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『人間失格』流ヒマつぶし

こないだ太宰治の『人間失格』を読んでいたら、作中で主人公とその友人がめちゃんこ面白そうなゲームをやっていたので、ここで紹介しつつ私もやってみようと思います。

一つ目は、「喜劇or悲劇ゲーム」(勝手に名付けました)。

これは、相手が言った単語に対して、それが喜劇(コメディ)名詞悲劇(トラジェディ)名詞かを判断して答えていくというゲームです。

本文を引用するとこんな感じ。

「いいかい?煙草は?」
と自分が問います。
「トラ(悲劇の略)」
と堀木が言下に答えます。
「薬は?」
「粉薬かい?丸薬かい?」
「注射」
「トラ」
「そうかな?ホルモン注射もあるしねえ」
「いや、断然トラだ。針が第一、お前、立派なトラじゃないか」
「よし、負けて置こう。しかし、君、薬屋や医者はね、あれで案外、コメ(喜劇の略)なんだぜ。死は?」
「コメ。牧師も和尚も然りじゃね」
「大出来。そうして、生はトラだなあ」
「ちがう。それもコメ」
「いや、それでは、何でもかでも皆コメになってしまう。ではね、もう一つおたずねするが、漫画家は?よもや、コメとは言えませんでしょう?」
「トラ、トラ。大悲劇名詞!」
「なんだ、大トラは君のほうだぜ」
(新潮文庫『人間失格』pp.120-121)


どうです、何とも浮世離れした、いかした会話じゃないですか?

いいですねえ、とてもいい。無意味で馬鹿らしくて、ウィットに富んでる。
こんな会話ができる友達が欲しいものです。

ちなみに最後に主人公が「大トラは君のほうだ」と言われているのは、彼がしがない漫画家の身だからかと思います。『人間失格』の主人公が漫画家だってご存知でしたか?


まぁこれは余談ですが、太宰治は高校時代にドイツの画家ジョージ・グロスの画集に感心して、教室に持参したりしていたそうですよ。文学だけじゃなく、絵にも興味があったのかしら。


ではさっそく、私もこのゲームをやってみるとしましょう。残念ながら相手がいないので、一人二役でやろうと思います。口調は『人間失格』の登場人物たちを意識して。
上手くいくかは分かりませんが、ではスタート。


「海はどうだ?」
「トラ」
「ほう、ではプールは?」
「トラだ。水に関するものは基本全部トラ」
「じゃあ水たまりはどうだ」
「それはコメ」
「いい加減だなあ。じゃあ、水飴は?」
「それもコメだな。だが水没はトラだよ」
「なるほど。じゃあサングラスは?」
「コメ。あんなの付ける奴が本気でシビアなわけない」
「言えてるな。じゃあ窓は?」
「トラだな。鏡もガラスも、ものの姿を映すやつは全部トラだよ」
「またまた横暴だなあ。じゃあ万華鏡は?」
「あれはコメ。手をくるくる回す様子がさ、喜劇的じゃないか」
「じゃあ福引のガラガラもコメか」
「そうだな。でも鉛筆削り器はトラだよ」
「鉛筆は?」
「うーん、どっちかと言えばコメ」
「じゃあ鉛筆を握る君自身は?」
「それはトラ。大トラ」
「皆自分のことはそう言うよな」
「でも、どんな自分でも写真に撮ってみるとコメなんだよ」
「同感。全く不思議なもんだ」


まぁ、こんな感じでしょうか。
やってみた感想としては、…すごく楽しい。よく分かんないけど楽しい。

いいですね、これ、自分の持っている言葉への印象が浮き彫りになりますね。
言葉や対象のイメージに興味がある人はぜひやってみてください。自分の価値観が見直せますよ。


ちなみに、このゲームに正解不正解なんてものはないと思います。
「なぜそうなのか、それのわからぬ者は芸術を談ずるに足らん」!



