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#5 鶴崎修功、魂のメッセージ

 アクセスしていただき、ありがとうございます。
 3月15日放送の『東大王』(TBS)にて、東大王チームの大将を務めた鶴崎修功が、無事番組を卒業しました。その放送回に華を添えようと、卒業以来3年ぶりとなる、元「東大医学部のプリンス」水上颯が芸能人チームのメンバーとしてフル参戦。これで伊沢拓司とともに初代東大王三人が揃いました。
 東大王チームとしてはなんとか伊沢、水上の強力タッグに屈することなく勝利を収め、花道を飾りたいところでしたが、最終ステージの1対1早押し対決に敗れ、10連勝とはなりませんでした。ですが、これも真剣勝負ゆえに為せる展開だったのではないでしょうか。

 番組の最後で、鶴崎は東大王にメッセージを贈りました。その内容を、番組内の字幕部分のみですが、引用いたします。

ひとつ聞きたいことがあって 「完璧なクイズ王はありえるか?」
どんな問題にも確定した瞬間に答えられる こういうクイズ王はいるか?
明白ですよね 多分いない いるとしたら多分AIがそう
人間はまあ無理 だけどクイズプレイヤーはそれを求める
クイズプレイヤーを見る人もそれを求める
「東大王って何でも知ってるんでしょ?」
そんな訳ないじゃんと言いたくなる 
(だけど)視聴者はそれを夢見ている 我々もそれを夢見ている
「完璧なクイズ王になりたい」
それは到底無理なんだけど そこに努力するのが
クイズプレイヤーの醍醐味 (これから)皆さんが東大王という形で出続ける
視聴者からの夢が皆さんに託される (これは)大変な事なんですが
楽しんで頑張っていただきたい

『東大王』TBS 3月15日放送回

 2016年10月19日、2時間の特番として『東大王』が放送され、そのおよそ半年後の2017年4月30日、レギュラー放送がスタート。当初は三人一チームで対決し、各ラウンドで成績最下位のチームが脱落していき、最後まで残ったチームが勝利となるシステムでした。そのチームの中には、インテリ芸能人の代表格である辰巳琢郎、やくみつる、ラサール石井の三人で結成されたドリームチームも存在しましたが、そんなチームですら寄せ付けない実力をゴールデンタイムで見せつけたことは、ある種衝撃的な出来事でした。

 その間、2016年11月14日、国立情報学研究所が2011年から始めたAI(人工知能)にまつわるプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」、いわゆる「東ロボくん」プロジェクトの断念を発表しました。2016年6月のセンター模試の結果では、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政大学)や関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館大学)といった難関大学にも合格する実力を発揮したものの、国語と英語の文章の意味を理解することに苦戦し、読解力の限界から点数を伸ばせなかったことが大きな理由です。
 これは事実上AIの東大受験敗北を意味しており、偶然とはいえ、このタイミングでの発表は、東大生=AIを超えた人間であるという解釈も可能となり、やがて東大王の活躍によってそれは拡大、東大生=クイズができる集団というイメージが世間一般に定着し、クイズ番組のみならず、あらゆる業界に東大生ブームが起きた一因となったのではないでしょうか。
 しかし、彼らが築き上げた高すぎる知力の壁は、熱狂的な支持を得た一方で、卑屈にも近い偏見を持たれ、ネット上では時に番組や出演者に対し、批判的な意見を述べる記事も散見されたほどです。
 学歴偏重社会の助長を促すおそれがある。
 この国の活力が損なわれイノベーションが崩壊する危険な兆候である。
 クイズをしているくらいならもっと他に役に立つことをやれ、などなど。
 それでも、日々進化を続け、いずれ人間の仕事の大半を奪うかもしれない、という喧伝を後ろ楯に暗躍するAIを凌駕し、太刀打ちできる頭脳を持つ救世主が現れることを、視聴者は知らず知らずのうちに待ち望み、それに惹かれている。クイズをしている人間もいつしかそれに惹かれ、目指している。歴代メンバーのなかで6年ともっとも長く東大王に在籍した鶴崎だからこそ、『東大王』を内側からも外側からも、より客観的に見ることができた。その悟りにも似た境地にたどり着いた末に、上記の渾身の名言が生まれたのではないでしょうか。

