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ダイエット中に口に入ったシュガースクラブが私にカロリーの記憶を呼び起こさせて、すべてが水の泡になった話


それでもなお痩せようとしている。

不肖わたくし、黒山ぱいはかなり親しみやすい健康的な体型であると自負いたしております。

Twitterでいつだったか「ビューティー」と「メイク」のタグを誤ってフォローしてしまったようで、
見たくないときに見たくない情報が容赦なく流れてくる、昨今。

美容垢ダイエット垢コスメオタ垢まァ何でもいいけれど、プロフィールの「♡/Before」の左に自分と同じ体重が書かれているのを見ると超げんなりする。「♡/After」に10キロ近くマイナスされた数字が並べられていると、尚のことテンションが下がる。彼女たちは人知れず明確に人の心を傷つけていることに気がついたほうがいい。(そんなわけない)

厚生労働省のサイトによればBMIにして18.5以上25未満は「普通体重」である。さらにもっとも病気になりにくいのが22であり、
私の身長だと162㎝なので、57.74キロ。これが最強の、人間としてあるべきベストコンディション体重であるというのに、
プロフィール上ではまるで恥ずべき事かのごとく─────「before」。

なァ〜〜〜んでそんなして痩せないといけないのだ!!?

曰く、「デブは醜い」「努力不足」「若いのにもったいない」「美意識低い」

……。

これはね、もうね、全然なんの根拠もない偏見なんだけど、
女の体重に厳しいのは男じゃなくて、女なんじゃないか。

などと発言すると、往々にして

「そんなの、ぱいさんの周りにいる男が親切だから、ぱいさんの潤沢な腹肉に何もコメントしないでいてくれるんですよ!」

という、抗議を受ける。

しかし私の周りにいる男性たちはすべからく、私の腹肉の細かい増減グラフなど気にしてすらいない。日経平均株価の推移は一銭単位で気にしこそすれ、私の腹には微塵の興味もない。気にする必要がないんだろう。たまにふと気がついたように、

「あれ?ぱいさん、最近痩せたでしょ!」
と指摘してくれることがあるが、そんなときはたいてい──────────太っている。

そりゃね、たしかに私の周りにいる人たちは、どっちかと言ったらのほほんとした一般男性だ。類は友を呼ぶというけれど、当然私と同じ世界観に生きているわけだから、超絶イケメンな芸能人でもイケイケなIT企業の若手社長でもない。
もしかしたらそういう人たちは自分の周りに侍らす女が、
簡単には病気になったりしない、厚生労働省推奨体型の健康優良児であっては困るのかもしれないが、そいつらのことはいったん置いておく。

私の周りには居なければ、それはすなわち存在しないのとおんなじなのだ。

しかし、しかしだ。
女性ときたらすぐに明確に間違いなく気づくのである。
私の周りには当然popteenのモデルはいないし、港区をうろつき突然ジャニーズと結婚発表をするプロの「一般女性」も存在しない。

なーのーに、気付くのである!!!

「ぱいさん痩せた?」「今日ちょっとむくんでない?」「え脚やばいよ」「それでミニスカ?笑」「あれ、すっきりしたね」「ちょ、背中の肉!」

特に弊母ときたらもう。(弊母は造語です)
51歳にて目出度く10キロのダイエットに成功し、今や24の娘より軽やかな身なりがゆえに、

「あんた、お風呂上がりくらい脚のマッサージしなさいよ」

などと、スムージーなど啜りながら要らぬアドバイスを囁いてくる。

洗濯で縮んだスカートに娘が「キツイ」とひとこと言おうものなら、
「私に履かせて!」と飛んでくる。

げんなりである。ああもうげんなりである。

の割に、娘がダイエットを宣言するやいなや、
お菓子の差し入れやらお代わりのすすめやらと、あれこれ横槍を入れてくるのも、なんというか、ああ、オンナだなあ、と思うのだ。


というわけで私はいま、「女性の目を気にして」ダイエットに勤しんでいる。

社会で生きていくうえで、正味大切なのは異性の目より同性の目なのだ。すくなくとも、わたしの世界では。

ちなみに自分語りすると(今までのも全部自分語りだけど)、いままで実はそんなに甘いものが好きではなくて、クッキーよりポテチ、パンケーキよりハンバーグな人間だった。
ダイエット中は甘いものを我慢するのが大変!などと聞いていたけれど、私が我慢するのが大変だったのはどう考えても脂であった。

