量子技術ノート

量子技術で博士号を取得しました。理論から実験まで。量子技術や量子コンピュータの知識を中…

量子技術ノート

量子技術で博士号を取得しました。理論から実験まで。量子技術や量子コンピュータの知識を中心に、勉強した内容を発信していきたいと思います。

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  • 量子コンピュータ入門

    量子コンピュータ入門関連の記事 0. 量子技術とは 量子コンピュータ入門編 1. 量子コンピュータとは 2. 量子とは 3. 量子ビットとは 4. 量子コンピュータが速い理由 5. 量子コンピュータが役に立つ問題 (量子アルゴリズム) 6. 量子コンピュータの現状と課題 量子コンピュータ基礎編 1. 量子ビットとは 2. 複数量子ビットとエンタングルメント 3. 量子ゲートと量子回路 4. 量子テレポーテーション

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量子コンピュータ入門

今回は、量子コンピュータのお話しをしようと思います。入門ということで、深い物理的な内容まで触れずに簡単に内容をお伝えしようと思います。 量子コンピュータとは?量子コンピュータとは、量子物理学(量子力学)の原理に基づいて動作するコンピュータです。 これまでのコンピュータやスーパーコンピュータとは全く違う原理で動作します。 ちなみに普段我々が使うようなコンピュータであったりスーパーコンピュータは、「古典」コンピュータとよばれます。ここでの「古典」とは、量子力学を扱わないという

    • 【量子コンピュータ基礎4】量子テレポーテーション

      今回は、量子テレポーテーションについて解説したいと思います。 量子テレポーテーションとは、何らかの量子情報(量子状態)を相手に届ける手法です。例えば下の図の場合、田中さんから山田さんに対して、$${\ket{\psi}}$$という量子情報を送るといったようなことです。 おそらく、「テレポーテーション」と聞くと、多くの人がSF映画でよくみるような、人や物が一瞬にして移動する現象を想像する方が多いかもしれません。しかし残念ながら、現実世界の量子テレポーテーションでは、物質や人

      • 【量子コンピュータ基礎3】量子ゲートと量子回路

        量子コンピュータは、量子ビットを上手に制御することで所望の情報処理を行います。量子ビットを制御するために、必要となるのが量子ゲートです。さらに、量子ゲートをどのような順序で量子ビットに作用させるのかを教えてくれるのが量子回路です。今回は、そんな量子ゲートと量子回路について学びたいと思います。 古典論理回路量子回路について考える前に、古典コンピュータの場合について考えてみましょう。古典コンピュータは、論理回路と呼ばれるデジタル回路によって構成されています。下の図は、論理回路の

        • 【量子コンピュータ基礎2】複数量子ビットとエンタングルメント

          今回は、複数量子ビットの量子状態の記述方法や、エンタングル状態と呼ばれる不思議な量子状態についても解説したいと思います。 複数量子ビット複数の量子ビットの量子状態は、それぞれの量子ビットのテンソル積で表現されます。 2量子ビット まず複数量子ビットの簡単な例として、2個の量子ビットについて考えてみます。テンソル積は$${\otimes}$$という記号で表現されます。今ここで、2個の量子ビット、 量子ビット1 $$ \ket{\psi_1}=\alpha_1\ket{

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          【量子位相推定アルゴリズム③】

          今回は量子位相推定アルゴリズムの本題に入りたいと思います。これまで、1量子ビットの量子位相推定アルゴリズムと考えることのできるアダマールテストや、量子位相推定アルゴリズムを実現するうえで不可欠な要素である量子フーリエ変換について解説してきました。今回の記事ではこれらの内容を踏まえたうえで、量子位相推定アルゴリズムの解説をしたいと思います。 量子位相推定アルゴリズム量子位相推定アルゴリズムの量子回路図を以下に示します。 以前の記事でも解説しましたが、量子位相推定アルゴリズム

          【量子位相推定アルゴリズム③】

          【量子コンピュータ基礎】量子ビットとは

          量子コンピュータの基礎を理解するうえで、大切な内容を解説していこうと思います。今回は、量子ビットについて解説します。 (こちらの記事は、以前Qiitaに投稿した内容の書き直しです。) 量子ビットとは量子ビットとは、普通のコンピュータで使用されている「ビット」の量子版です。この量子版のビットを使って情報を表現し、情報処理を行うのが量子コンピュータです。 古典ビット 量子ビットの説明に入る前に、私たちが普段使っているコンピュータの場合を考えてみましょう。普段の生活で使うコン

          【量子コンピュータ基礎】量子ビットとは

          【量子位相推定アルゴリズム②】量子フーリエ変換

          今回も、量子位相推定アルゴリズムの記事の続きです。前回は、1量子ビットの量子位相推定について解説しました。 しかしこの手法では、小数$${n}$$桁位まで存在する位相に対しては、$${n}$$個の独立した量子回路を用意する必要がありました。一方で、一般的に量子位相推定アルゴリズムと呼ばれる量子アルゴリズムは、$${n}$$個の補助量子ビットを用いることで、一種類の量子回路で位相を推定することが可能となります。そしてこの量子位相推定アルゴリズムには、量子フーリエ変換と呼ばれる

