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量子センシング

量子技術には沢山のアプリケーションがあります。その中の一つが量子センシングです。量子センシングとは、量子を使って何かを「はかる」ということです。実は、量子を使うことで感度の良い計測や分解能が実現できます。

量子コンピュータの記事でもお伝えしたように、量子ビットの量子状態は非常に壊れやすいのです。そして、その壊れる原因の一つに外部の環境の変化やノイズの影響があります。しかし、これは裏を返せば量子ビット(量子)は、外部からの影響に対して非常に敏感なセンサになり得るということを意味しています。その敏感さを利用することで、非常に感度の高いセンシングが可能になるのです。例えばこれまでに、

  • 電磁場(電場、磁場)

  • 時間、周波数

  • 重力、加速度、角速度

といった、様々な物理量を計測できる量子センサが登場しています。さらに、エンタングルメントといった量子特有の性質を用いることで、古典の計測技術では実現不可能な感度を実現することができます。

0_量子センシング - コピー

量子センシングの素晴らしい点は、いくつかのアプリケーションにおいて、古典の計測技術よりも優れているということが、これまでの研究で実験的に実証されている点です。ですので、量子技術のなかでは比較的実用化が早いと期待されている研究分野なのです。

量子センシングの定義

さて、量子センシングというのは具体的にはどのようなものを指しているのでしょうか。一般的には、量子センシングとは以下の3つのいずれかを指していると記述されています。​

(1) 物理量を測定するために、なんらかの量子系を用いていること。

量子ビット(2準位系)に代表されるような量子系を測定のプローブとして用います。

(2) 重ね合わせといった、量子的なコヒーレンスを利用して物理量を測定していること。

量子センシングの最も代表的な流れとしては、以下のような重ね合わせ状態を利用したものが一般的です。

  1. 量子ビットを$${\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{0}+\ket{1})}$$のような重ね合わせ状態に準備

  2. 外場の影響によって量子状態が、$${\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{0}+e^{-i\phi}\ket{1})}$$に変化

  3. 生じた位相差から物理量を評価

1_量子コヒーレンスを用いた測定 - コピー

(3) エンタングルメントを利用して、古典で到達可能な範囲を超えて、測定の感度や精度を向上させていること。

さらに、エンタングルメントを用いることで、センシングの感度を高めることが可能になります。例えば、

  • 2量子ビットのエンタングル状態: $${\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{00}+\ket{11})}$$

  • GHZ状態: $${\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{00\cdots0}+\ket{11\cdots1})}$$

  • N00N状態: $${\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{N0}+\ket{0N})}$$

といったエンタングル状態を用いることで、量子センシングの感度を向上させることができるのです。

2_エンタングル状態を用いた測定 - コピー

これら全てを満たしていない場合は、量子センシングと呼ばないとする考え方もあるようです。本記事では、特別厳密な定義は考えずに量子センシングを議論していきたいと思います。

量子センシング

ここでは、簡単に量子センサの具体例をご紹介しようと思います。様々な量子物理系(ハードウェア)が出てきますが、本記事では具体的な解説は避けて概略だけを述べたいと思います。

原子波干渉計

原子波干渉計とは、その名の通り、原子の波を使った干渉計です。これは、冷却原子と呼ばれる物理系で実現されます。冷却原子とは、レーザー冷却と呼ばれる手法によって、極低温状態まで冷却された原子のことです。レーザー冷却とは、ノーベル物理学賞が与えられた革新的な技術であり、原子の温度を絶対零度に近い温度まで冷却することができます。

このように、極低温状態まで冷却された原子は、物質の波としての性質が顕著になります。これを物質波と呼んだりもします。この物質波は、非常に波長が短い、つまりものさしで例えると、一つ一つの単位が細かいので、わずかな変化を捉えることができるのです。

この波を使って、干渉計を作ることで様々な変化を観測することができます。例えば、回転を計測つまり、量子版のジャイロスコープを作ることができます。すでに、古典のジャイロスコープよりも高感度に回転を計測することに成功しており、実用化が期待されています。

原子時計

原子時計とは、その名の通り原子を使った時計です。原子を使うことで、非常に高精度に時間を計る、つまり時計ができるのです。原子時計には、大きく二つの種類があります。一つが、冷却原子を用いた光格子時計、もう一つが冷却イオンを用いた原子時計です。

光格子時計に関しては、こちらの記事に簡単にまとめています。

磁場センサ

量子を使うことで、磁場も高感度に計ることができます。磁場に関しては、NVセンタ、原子、スピン系、超伝導といった様々な物理系を用いた量子センサが実現されています。それぞれの量子センサによって計測可能な感度の限界や空間分解能が決まっており、計測対象に応じて使用する物理系を使い分ける必要があります。

おまけ: 量子センシングのバイブル

おまけとして、量子センシングといえばこちらの論文というバイブル的なレビュー論文をご紹介したいと思います。

それが「Quantum sensing」という題名の論文です。査読付きの論文に関しては、アクセス権が無いと読めないと思うので、プレプリント版を先にリンクとして貼っています。

こちらが投稿論文として出版されたものです。

量子センシングの基礎から応用まで幅広くまとまっており、非常に参考になります。