民藝の聖地で“働く”という選択。【善徳寺TELEWORK PROJECT メンバー対談 / 飯塚×林
富山県南砺市で、(一社)富山県西部観光社 水と匠と協働してquod(クオド)が進めている「善徳寺TELEWORK PROJECT」。民藝思想の創始者である柳宗悦が『美の法門』を書き上げた場所としても知られる善徳寺を、研修・宿泊施設として提案するプロジェクトです。手始めとなる2022年6月、書院を改修したテレワークスペースをオープン。メインメンバーの飯塚&林に、プロジェクトにかける思いや今後の展望を聞きました。
<メンバー紹介>
飯塚 洋史:quod共同代表。DMC(Destination Management Company)「(株)水と匠」社外取締役。本PJでは、資金調達含む物件の開発や研修プログラムの開発を担当。
林 誠一郎:quodメンバー兼フリーランス。本PJではwebサイトのディレクションやシステム管理を担当。
働くことで土徳に触れる
−まず、プロジェクト発足のきっかけを教えてください。
飯塚:8代目の蓮如上人が開いた城端別院善徳寺は、浄土真宗真宗大谷派の本山に次ぐ格の高いお寺です。善徳寺のある城端地区はこの寺ありきでできた寺内町で、歴史もかなり深いんですけど、まちとしての賑わいは減りつつあります。地域の文化を存続させるため、quodの外部パートナーであるDMO(Destination Management Organization)「水と匠」が、善徳寺を新たな形で使わせていただけないかとお寺側に提案したのがこのプロジェクトの発端です。
林:善徳寺って博物館級に規模が大きいんですよ。柳宗悦が滞在した部屋も当時のまま残っているし、所有している寺宝も1万点以上あるようなすごいお寺で。ゆくゆくは宿泊施設などの複合的な活用を目指していて、その第一歩として動き出したのが今回のテレワークスペースです。
飯塚:内閣府と南砺市の支援を受けて、善徳寺内の北の書院と西の書院をテレワークスペースとして整備しました。1日利用と月額利用のプランがあり、テレワークや貸会議室としての利用はもちろん、僧侶との交流や農業体験などのプログラムも自由に組み合わせることができます。
−なぜ空間の活用方法が「テレワーク」だったのでしょうか?
林:南砺をはじめとする富山西部には浄土真宗の信仰が強く根づいているので、伝統的な文化や仏教思想に触れることができます。この土地を訪れるだけではなく、“働く”という一歩踏み込んだ関わり方をすることで、富山の精神風土である「土徳」により深く触れてもらえるのではないかと考えたのが大きな理由です。実際に今、善徳寺周辺の地域は一流のクリエイターたちに注目され始めていて、東京から足繁く通う人もいるくらいなんですよ。
飯塚:京都や金沢のような華やかさとはまた違った美しさがあるんですよね。マスな観光地とは言えないかもしれないけど、知的生産をする人にとってはすごく示唆のある場所だと思います。今回、テレワークの空間はあくまで一つの装置でしかなくて、お寺を回ったり、この地域に残る散居村を眺めたり、現地に来て体感したものに基づいて“働く”ことで、初めて意味が生まれるのかなと思っています。
−以前、飯塚さんに富山のプロジェクトについて伺った際にも、「南砺では生活の中に仏教思想が落とし込まれている」と言われていましたね。
飯塚:そうなんです。昔から仏具職人もたくさんいた地域で、今でも南砺の井波地区には彫刻師たちの工房が軒を連ねています。脈々と受け継がれるものづくりの思想に触れられるところも、この土地の魅力なのかなと思いますね。うまく言語化できないんだけど、何か心に響くものがあるというか。
南砺の持つ力に魅せられて
−オープンに向けて、どんな道のりがあったのでしょうか?
林:主にwebサイトの制作は僕、資金調達や空間のつくり込みは飯塚さんという分担で、並行して動いていました。まずwebサイトに関してお話しすると、デザインはquodのホームページなども手がけてくださった平大路拓也さんにお願いして、写真は富山を拠点に活動するカメラマンの田中祐樹さんに撮っていただきました。
僕と平大路さんは普段は都内近郊に住んでいるので、基本的には遠隔で進行しながら、3月に二人で視察に行きました。ベージュがかった茶色のトーンなどは、現地の空気感からイメージをふくらませた部分です。
−写真の雰囲気ともマッチしていて素敵です。ロゴマークは何のモチーフですか?
林:これは切り株なんですよ。テレワークスペースに続く入口に大きな切り株があるんですけど、平大路さんが「今回のプロジェクトの象徴にするべきだ」って言ってくださって、僕だけでなく、関わっている人みんなが「その通りだ!」って瞬間的に同じ感覚になれたんです。あれは面白かったですね。カメラマンの田中さんも、平大路さんとはこれまで接点がなかったはずなのに、すごく自然に感覚を通わせて世界観を切り取ってくださいました。
飯塚:さっきお話しした南砺の“言語化できない魅力”の話とつながるんですけど、うまく説明できないんだけど「何かいいよね」っていう感覚をみんなで共有できるのも、このプロジェクトの面白さだと思います。
−土地の持つ力に惹きつけられた人が集まっているからでしょうか?