ダイエット食はそれはそれはぱさついている。

マヨネーズ、バター、生クリームという、
デブ三種の神器の代わりに、
塩気のない木の種、蒸しただけの鶏むね肉、蒸しただけの緑黄色野菜。

味気ないとはこのことだあよ。

味気とはすなわち、塩分と脂肪だったんじゃないか。とすら思うレベルで、
味気ない。ダイエット食め。

楽しんで食べられるものが何一つない。

糖質50%カットのパウンドケーキはコンビニにあるけど、
脂質50%カットのポテチを置いてないのはゲームバランスの崩壊だとすら思う。

そんな状況下でも、私は一生懸命頑張った。母の嫌味やオンナ友達の厳しい目から逃れるべく、あんなに愛しているマックを断った。

生きててもつまんねえ〜!
このまま死ぬ〜!



わけもなく、


しばらく続けると人間不思議と慣れてくるもんで。

一か月もダイエット食ばかり詰め込んでると、
あのカロリーたっぷりのかつての大好物たちの味も、思い出すことが少なくなってくる。人間の脳みそってほんと便利で、
蒸した鶏肉にも、味のしないナッツにも、薄甘いドライフルーツにも慣れてしまえばこっちのもんだ。
もはや大好きだったピザポテトやファミチキなどは、脳内ディレクトリの「元カレとの思い出」階層に格納である。

「ぱいちゃんさ、高校生の頃ダブルチーズバーガー君と付き合ってたよね?」
「あー、うん、懐かしいね(笑) 今あいつ何してるかな? もう顔も思い出せないや(笑)」

レベルにである。高校生の頃に彼氏がいたことはなかったので全部妄想だけれども。

そしてめでたく、一か月で2.5キロのダイエットに成功した。(たったそれだけかよという指摘は受け付けない)(そういうちくちく言葉を平気で言えるやつは人格が終わっている)

多少痩せると人間調子づいてくるもんで。
普段お風呂タイムをYouTubeタイムだと勘違いしているだらしない人間のくせに、

「あ、スクラブなるものでもしてみんとす」
などと思い立ったりするのだ。

その昔脱毛サロンで買わされたシュガースクラブなるものがあったはず。
しつこい営業トークに負けて三千円も余計に取られたのに、使わずにしまい込んですっかり忘れてた。ちなみに気が小さすぎるのでこの手の営業は購入確定イベント。断れない日本人代表。


というわけで、実家の風呂場でチューブからひりだしたじゃりじゃりしたペーストを、身体じゅうに塗り込んでみる。たったこれだけで良い女にでもなった気分である。手足だけでなく顔にも使えるとのことだったので、せっかくだから顔にも塗り込んだ。

すると─────甘い!
いや、当たり前なんだけど。シュガースクラブなんだから甘いのは当たり前なんだけど、私は急なカロリーの供給に驚いてしまった。

甘党ならぬ「しょっぱい党」、
甘えもんなんてダイエットの敵ではねえぜと意気込んでいた私でさえ、
久しぶりのガツンと甘味にこてんぱんやられてしまったのである。

あとから詳細を確認すると、そのシュガースクラブは砂糖をさらにはちみつで伸ばしてペースト状にしたものだったらしい。
そりゃーもお甘いに決まっとる。いつも食べてる薄味ドライフルーツからは程遠い、
下品で直接的でひたすらにだらしないあまみ。※本製品は食べ物ではありません。


てか、脳みそ、超喜んでんじゃん!!!


あ〜〜〜、

これじゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!



金木犀の香りをふと感じ、
花束みたいな恋をしていたあの頃を思い出すかのように(そんな頃などない)、

シュガースクラブを皮切りにぶぅわーーっと思い出すカロリーの記憶は鮮烈だった。

塾の帰りにこっそり食べた、クソデカ円形シュガーデニッシュ。バイトしてた頃は毎日のように吸ってた、チキチーのセットとマックシェイクチョコ。なんかもう常に口に含んでたからあげクン……。懐かしいカロリーの味。

ああ〜。

ここがあたしのアナザースカイ〜〜〜。


この夜をきっかけに私は考えを改めました。
もうね、厚生労働省に従おうと。
政府が設定した、「健康な日本人」の基準に正々堂々従おうと。
オンナたちの目など気にしてられない。
生憎私の人生は一回きりなので、好きなもん好きなだけ食わしていただきまっせ────────────。

で、体重はもとに戻りましたとさ。


ちゃんちゃん。


(とか言いながら、またふた月もするとダイエット熱がメラメラしてくるんですな。結局一生この呪われた輪廻から抜け出せないんだよなあ)

おわり。

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