では二つ目にいきましょう。
二つ目は、その名も「同義語or反義語ゲーム」

これは、相手が言った単語の同義語(シノニム)または反義語(アントニム)を答えていくというものです。

『人間失格』の中では次のようなやり取りがなされていました。

「花のアントは?」
と自分が問うと、堀木は口を曲げて考え、
「ええっと、花月という料理屋があったから、月だ」
「いや、それはアントになっていない。むしろ、同義語(シノニム)だ。星と菫(すみれ)だって、シノニムじゃないか。アントでない」
「わかった、それはね、蜂だ」
「ハチ?」
「牡丹に、…蟻か?」
「なあんだ、それは画題(モチイフ)だ。ごまかしちゃいけない」
「わかった!花にむら雲、…」
「月にむら雲だろう」
「そう、そう。花に風。風だ。花のアントは、風」
「まずいなあ、それは浪花節の文句じゃないか。おさとが知れるぜ」
「いや、琵琶だ」
「なおいけない。花のアントはね、…およそこの世で最も花らしくないもの、それこそ挙げるべきだ」
「だから、その、…待てよ、なあんだ、女か」
「ついでに、女のシノニムは?」
「臓物」
「君は、どうも、詩(ポエジイ)を知らんね。それじゃあ、臓物のアントは?」
「牛乳」
「これは、ちょっとうまいな。その調子でもう一つ。恥。オントのアント」
「恥知らずさ。流行漫画家上司幾太」
「堀木正雄は?」
この辺から二人だんだん笑えなくなって、焼酎の酔い特有の、あのガラスの破片が頭に充満しているような、陰鬱な気分になって来たのでした。
(新潮文庫『人間失格』pp.122-123)


いやー、これもまたしゃれてますよねぇ。
花の反義語が女で、女の同義語が臓物とはよく言った。
臓物と牛乳が反義語なのも、なんとなく分かる気がします。

熱くてどろどろしている赤黒いものと、草原のイメージが想起される冷たくて白いもの。上手い対比ですね。

ちなみに上司幾太というのは、『人間失格』の主人公が使うペンネームです。


では、私もやってみましょう。


「石鹸のアントは何?」
「泥だな。塗りたくった時に綺麗になるか汚れるかだ」
「なるほど。じゃあ、泥のアントは?」
「それは絵具」
「どうして」
「分からないなら結構」
「ひどいなあ。まあ、AのアントがBだったとしても、BのアントがAである必要はないさ。じゃあ、絵具のシノニムは?」
「それが石鹸だ」
「ほう?絵具と石鹸はアントじゃないのか」
「違うよ。どっちも潔癖だからね」
「神聖って意味か?」
「まあそんなとこ。ちなみに神聖のアントニムは何だと思う」
「なんだろう、駅ナカのコンビニとか?」
「それは君、場合によっちゃシノニムだよ。アントニムは、陰だよ、陰」
「どうして?」
「神聖なものに陰はない。あったとしても見えない」
「面白い。じゃあ陰のシノニムは?」
「希望かな」
「希望は陰のお仲間かい?」
「そうだ。パンドラが両方連れてきたろ」
「それは確か、希望と苦しみじゃなかったか」
「苦しみってのはね、希望と陰によって導かれるものなんだよ」
「なんだか説教くさいなあ。じゃあ最後。愛のアントニムは?」
「多忙じゃないか?」
「そいつはうまいな。ちなみに今君は多忙なのかい」
「実はそうなんだ。でもnoteを書くのが楽しくて。忙中閑ありって言うだろう」
「それなら、愛と多忙はシノニムなんじゃないのか」
「愛の大きさによるね」


まぁひとまずこの辺で。やっぱりこちらも面白いですねぇ。

私の感性なので納得できない箇所も多々あったかと思いますが、これは間違いなく最強の暇つぶしになりますよ。

電車を待っている間とか、休憩中にぼーっと外を眺めてる時とかに、宜しければやってみてくださいね。

同義語・反義語辞典なんて引かないで、自分の感性だけで考えてみると楽しいですよ。

『人間失格』自体も、まるで地獄のような名作です。まだ読んだことない方はぜひ。



ここまで読んでくださり、ありがとうございました✨









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