 入学当初、東大クイズ研究会(TQC )に入るつもりはなかったものの、サークルの新歓が面白いという理由で入った鶴崎。最初の『東大王』のオーディションの時には、外部交渉係の役職についており、番組スタッフから「人を集めてくれ」というメールを受け取っていたと振り返っています。そこに縁と人集めを担当した責任を感じ、オーディションに参加。テレビのクイズ番組に初出場し強豪を抑えて優勝という、彼のシンデレラストーリーがこうして始まり、今に至るのです。

 彼が番組出演を通じて一番大事にしていたことは、クイズを「楽しむ」という姿勢でした。伊沢が彼に向けたメッセージにも、それがにじみ出ていました。

鶴崎はクイズが好きで東大王に来ている
(中略)鶴崎は「東大王自体」をすごく大事にしている
東大王という「名前の重さ」と「クイズの楽しさ」を両立できた
見せたい2つの要素を両立できたのは 鶴崎じゃないとだめだった
クイズを好きな 将来を担う子どもたちに見せたい
東大王の姿を体現したのは鶴崎
今俺たちがここでクイズできているのは 鶴崎がいてくれたから

『東大王』TBS 3月15日放送回

 その言葉通り、番組を通して「楽しんでもらう」を第一にやってきた、皆さんが楽しんでいるか、楽しんでくれたか、これからも楽しんでいただけるかが一番大事だと、視聴者に向けたメッセージでも鶴崎は語りかけます。2020年のインタビューでも、『東大王』の出演を機に、「どうやったら一般の方に面白いと感じてもらえるか」を意識してクイズを作るようになった。クイズ界の発展を願っていて、クイズ界に足をつけた人でありたい。『東大王』の力でクイズ界がさらに発展すればいい、と番組が彼に与えた影響力の大きさがわかる発言をしています。このスタンスが芽生えたのは、伊沢や水上は名門私立、開成高校出身で高校生クイズ優勝という共通点があるものの、鶴崎は地元鳥取県の公立高校出身で、高校生クイズは地区大会で敗退しているという経歴から、前述の二人に比べ、クイズに対しフラットな向き合い方ができ、初代東大王の時から、比較的中立な立場でいることができたからではないかと考えられます。

 なお、テレビの放送では悔しい負け方をした鶴崎でしたが、3月25日に開催されたイベント、“『東大王』春のファン祭り2023”では、鶴崎vs 伊沢vs伊藤七海&河野ゆかり&東言の東大王チームvs後藤弘&大道麻優子の候補生チームによる、三問先取の早押しクイズに勝利、無事有終の美を飾ることができました。卒業に際し、終盤では『東大王 クイズ甲子園』に出場した時から鶴崎LOVEを公言していた候補生、大道麻優子が声を震わせていましたが、他の東大王の面々、さらには番組で見守り続けてきた、イベントの進行役でもあるTBSアナウンサー、杉山真也までもが「鶴ちゃん最高! 大好き」と締めくくり、とても穏やかで笑顔に満ちたイベントとなりました。

 ちなみに『東大王』卒業後の鶴崎は4月、自身が専攻していた数学をテーマに新刊本を出版。Quiz Knockの一員としてこれからもクイズを続けていくことを繰り返し強調している彼の今後の活動とともに、この4月から番組に導入された「東大王vs視聴者」の対決形式がどのような展開を見せるのか、あわせて注目です。

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 参考文献
『QUIZ JAPAN vol.9』『QUIZ JAPAN vol.12』『QUIZ JAPAN vol.14』セブンデイズウォー
『AI vs.教科書が読めない子どもたち』新井紀子 東洋経済新報社
 またネット情報として日本経済新聞、ITmedia、デイリー新潮、TVerを参考にしました。

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