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漫画「ハローブランニューワールド」のこだわり - 読みやすいページ作り【後編】

cakesで連載させていただいている漫画「ハローブランニューワールド」。作り手としては、いろいろこだわっているところがあります。

次のパートが始まるまで、そういう部分を少しずつ解説してみようと思います。完全に個人の趣味な内容ですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。

今回は「読みやすいページ作り【後編】」です。前編から読みたいという方は、こちらから。


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※本投稿は、実際の漫画のスクリーンショットをたくさん使用しています。そのため、特大ボリュームになってしまいました。もちろんネタバレも含んでいます。

でも、技術的なまとめが分割投稿になると読みにくいと考え、今回はあえて長いままいきます。

みなさま、心してかかって下さい。



1列3コマページのデメリット、おさらい

さて、こだわり【前編】では、色んな制限を踏まえた上で、ウェブ連載で読みやすいページを作ろうと、「1列3コマページ」に行き着いたという話をしました。

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改めてこれのメリット・デメリットを振り返ると、

メリット

・縦スクロールでも読みやすい、情報を取りこぼしにくい
・一コマが大きく、画面サイズが小さくなっても可読性が落ちにくい
・コマ割りが最初からほぼ決まっているので、進行の計算がしやすい

デメリット

・コマ進行が単調になりやすい
・少ないコマ数で話が成立するように工夫が必要
・1コマが大きい分描き込みが増える

ということでした。

この【後編】では、これらデメリットを改善・緩和するために行っている工夫を5つご紹介しようと思います。


工夫1:主要素の配置

コマ内の主要素の配置には意味があるよ、というはなしです。

基本的に、主要素(キャラの顔や)が中央にある時は、表情や言動に注目して欲しいときです。ちょっとドラマチックな感じにもなります。

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逆に、主要素が左右に触れている時は、キャラの関係性・掛け合いが重要な時です。

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例えば上は、キャラを描く位置を左右に振って、テンポの良い2人の会話を表現しようとしました。これなら、縦スクロール読みでも、あまり邪魔にならない横の動きがだせるのではないでしょうか。

また、これの補足として「逆Z」と「余白」を意識しています。

逆Zは目の動き方のことです。日本語の漫画は、右上→左上→右下→左下と、”逆Z型”で読み進めていきます。なので、見てほしいもの・読んでほしいものの順序が、これに逆らわないように気をつけています。

余白は読んで字の如し。人は画面上の真っ白(真っ黒)の空間を無視する傾向があります。したがってコマ内に余白があると、それとは反対方向に目が行きます。また、余白のサイズによって時間や空間の広がりを感じたりもします。

こういうところを利用すれば、読んでいる人の目線を、自然に誘導できる…はずです。


工夫2:コマの連続性

コマ同士のつながりにも工夫のしどころアリです。

コマの前後で内容が繋がっていない部分は、カットの切り替わりを表現しています。

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縦スクロールで漫画のページが連なっていると、ページの切れ目がわかりづらいです。1列3コマのレイアウトは、言ってしまえば縦にながーく続くコマの連続だからです。デメリットに挙げた、このレイアウトが単調になりやすい原因だと思います。

そこで、前後と連動していないコマを、切り替わりの”目印”のように差し挟んでやります。そうすると単調なスクロールのリズムが変わって、場面の変わり目がわかりやすくなるのではと考えました。

逆にコマの前後で内容が繋がっている部分は、当然ですが基本的にワンカットです。下記のページはそれを考慮して、さらに工夫しました。

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一枚絵を区切って3コマにわけ、2コマ目はBロールのような絵を入れる。上から下への動きを利用して、ドクターの顔から始まり、次ページに出てくるりんごまで、自然に見せることができます。一枚絵としては切れてしまっているものの、前後のコマに連続性があるので、このページは同じ場面という印象を保てます。

ちょっとこういうページが挟まれば、縦スクロールでも漫画的な楽しさが確保できる…はずです。


工夫3:言動の一致

これは以前「アイシールド21」や「HUNTERxHUNTER」なども担当されたジャンプ編集の齊藤 優氏がブログ記事にもされていた「言動の一致」。どういうことかというと…

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という具合です。これが揃っていないと、文字情報と絵情報に差ができて、違和感となります。この違和感は気持ちよいスクロールの邪魔になります。立ち止まって考えないといけないからです。「読みやすさ」を考える上で大きな影響がありそうです。

それを踏まえ、下のページは言動の一致が盛りだくさんです。

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…スクリーンショットがピンクい。

1・2コマ目ではそれぞれ「満たす」「満たされない」の言葉と、カップ・ポットの動作を一致させています。そして次の3コマ目で、それまでのふたコマを指差し、見上げることで、「それ」という代名詞がどの部分のことか強調しようと考えました。加えて、コーヒーを”知”の比喩として扱ってもいます。(「知を満たす」からコーヒー(=”知”)がカップに注がれ、「満たされない知」だからポットが空になっている)

