見出し画像

【量子コンピュータが役立つ分野】量子化学計算

量子化学計算

量子コンピュータの有力な応用先として、量子化学計算が考えられています。量子化学計算とは、原子や分子の量子力学的な振る舞いを記述するシュレディンガー方程式を解くことで、対象とする物質の性質を調べるという分野です。

量子化学計算で扱うような、分子や原子は非常に小さく、またそのダイナミクスも速いので、それらの振る舞いを直接観察することは容易ではありません。しかし、量子化学計算では、計算科学的なアプローチからそれらのダイナミクスを理論的に予測することができるのです。そして、得られた結果から物質の特性を知ることができ、化学反応のメカニズムの理解や創薬、新規の材料開発につながると期待されているのです。

量子化学計算の課題

一方で、量子化学計算には課題もあります。それは、厳密にシュレディンガー方程式を解くということが非常に難しいという点です。

量子化学計算では、シュレディンガー方程式

$$
{H\ket{\psi}=E\ket{\psi}}
$$

を解くことを大きな目標としています。ここで、$${H}$$はハミルトニアンと呼び、対象とする系の情報を含んでいます。また、$${\ket{\psi}}$$は波動関数と呼ばれ、対象とする系の量子状態を表しています。このシュレディンガー方程式を解くことで、興味のある系の詳細な情報を得ることができるというわけです。

実は、このシュレディンガー方程式を厳密に解くには、膨大な計算量が必要となります。多くの場合、現代のスーパーコンピュータでさえも現実的な時間内に処理することが難しいほどの計算量になります。そのため、通常の量子化学計算では、様々な近似を仮定することで、計算コストを低減しています。

このように近似をうまく取り込むことで、計算を行うことが可能になる一方で、得られる計算の精度は低くなります。当然、正確な物質の特性を知るためには、計算の精度は非常に大切になるので、大きな課題となっています。

量子コンピュータ期待されている理由

ではなぜ量子コンピュータが、量子化学計算に役立つと考えられているのでしょうか。その理由は、 高精度な量子化学計算を効率良く量子コンピュータ上で実行できる可能性があるからです。

先ほども述べたように、古典コンピュータでは、正確な量子化学計算の実行には、現実的な時間内に処理することが難しいくらいの計算量が必要になります。

位相推定アルゴリズム

しかし量子コンピュータでは、「位相推定アルゴリズム」と呼ばれる量子アルゴリズムを用いることで、量子化学計算の精密な計算を、古典コンピュータと比較して非常に少ない計算量で実行できることがわかっています。このような理由から、量子コンピュータは、量子化学計算への応用が非常に期待されているのです。

現状

化学は、材料や薬、そして工業製品といった様々な領域で活用され、私たちの生活を支えています。もし量子コンピュータで、精密な量子化学計算の問題を処理することができるようになれば、それは人類にとって大きなインパクトがあるはずです。

現在、量子化学計算への応用を目的とした、量子コンピュータの研究が盛んにおこなわれています。しかしながら、今日実現されている量子コンピュータの性能では、量子ビット数の問題や、量子エラーの問題からまだまだ実現が難しいのが現状です。

これからも、量子コンピュータのハード面の開発はもちろんのこと、よりよい量子アルゴリズムの開発も必要になってくると考えられており、中長期的なスパンでの開発を目指す必要があります。