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周術期の抗菌薬選択〜その抗菌薬本当に必要ですか?〜

外科手術×皮膚科コラム

世界を色んな意味で変えたCOVID-19によるコロナ禍も4年目に入り、withコロナとして受け入れられて来るような風潮ですね。
一方で感染者数や入院者は再度増加し、医療資源の供給はまだまだ安定しないな…と感じる今日この頃です。安定しない中でも使わなければならないと思っているその医薬品…本当に必要ですか?

そこで今日は安全で経済的な抗菌薬の使用法についてエビデンスを交えてコラムにしました。

人のお医者さんに言ったら驚かれましたが、動物病院で使用される医薬品の多くは人体用です。理由は悲しいくらい単純で、動物用の薬がないからです。

当院では周術期には表皮ブドウ球菌による手術部位感染(Surgical Site Infection;SSI)を予防する目的でセファゾリンを使用しています。
セファゾリンは第1世代のセフェム系抗菌薬で腸球菌を除くグラム陽性球菌と大腸菌などのグラム陰性桿菌に対する比較的広い抗菌活性があります。
人医療の外科手術でもSSI予防に使用されることの多いセファゾリンですが、近年の薬剤耐性菌の増加を受け、抗菌薬の適正使用の観点から使用期間が短縮されてきています。

例として、
・胃がんの幽門側位切除後において抗菌薬投与時間の違い(術中のみと術後48時間まで投与した群)によるSSIの発生率は有意差なし
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(11)70370-X/fulltext?_fsi=cBZOCirH
・初回の人工関節全置換術においてセファゾリン単回投与は24時間投与と同等の有効性がある
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ases.12964

人の文献をそのまま動物に外挿することはできません。
人間に比べて犬猫は毛深いし、人間レベルで衛生的に生活しているかと問われればNOでしょう。
また、犬猫と人では薬物動態に違いがあることや組織到達性、目的とする菌(人は黄色ブドウ球菌:S. aureus、犬猫はブドウ球菌:S. pseudintermedius)のMICが少し異なるなどの違いもあります。
ただしセファゾリンに関しては、犬のPK/PDパラメーターや組織到達率は人と大きく変わらなそうです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6190795/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8723889/

上記を踏まえると、動物の状況や疾患によっては長く抗菌薬を使用することはあると思いますが、基本的には人と同様、「準清潔手術では手術前30分までに投与し、手術中2~4時間ごとに追加注射、術後の抗菌薬は基本不要~24時間以内に終了」で十分と考えられます。清潔手術は単回投与でいいかもしれないですね。

具体的には、予防的な胆嚢摘出術や膀胱切開術、術前の開放創のない整形外科手術などを行う際には、セファゾリンは術後不要という判断になります。
当院でも上記のように感染管理を行なっております。
ただし、手術によって感染が取り除けない場合は別モノで、通常の細菌感染としての治療が必要です。感染臓器や起因菌によっても推奨される使用法が異なるため今回は割愛します。
感染の有無は尿や標的部位の塗沫を見て判断し、可能な限り薬剤感受性検査を行いましょう。

抗菌薬の適正使用は医療資源の節約になり、患者さんの経済的な負担も減らせます。
ちなみにどうしても不安な場合は、経口摂食が可能になった時点でセファレキシンの経口投与にしてもいいかもしれません(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ases.12964)が、不要な抗菌薬投与はかえって患者さんに不利益をもたらす可能性もあるので、熱や術部の感染所見がなければ思い切ってやめてみましょう!

以上、外科病院で働く皮膚科獣医師のnoteでした。


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