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冬の凍った土地では、人を埋葬できないことを知った
<バーアテンダント13>
「逝ったひとの哀しみはやがて去るが、寂しさはいつまでも残る」
最愛の人を亡くした人の言葉だ。
大きい喪失は、地平線の果てまでつづく。
深い悲しみは、吸っている空気の中に、リアルにあるものだ。
映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー(2016)」の原作者&監督ケネス・ロナーガンはそう考える。
苦悩する無力な男が、筋肉を削いだ、骨がきしむ、悲しい物語をつむぐ。
2017年アカデミーの脚本賞と主演男優賞を獲得した。
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ボストンで、トイレの詰まりを直したりする便利屋の男がいた。
修理しても、感謝の言葉すらない。
「これで直らなかったら、どうするんだ」
「トイレを買い替えるしかない」
「プロなのに、そんなことしか言えないのか」
トイレでパニクっている客は、男に怒りをぶつける。
便利屋は、黙って耐えるしかない。
そんな男の暗い午後、兄、急死の知らせが入る。
兄がいたマンチェスター・バイ・ザ・シーという街には、いい思い出がない。
亡兄を埋葬して早くボストンに戻ろうと考えていた。
ところが、土地が凍土になるこのあたりでは、埋葬は、春先まで待たなければならない。(熱い蒸気が噴出するシャベルで凍土を溶かして埋葬する、金持ち向けの墓地はある)。
そのうえ、兄の遺言で、事前の相談もなく、兄の息子の後見人にならされたのを知る。
悲しい父の姿を見たくないと、遺体を見届けることもしない甥っ子だった。
彼が、深夜に冷蔵庫の扉を開けたら、男が、買い置きした冷凍のチキンが、床に散在した。「父は、こんなふうに冷凍されているんだ。どうして早く埋葬しないんだ」と、男を責める。
居場所のない男は、たいてい悪酔いして殴り合いになるのに、バーに行く。
そんなに蓄えがあるわけではない、男は、マンチェスターで、便利屋の職探しをする。
しかし、誰も雇ってくれない。街の人は、男を避けていた。
家を失火させ、子供たちを死亡させて、妻と別れ、街を逃げ出した過去をもつ男に手を差し伸べる住人はいなかった。
ようやく春が来て、兄は、埋葬。
男は、甥っ子の面倒を見るためにも、一緒にボストンへ行くことを勧める。
ところが、大学のアイスホッケー選手、ロックバンドのヴォーカル、女子大生にも人気のある甥っ子は、「なにもボストンまで行かなくても、壊れたトイレはどこにでもある。僕の人生はここにある」と突っぱねる。
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男は、無理をして、ボストンに2部屋のアパートを借り、1部屋は甥っ子にとってあることを告げる。
彼のゆるんだ口元を、男は視覚の隅で捉えていた。
男がボストンに立つ日、二人は、マンチェスター港の突堤で釣り糸を垂れ、
漁師だった兄、父だった人を、しのんだ。
肩を抱き合うこともない。
二人から、寂しさは、去らない。
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<映画好きのためのトリビア>
⭐️マット・デイモンが、この脚本に目をつけ、監督と主役をしたいと構想を練っていたが、さまざまな事情で、監督をケネス・ロナーガンに譲った。ロナーガンは、150頁の台本を書き上げ、デイモンの好意に応えた。デイモンが子供の頃からの友達、ケイシー・アフレックを主役に推薦。二人は、アカデミーの脚本賞、主演男優賞を獲得した
⭐️監督兼脚本のケネス・ロナーガンは、行いの悪い娘をたしなめていたら、通行人の男に非難されて、激怒した。この映画に同じようなシーンをつくり、なじる男を、彼自身が演じた
⭐️マンチェスター・バイ・ザ・シーに入る高速128号線からは、(結婚した)教会、(兄を埋葬した)墓地、(自宅を失火)消防署、(失火で調べられた)警察署、(子供を迎えていた)学校など、男の運命を変えた場所が車窓から見えた
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