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普通のお昼ご飯

「ただいま。」

これが家に帰ってきた時の第一声である。マスクでくぐもって不機嫌な声に聞こえる。だいたい、私が家に帰ってきた時は誰も家にいないので「ただいま」もへったくれもないのだ。むかーし母親に「誰も居なくても、ただいま、って言うねんで、家の神様に。」と言われていたので、それを律義に守っている。

家に帰るとお昼ご飯を食べる。朝、簡単に準備をしてから、家を出るようにしている。家に帰ってからも、やることはたくさんあるので、時間が惜しいのだ。時間が惜しいのを言い訳にする訳ではないが、自分の為に自分のお昼ごはんを作る事はしたくないので、こんなお昼ご飯になる。わざわざ写真を撮るまでもないけど、どれだけ手をかけたくないかは、分かって頂けたと思う。

手を念入りに洗って、うがいをして、暖房をつけて、お湯を沸かす。お湯が沸いて、カップヌードルに注ぐ

第二声は

「ヘイ! シリ? タイマー三分!」

だ。

尻・・・?ううん、尻ではない。もう大多数の方は「シリ」が何かお分かりだろうから、説明不要だと思うが、万が一、尻に話しかけているのか?なんて思われるのはいささか辛いものがあるので一応説明させて頂く。
Siriだ。iphoneの人口知能。「カウントダウンハ スキデス」なんてかわいい事を言ってくれる。

3分きっかり計ってくれるので、私のお昼ごはんタイムは少しだけ快適になった。欲を言えば、iphoneから電気ケトルにスイッチを入れる事ができたらいい。お湯まで誰かが注いでくれたらいいが、そうなるといよいよ人型ロボットの出番なので、ちゃんと「ただいま」と言う相手がいる。

ずるずる、はふはふ、言いながら食べる。もう少しで娘が帰ってくる。

ピンポーーーーーーン♪

帰ってきた。食べかけで、尚且つ鼻水が出ているが、寒い中待っている娘を一秒でも早く家に入れてあげたいので、鼻水はこの際そのままでも構わない。

第三声は

「おかえりー寒かったやろう」

と、一番の明るい声で言う。何があっても「おかえり」は明るい声で、笑顔でと決めている。鼻水が出ているが、笑顔だ。

「ただいまー」

そう言う娘の顔は、寒さで少し白くて、鼻の頭は赤い。かわいいなあ、と心から思う。そして無事に帰ってきてよかった、とも。

娘は不思議そうに私の顔を見ている。

「鼻水でてんで、ふふふ」

「ああ、今ごはん食べてんねん」

ずるっとして、すぐにティッシュを取りに行く。

そこからは娘と二人でなんでもない会話をする。最終的には、

「はよ宿題しいや」と、言うのだが。

私は「年賀状はよつくりーや」と自分に言い聞かせている。言い聞かせているだけで一向に進まない。やらなければいけない事が先延ばしになるのは、お互い様のようだ。

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