映画の感想 - 正欲

またも事前情報なしでチケットをジャケ買いした映画、「正欲」。

原作は朝井リョウの大ベストセラー作品らしいが、もちろん読んだことはなく映画の予告編すら観ていない。しかし、大当たりの大満足だった。

誰にも言えない性的指向を持ち、一般人に紛れようと必死で毎日を生きる者、性的なトラウマを抱える者、「普通」からはみ出ることを嫌悪する主人公の検事が関わりあい、これまで見たこともない物語が紡がれていく。

主題がなぜ「性欲」ではなく「正欲」なのか、その理由は登場人物の台詞によってではなく、物語の展開に合わせて、観客それぞれが理解する。

多くの層は、ひどく退屈な作品と感じるだろう。二時間ほどの上映時間の半分以上は登場人物の笑顔を見られない。嬉しいことの少ない、嫌なことばかりの毎日をひたすらに見せつけられる。

だが、まったく飽きない。苦痛になる場面はあるが、目を離すことはできない。人と違う性的指向者たちの思考は読めず、言動も理解し難く、また物語の展開も先が読めない新しいものだからだ。

登場人物が懇切丁寧に台詞ですべての心情を語り、ついでに物語の解説までしてくれないとこき下ろされる昨今のこの国にあって、とても稀有で価値の高い作品。

登場人物の表情や所作に注視し心情を探り、数秒で切り替わる画角や物体で以て物語の進行を把握する、集中力を使って観る甲斐ある、嬉しい作品。

他者に面白いかと問われたら、はっきりと「面白くはない」と答えられる。そして、誰にも鑑賞を勧めずにいられる。まったく勧めずにいられる。周りの誰もが面白さを理解できなくても、自分さえ分かっていればいい。

例に漏れず、満足度の高い作品は観賞後もしばらくは作品の中に留まり続けているような感覚がある。

公式サイトに「問題作か、傑作か」というコピーが掲載されていた。その問いには、自信をもって「傑作」と答えよう。


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