここで問題となるのが、選手たちは試合動画が使えないという点である。

野球の「見方」を指南する動画を作成するとしたら、試合動画は必要不可欠である。

ところが試合の放映権・著作権は球団にあり、個人が勝手に使用することはできない。
球団としても何億・何十億という単位でお金が動く放映権ビジネスにおいて、試合動画をたとえ一部だとしても無料で見られるYoutubeにアップする許可を与えることはできないだろう。

野球に限らず、プロスポーツは大きなお金が動くコンテンツビジネスであり、試合はお金を生み出す資産である。

一方で、ファンからするともっと複数の解説を聞きたいというニーズもあるはずだと私は考えている。

例えばバチェラーやテラスハウスが人気を博しているのは、原液となるコンテンツに副音声という味付けがされているからなのではないだろうか。
さらに、公式の副音声だけではなく、そのコンテンツをもとに考察ブログや音声解説やSNSでの解説など、『感想』のバラエティがあるからこそ自分に近い感想を見つけることができ、それが新しいコンテンツ消費の楽しみ方につながっている。

同じことはスポーツ観戦にも言えるのではないかと思う。
ここ数年でライトファンが増えたこともあって、ただ試合を見るだけではなくプレーをちゃんと理解してもっと観戦体験を豊かにしたいと思っている潜在層は意外と多いのではないだろうか。

この課題を解決するには、各球団公式の動画配信サービスやDAZNなどのプラットフォームが元選手たちを起用した解説コンテンツを増やしていくのが手っ取り早いのではないか、と個人的にずっと考えている。

もちろん実現するとなるとあれやこれやの壁があるとは思うのだけど、ファンからすればハイクオリティな解説コンテンツが視聴できて、OBからすればセカンドキャリアの選択肢が増えて、配信サービスからすれば限定の立地コンテンツが増える、三方よしの取り組みな気がしている。

Youtubeのデメリットは無料で多くの人に届きすぎてしまう分、専門的な話よりもわかりやすいセンセーショナルなネタを作ろうとするインセンティブが働いてしまう点である。
もちろん球界の裏話やゲストトークもファンが求めているコンテンツのひとつではあるけれど、ワイドショー的に消費されることは長期的なファンの醸成につながりづらい。

それよりも有料でも見たいと思っている層に良質なコンテンツを届け、そこでの人気度や再生数によって売上分配してもらう方が、安定して積み上げ型のコンテンツを作りやすいのではないかと思うのだ。

ちなみに個人的な意見をいうと、高木豊さんの真髄は解説にあると思っている。
シーズン中にDAZNで見る試合を選ぶとき、対戦チームよりも豊さん解説の試合を優先して見るくらい、解説のクオリティが高く毎回勉強になる。

もちろん私のように解説にこだわるファンはほんの一部だと思うけれど、むしろ今後解説コンテンツが人気になっていけば、元プロ野球選手ではなく一般人でも人気解説者になる人が出てくる可能性もある。

実際、Twitterの世界では一般人でありながらその的確な解説で人気を博している人たちがごろごろいる。

しかし彼らもOB選手と同じく公式コンテンツを利用できない上に、解説の仕事は元プロ野球選手で枠が埋まっているため、解説という価値でマネタイズができない状態なだけなのではないかと思うのだ。

球団としても、解説してくれる人たちが増えて再生回数が増えれば、自社サービスであれば課金者が増えるし、外部サービスの場合は放映権の販売額を引き上げることができるはずである。
公式で解説コンテンツの種類を増やすことで、結果的に違法動画の価値を下げて悪貨を駆逐できる可能性もある。

あともうひとつ、もし私が配信サービスをやるとしたら、友人とリアルタイムで感想をシェアしながら試合観戦ができるチャットルームのような機能を作ると思う。

多くのファンは、配信サービスを見ながらTwitterか個別のメッセージングサービスで友人と感想をシェアしている。
私もリアタイ視聴の時はTwitterに常駐しているし、友人とのメッセンジャーグループでリアルタイムに感想を共有することもある。

しかし公開でSNSをやっていない人もいるし、わざわざ通知がいくタイプのサービスでメッセージを送るのが憚られる人もいるだろう。

だからこそサービス上で任意のグループを作り、友人アカウントを招待して一緒に視聴しながらチャット形式でコメントできる機能があれば観戦体験がより豊かになるのではないかと思うのだ。

よくライブ配信でコメント機能があるけれど、知らない人の割合が高い場で発言できる人は限られている。
それよりも知り合いやmixiのコミュニティのようなすでにつながりのあるグループの方が、参加者の心理的安全性が確保されやすい。

これはスポーツにかぎらず、ライブ配信サービスが有料オプションで提供すればいいのになと思っている機能の一つである。

そして最後に、もし配信サービスとしてオリジナルコンテンツを作るなら、私だったらスポーツファンではないビジネスパー辛に向けた『プロジェクトX』的なシリーズを作るだろうなと思う。

私はたまにnoteで野球に関するコラムを書くのだけど、その際に意識していることは野球好きだけではなく野球に興味がない人にも読んでもらえるように抽象化した学びにつなげることだ。

一瞬野球ネタとはわかりづらいタイトルと導入文にしたり、選手のSNSをSNSマーケの視点につなげたりと、普遍性を強く意識している。

こうした工夫をする前は野球ネタだけPVもいいね数もガクッと下がっていたけれど、最近では普段のnote以上に読まれることも増えてきた。

さらに昨年私が取材・執筆を担当した栗山監督のインタビューは、スポーツをビジネス文脈に翻訳したことで普段のビジネス記事ど同等かそれ以上のPickをしてもらうことができた。

(有料会員限定記事ですが途中までは無料で読めます)

コメント欄にも『普段は野球を見ないけれどこの記事は勉強になった』『野球に興味がでた』という感想をちらほら見かけ、小さな達成感を味わったことを昨日のことのように覚えている。

このように、プロスポーツからは仕事への姿勢やマネジメント、キャリア戦略など一般のビジネスマンが学べることも多い。

さらにファンマーケティングや地域コミュニティの文脈からも、スポーツビジネスは先進事例として今後注目されていくはずだ。

しかしスポーツをビジネス文脈に翻訳できる人やメディアは少なく、スポーツはスポーツ、ビジネスはビジネスと切り分けられている。

ベイスターズが『アクティブサラリーマン』をターゲットにして観客数をV字回復させたのは球界では有名な話だが、性別や年齢に限らずプロ意識を持って仕事をするビジネスパーソン層はまだまだ開拓の余地があると個人的には思っている。

この二つをつなげていくことで、選手のセカンドキャリアとしても野球だけに囚われず、プロとしての考え方や教育などの面でコーチやアドバイザーとして活躍する人も出てくるのではないかと思う。

野球をはじめ、プロスポーツ選手はこれまで『その競技だけに特化した人』だと思われてきた。
引退して競技者としての価値を失ったら、現役時代よりも収入が減ったりやりがいのある仕事に就きづらいという諦めも選手たち自身にあったのではないかと思う。

しかし彼らが競技を通して得た専門知識も、人としてのコモンセンスも、絶対に価値がある。
そしてインターネットによって直接ファンとつながり、自分で発信できるようになったからこそ、その価値を認めてくれる人と適切にマッチングできる可能性も高まった。

だからこそプラットフォームの仕組みが整うことによって、彼らのポテンシャルが最大限に発揮される場がもっと増えて欲しいといち野球ファンとして強く思うのである。

★noteの記事にする前のネタを、Twitterでつぶやいたりしています。


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