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欧明社での出合い

世の中にはいろんな本屋がある。
東京の飯田橋には「欧明社」というフランスやフランス語の専門書店があるのだが、今月末をもって閉店という。久しぶりに、足を運んでみた。

人がすれ違うのもやっとの狭い書店には、いつになくお客さんがたくさんいた。ある初老の男性は、しゃがみこんで1冊の本を読みこんでいた。ある若い女性は、まるで手あたり次第に本を選び、抱えていた。フランス語圏出身と思われる男性は、店員さんと教育書について長々と話し合っていた。かつては棚一面に本がぎっしりと詰まっていたものだが、書棚の大部分は、既に広い空間が生じていた。今回は行くことだけが目的だったのだけど、結局5冊ほどお買い上げ。

私は長らくフランス語を学んでいるので、この本屋には何度も足を運んだものだ。フランス語を習いたての頃は、軽いけれど分厚く、小さな文字がびっっしり書かれた小説を手にとっては、ため息をついたものだ。「こんな本を読める日が来るものか」と。

しかし、この本屋はいつ行っても「新たな発見」が待っていた。目に止まった本を一度手にとったが最後、なんとなく、何かに対する「ヒント」が隠されているような気がして、そのまま買い上げることも幾度もあった。それらの一部は、今だに積まれたままだったりするのだけど…。

この本屋ではいろんな出合いがあったけれど、その中でも運命的ともいえるのが『茶の本』だ。今ももう年季が入って黄ばんでいるけど、きっとこれからも、ずっと身近に置いておきたい本の一冊だ。

『茶の本』は岡倉天心が英語で書いた本で、ここで購入したのはフランス語に訳されたものだ。正直に言うと、文体が格調高くていまだにすらすらと読むことができない。その本を買ったばかりのころ、1冊暗唱しよう!と意気込んだものだが、程なく挫折したのは言うまでもない。しかし、うまく言語化できないのだけど、この本を声に出して読んでみると、原文の英語版にもない、日本語翻訳版にもない、この本の翻訳者の熱意というか、『茶の本』への敬意のようなものを感じることがある。そして何より、フランス語のエレガンス。茶道とフランス語って、相性がよいんだな。

欧明社には日本に関するコーナーがあった。そこには日本にまつわる本、日本文学の翻訳版や旅行ガイド、日本料理のレシピ本などがたくさん置いてあった。『茶の本』との出合いはともかく、もしかしたら私が見逃していただけかもしれないけれど、この本以外に茶道に関する本を見かけることはなかった。

海外では、お茶はどのように捉えられているのだろう。もしかしたら、まだ知られていない部分がたくさんあるのではないか。お抹茶といえど、ワインのように産地や作り方で味が変わるんだ、といったうんちくから、茶道を通して身につく精神性とか。そういう部分について、もっと現地の言葉によって明るみにできたら、語学学習者冥利に尽きる。そんなことをぼんやり夢見ながら、久しぶりに茶の本を紐解いた今日このごろ。

お茶とあまり関係のない記事になってしまったけれど…
欧明社さん、今までありがとうございました。


茶の本のにまつわる読書日記はこちら▼



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