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人種を選べる時代は来るのか。映画『レイチェル 黒人と名乗った女性』を観て

NetflixでThe  Rachel Divide(レイチェル 黒人と名乗った女性)という映画を観た。Netflixの紹介文にはこう書かれている。

白人でありながら黒人と名乗った人種詐称。米国で物議を醸した事件とその後を、レイチェル・ドレザル本人と彼女の家族、評論家たちがそれぞれの視点で振り返る。

これだけを読んでもさっぱりわからないし、ネットで調べてみても高評価ではない。でも、事実に基づくドキュメンタリーが好きな私。「いったい人種を詐称するってどんな思いでやったのだろう?」と興味が湧いて、観てみることにした。※以下、ネタバレを含みます。

ワシントン在住のレイチェルは、黒人の息子ふたりの母であり、NAACP (全米黒人地位向上協会)の支部長を務めてきた人。自らは黒人と名乗り、黒人のために行動してきた人だったが、ある時彼女は白人である、と暴露されてしまう。

支部長は解雇され、実の両親もテレビに登場して「レイチェルが黒人と名乗るのは妄想の一部なのです」と証言。SNSでは黒人コミュニティから「私達が体験してきた苦労も知らずに黒人と偽るなんて!」「裏切り者!」と非難が殺到。

いっぽう、彼女の生い立ちを追ってみると、下の兄弟4人は養子として迎えられ、うち3人は黒人だった。幼い頃から父親から精神的・肉体的にも虐待をされていて、ずっとアイデンティティを探していたという。キリスト教という宗教に縛られたくない、という思いもあったそうだ。大人になり両親とは絶縁し、同じく虐待を受けてきた異母兄弟のひとりの親権を獲得し、兄弟を養子として迎え入れて育てているのだ。そのあたりから自分は黒人だというアイデンティティに目覚め、髪型や服装、メイクなどを黒人らしく振る舞うようになる。

黒人が怒っている大きな理由は「白人は黒人になれるけど、自分たち黒人は白人になれない」ということだった。身体的にも世間的にも、黒人は白人になりたくてもなれない、ということ。
また、「トランスレイシャル※を許されるのは白人の特権だ」という意見も印象的だった。(※人種転換のような意味合い)
NAACPとして黒人地位向上のために尽力して、社会の前進に尽力してきたレイチェルに黒人が怒っているのは、彼女が黒人として偽ったことに対してではなく、白人至上主義の世の中に対する怒りが根底にあるのではないか、と思った。

日本に住んでいると、人種差別を目のあたりにすることはない。アメリカに住んだことはないけれど、一定数白人至上主義の人はいたり、地域によっては飲食店でも黒人専用のエリアが設けられているそうだ。

BLM(Black Lives Matter)のように人種差別撤廃の動きが起こったり、LGBTQに寛容な社会に向けて動きつつあるように思える。でも、きっと当事者たちにはまだ根深い問題だし、長い歴史が作り上げてきてしまった習慣はすぐには変わらないのだろう。

レイチェルは、「人種も選べるような時代になってほしい」と言っていた。人種はヨーロッパで作られた制度なのだという。性別を選べる時代になりつつあるけれど、人種を選ぶ時代はくるのだろうか。そもそも、「人」という括りで見たら全人類同じなわけで、性別や国籍がアイデンティティというのは人間が決めたこと。自分にぴったりだと思うアイデンティティを選択できる世の中になれば、苦しい想いをする人が減るのかもしれない。

最後に、この物語は白人が黒人と人種詐欺をしたけれど、たとえばアメリカ人がドイツ人や日本人だと主張していたら、ここまで大ごとに取り上げられなかったと思う。アメリカで物議を醸し、黒人からの非難が殺到したのは、ヨーロッパやアジアではなく、「黒人」になろうとしたからなのだろうか。

日本に暮らしていると遠い国の話になってしまいがちだけど、世界のどこかで今この瞬間も人種差別や性差別に苦しんでいる人がいるということを忘れてはいけない。この映画は、きっとつい忘れがちな問題に意識を向けるきっかけとなると思う。

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