          【量子位相推定アルゴリズム②】量子フーリエ変換

          【量子位相推定アルゴリズム①】アダマールテスト

          量子位相推定アルゴリズム量子位相推定アルゴリズムとは、あるユニタリ行列 $${U}$$の固有値を求める量子アルゴリズムです。具体的には、ユニタリ行列$${U}$$の固有状態$${\ket{\psi}}$$に対して、 $$ U\ket{\psi} = e^{i2\pi\phi}\ket{\psi} $$ を考えた時、この位相$${\phi}$$を推定するという問題に対応します。少し具体的な例で考えてみましょう。例えば、 $$ P = \begin{pmatrix} 1 &

          【量子位相推定アルゴリズム①】アダマールテスト

          博士課程を振り返って

          今回は、私が体験した博士課程について勝手に振り返りたいと思います。普段は、量子技術に関連することを書いていますが、今回は少し趣向を変えてみました。アドバイスを書くわけではありません。そもそも、そこまでできた学生ではなかったので、アドバイスなんてできません。。。単純に振り返ってみるだけです。(アドバイスっぽく仕上がった文章もちらほら散見されますが、決してアドバイスしているわけではないです!) 博士課程に進学した理由進学か修士で就職か 私自身も非常に悩みました。悩んだ末に進学

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          量子誤り訂正入門

          量子誤り訂正とは、量子計算の過程で発生する誤りを訂正する技術です。この技術は、量子コンピュータに特有の技術ではなく、我々が普段使用している計算機でも使用されています。現代の非常に高性能なコンピュータでも、非常に僅かな確率ではありますが、計算の途中でエラーが発生します。しかし、誤り訂正技術を用いることで正確な計算ができるのです。 量子誤り訂正がなぜ必要か量子コンピュータにおいても、この誤り訂正技術は非常に重要になります。例えば、最先端の研究で実現されている量子ゲートの成功確率

          量子誤り訂正入門

          【量子コンピュータ基礎】パウリ行列

          量子ビットに代表されるような二準系を記述する際に、非常に便利なツールであるパウリ行列について解説します。 パウリ行列パウリ行列は、以下のような$${2\times 2}$$行列で表されます。 $$ \hat{\sigma}_x = \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \\ \end{pmatrix} , \hat{\sigma}_y = \begin{pmatrix} 0 & -i \\ i & 0 \\ \end{pmatrix} , \h

          【量子コンピュータ基礎】パウリ行列

          光格子時計【量子センシング】

          量子技術の応用の中に、量子センシングとよばれるものがありました。その名の通り量子を使って、何かを測るという技術です。実は、量子を使うことで、正確なセンサーを実現することができるのです。詳しくは、以下の記事をご覧ください。 今日までに様々な量子センサーが開発されています。 磁場センサー 電場センサー 量子ジャイロスコープ などなど 今回ご紹介するのは、光格子時計です。光格子時計は、高精度な時計です。最先端の研究では、なんと300億年に1秒しかずれない時計が実現されてい

          光格子時計【量子センシング】

          【量子コンピュータが役立つ分野】量子化学計算

          量子化学計算量子コンピュータの有力な応用先として、量子化学計算が考えられています。量子化学計算とは、原子や分子の量子力学的な振る舞いを記述するシュレディンガー方程式を解くことで、対象とする物質の性質を調べるという分野です。 量子化学計算で扱うような、分子や原子は非常に小さく、またそのダイナミクスも速いので、それらの振る舞いを直接観察することは容易ではありません。しかし、量子化学計算では、計算科学的なアプローチからそれらのダイナミクスを理論的に予測することができるのです。そし

          【量子コンピュータが役立つ分野】量子化学計算

          量子センシング

          量子技術には沢山のアプリケーションがあります。その中の一つが量子センシングです。量子センシングとは、量子を使って何かを「はかる」ということです。実は、量子を使うことで感度の良い計測や分解能が実現できます。 量子コンピュータの記事でもお伝えしたように、量子ビットの量子状態は非常に壊れやすいのです。そして、その壊れる原因の一つに外部の環境の変化やノイズの影響があります。しかし、これは裏を返せば量子ビット(量子)は、外部からの影響に対して非常に敏感なセンサになり得るということを意

          量子センシング

          量子コンピュータの現状と課題【量子コンピュータ入門6】

          今回の記事では、本記事執筆時(2021年8月)において、開発されている量子コンピュータの現状について簡単にお伝えしたいと思います。 現在の量子コンピュータの課題さて、現在の量子コンピュータは、ノイズの問題に直面しています。情報処理においては、ノイズによるエラー(誤り)が起こります。例えば、0という情報を送ったのになぜか最後には1になっている。そんな感じです。 正確な計算結果が欲しいのに、そもそも計算機が計算ミスしていては話になりませんよね。このままでは、情報処理としては上

          量子コンピュータの現状と課題【量子コンピュータ入門6】

          こんな物理の記事を書きたい!!

          素敵な記事を見つけました。 これまでは一般向けのふんわりした物理の内容でしたが、たまにはこんな感じのゴリゴリの物理の記事を書いてみたいです!!

          こんな物理の記事を書きたい!!