飯塚:それもあると思います。平大路さんはつい最近までドイツに住んでいたんですよ。量産的なものづくりに疑問を感じて、改めてバウハウスのデザインに触れたくなったそうです。そうした思いが南砺という土地や民藝思想とも通じるということで、今回のプロジェクトに興味を持ってくださいました。
−なるほど。確かにつながる気がします。
飯塚:いっちー(林)との視察の前に、一度平大路さんが南砺に来てくださったんですけど、車の中で二人でそんな話ばかりしていましたね。しかもその時大雪で、景色なんて全然見えないのに「何か感じるね」とか言って(笑)。
林:認識できる情報が絞られて、逆に研ぎ澄まされたんですかね(笑)
−自然の厳しさもしっかり味わえたということですね(笑)。では、空間づくりについてはいかがですか?
飯塚:富山出身の建築家で、チームラボの設計メンバーとしても動いていた浜田晶則さんに空間デザインをお願いしました。江戸時代から続く手漉き和紙「五箇山和紙」の職人さんや、城端の名産である「加賀絹」の老舗機屋「松井機業」さんなど、この地域のつくり手の方々にもご協力いただいて、壁紙や襖などを入れ替えていきました。
家具のデザインも浜田さんが手がけていて、テレワーク用の机や椅子には虫食いで使えなくなった富山産のミズナラを採用しています。机の脚は生分解する樹脂を使い、3Dプリンターで植物の幹をかたどっています。
−細部にまでこだわりが詰まっていますね。
飯塚:地域の文化を循環させることがこのプロジェクトの目的の一つなので、テーマにマッチするものを浜田さんと地元の職人さんたちと一緒につくり上げていった感じですね。浜田さんも基本遠隔なので、僕が職人さんのところに行ってオンラインでつないで、「よくわかんねえな」なんて言われながら進めたのが印象に残っています(笑)。
−想像するとなかなかシュールな光景ですね(笑)。人と土地と思想と、全てが“循環”というキーワードでつながります。
飯塚:「水と匠」が目指していることと、quodのコンセプトである“山水郷”とも通じる部分ですね。ターゲット層や考え方も含め、全てが一貫しているのもこのプロジェクトの強みだと思います。
循環型社会を学べる場へ
−実際にはどんな方がテレワークスペースを利用していますか?
林:地域のクリエイターの方などにもご利用頂いていますが、メインは地元企業や団体で、研修を兼ねた合宿のような形で利用されることも多いです。それなりに僻地ではあるので、どんな需要があるのかオープンまで見えづらい部分もあったんですけど、意外と法人からの反応が大きかったですね。
飯塚:なので、今後はもっと法人向けの研修プログラムを積極的に展開していきたいと思っています。オンラインとオフラインを組み合わせて循環型社会を学べるようなプログラムを考えていて、デモンストレーションを行いながら開発を進めているところです。次の秋くらいには実現できるといいですね。
林:今のところスタッフが常駐しているわけではないので、現地でのオペレーションなど運用面の課題もあります。今後宿泊施設やカフェとしても広げていきたいので、もっと工夫が必要だなと思います。実はwebサイトもまだベータ版のようなものなんですよ。EC機能があった方がいいという声もあるし、これからさらに拡張させていく予定です。
−それは楽しみですね。ちなみにwebサイトのモデルになっているのは林さんですか?
林:そうです(笑)。
飯塚:まだ細い頃だよね。最近は格闘技をやり込んでいて、どんどんゴツくなっているんですよ。
林:2~3年前に始めて、歯を磨くくらい習慣になりましたね。ヨーロッパを周遊した時、周りが皆デカくて怖かったので「帰国したら自分もデカくなろう・・」と思ったのがきっかけです(笑)僕は物事を斜に構えて捉えるタチなので、飯塚さんの他人に対する性善説的な姿勢にはよく助けられています。でも飯塚さんはちょっとお人好しすぎますよね。
飯塚:そうかな?まあ騙されたら騙されたで別にいいやとは思っているかも。信じている自分の方が大事みたいな。いっちーは哲学的なことをすごく考えながら生きている人なんだけど、初対面の時に「社会とか人とかってあんまり信じられないですよね」と言っていて、最近の若い人ってやっぱりそうなのかと思った(笑)。僕は社会の素晴らしさを先輩たちに教えてもらったので、いっちーにも一緒に働く中で何か感じてもらえたらいいなとは勝手に思っています。
林:僕は3年前にquodのメンバーになったんですけど、初めて事務所に挨拶に行った時、書棚にある社会学関連の本が僕の好きなものばかりだったんですよ。それで聞いてみたら「飯塚っていう人の本だよ」って。だから絶対話が合うだろうなとは会う前から思っていました。性格は全然違うんですけど、非言語的な部分で通じ合えるんですよね。さっき飯塚さんが言っていたみたいに、そういう共通認識がこのプロジェクトでは特に大事だなと思います。
−いい意味でクセのある大人が集まっているプロジェクトですね。
飯塚:そうですね(笑)。みんなのこだわりを徹底的に詰め込んで、これからも進化させていきたいと思います。
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厳しくも豊かな自然の中で紡がれてきた「土徳」の精神。南砺という土地やそこに生きる人々が持つ強さと優しさに触れながら、学び、考え、働いてみてはいかがでしょうか?
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