また、こんなしかけもあります。

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こちらは動作とセリフではなく、カメラアングルとセリフの一致です。同じポーズを別角度から見る、という”一致”を作り出しています。キャラ絵+セリフを繰り返していると、どれだけ工夫してもやっぱり飽きがくるので、こういうひねりも必要だと思います。


工夫4:キャラの表情やセリフ以外の表現

工夫3までは主に、主要素(主にキャラクター)・コマ・吹き出しの関係の話でしたが、工夫4はその他の要素の話です。

まずは背景。実はこの漫画にはほとんど背景がありません。僕が背景を描くのが苦手というのが一番のりy…… 背景を描き込みすぎると、やっぱりページがごちゃごちゃしてしまいます。

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基本的に背景は、画面バランスの調整に少し色を敷く程度です。が、例えば上の2コマ目のように補助的に扱うことがあります。こうやって1本背景の線を引いておけば、ドクタがどんなうごきをしたかがわかりますよね。

この漫画に無いものと言えばもう一つ、「効果音・効果線」です。

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これは”できるまで”でも少し説明しました。要は、わかりきったことをあえて書く必要は無いと割り切ったのです。上記画像の通り、キャラの動きから音なり動作なりわかるものは、徹底的に排除しています。これは画面をシンプルに保つと同時に、絵に注目してもらうための工夫です。

その他、さっき出てきた場面切り替え時のコマ。

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こういう補助的要素のコマで重要なのは、「過程」を描くことだと思っています。

このコマには手袋の落下「過程」が描いてあります。これによって「重力」や「空気抵抗」、キャラの「動き」も合わせて表現されます。同時にこれは、この前のコマから次のコマに至る間の時間的「過程」を描いているものでもあります。これによって、いきなり場面がすっ飛んだ?という混乱を回避できる…はずです。ストーリーや世界観を補完するような要素を描き入れることも大事ですね。


工夫5:手

「読みやすさ」というよりは「読みごたえ」の話かもしれませんが。

周りにもよく言われるのですが、僕は「手」を描くのが好きです。手は、顔以外では一番表情が多い「おしゃべり」な体のパーツだと思います。

具体例で言えば、これ。ADAMが初めて体を得て、ドクターからりんごを受け取るシーンです。物質世界との接し方がまだよくわからないADAMに、そっと優しくりんごを渡すドクター。

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ネームのままだと、ちょっと雑な渡し方に見えるというか、それぞれのキャラクターの気持ちが表現しきれていないと判断。下記のように変更しました。

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完成版のほうが、少しふわっとしているというか、りんごを大切にあつかっている様子が出ていませんか?手の動き方が変わるだけで、受け取る印象が変わる。手が”おしゃべり”な所以です。

手は描くのが結構めんどくさい体のパーツでもありますが、うまく描けると表現に幅がでます。文字に頼らなくても感情や想いを伝えることができるからです。いろんな制限を考慮しないといけない中、これは漫画の「読みごたえ」アップにとても有効…なはずです。


まとめ

「読みやすいページ作り」の話から少しずれてしまうので5つの工夫には含めませんでしたが、本編の補足として隔週くらいで「番外編」を投稿しています。

自分にできる範囲のみにはなってしまいますが、できるだけ漫画を楽しんでもらおうと思って、メインストーリーの補足的な内容を描いています。色々今後の伏線も含めてあります。よければこちらも読んでみてくださいね。

「読みやすさ」を追求することは、結局の所「いかに快く自分の話を聞いてもらうか」の追求だと思います。良いものを作るための探求は、難しいけど楽しい。工夫できるところはまだまだあるはずです。毎日色んな人の作品を見て研究を重ねます。

5つの工夫をご紹介しましたが、いくつか「…はずです」で終わっているところがあったと思います。理由は、今も試行錯誤の途中だからです。もっといい方法が見つかったり、新たな手法にたどり着いた時は、改めて紹介させてくださいね。


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ひゃーー、書いた書いた。汗

ここまでお読みいただいてどうもありがとうございました。そして、お疲れさまでした。

内容、どうでしたか?是非お気軽に感想などお聞かせ下さいね。

次は、最近担当の大熊さんとミーティングをしていて言われた、「価値観の転倒」について書いてみようと思っています。

もちろん、「ハローブランニューワールド」本編に興味を持ってもらえたのなら、ぜひ本編を読んでみてください!

Have a nice one ;)

Q

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