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『テュルク語族マップ』サポートページ

ここは、『テュルク語族マップ』(無料!)に収められなかった情報や補足説明を置いておくためのサポートページです。最新版へのリンクもここに置いておきます。

『テュルク語族マップ』の最新版は ver.1.00 (04/04/2021)です。古い版をお持ちの方は最新版をご利用ください。地図のPDF版が欲しい方は、ツイッター経由でDMください。

これまでの訂正・変更点は以下の通りです。
ver.0.91 (18/02/2021) → ver.1.00 (04/04/2021)
・ アゼルバイジャン語の音韻表記に誤記があったのを訂正。
  誤: q [q]
  正: q [g]
・ トルクメン語・モンゴル語の説明をより正確なものに改訂。
・ 本サポートページへのリンクを追加。

ver.0.90 (17/02/2021) → ver.0.91 (18/02/2021)
・モンゴル語の音韻表記に誤記があったのを訂正。
  誤: ө[ø] ү[y]
  正: ө[ө] ү[u]


この地図に収録されていないテュルク語

テュルク語の分布に関して、こんなコメントをいただきました。

嬉しいことに(あるいは困ったことに)、テュルク語族の中には30以上の言語が現存しています。以下の Wikipedia 記事に、各言語の話者概数がまとめられています。

『テュルク語族マップ』に登場する12言語で、テュルク語族の話者人口の9割くらいをカバーしてる勘定です。それ以外の言語でも、
 + バルカン・ガガウズ語(トルコ・ブルガリア・マケドニア周辺)、
 + ホラサン・トルコ語(イラン東北部)
 + ガシュガーイー語(イラン南部)
 + カラチャイ・バルカル語(ロシア連邦の北カフカス地域にあるカラチャイ・チェルケス共和国、カバルダ・バルカル共和国ほか)
 + クムク語(ロシア連邦の北カフカス地域にあるダゲスタン共和国、チェチェン共和国、北オセチア共和国ほか)
 + クリミアタタール語(クリミア半島)
 + カラカルパク語(ウズベキスタン北西部のカラカルパクスタン自治共和国ほか)
などは、それぞれ十万~数十万人の話者がいます。

クリミアタタール語などは、地図に入れようとメモも作ってたのですが、スペースが足りずに断念しました。そもそも一般向けの地図なので、これ以上の情報を詰め込むメリットは少ないという判断だとご了解ください。

各地に散らばるテュルク系少数民族に関しては、私の知識がゼロなので紹介は無理です。下の Wikipedia 記事に概要が載ってます。これを超える事柄については、誰か偉い人に頼んでください。


言語の分布と文字と国境

文字表記に関して、こんなコメントをいただきました。
(これを受けて、ver.1.00 では説明を少しだけ増やしました)

言語地図を作成するにあたり、これはとても心苦しい問題なのです。
地図内の「おことわり」欄にも記したとおり、話者の分布境界と国境が一致しているわけではありません。その一方で、公文書作成や学校教育などのために、書き言葉の表記法を各国政府機関が定めています。そのため、同じ言語を喋っているにもかかわらず、国境の向こうとこっちで使ってる文字が違うという事態が生じるわけです。

モンゴル国では、ソビエト影響下の共産主義時代の政策で、1940年代にキリル文字が導入されました。しかし現在では、モンゴル文字を復活させてキリル文字との併用にしようとしています(将来的にはモンゴル文字だけにしたいという意向もあるようですが、実現するのかどうかは分かりません)。一方で、中国の内モンゴル自治区では古くからのモンゴル文字がそのまま使い続けられています。

もっと極端な例はアゼルバイジャン語です。アゼルバイジャン本国には700万人程度の話者がいますが、イラン北部にはその倍の1500万人以上の話者がいると推定されています。アゼルバイジャン国内での表記は ә や ı などを含んだラテン文字ですが、イラン国内ではアラビア文字が使われます。さらに、ロシアのダゲスタン共和国などにもアゼルバイジャン語の話者がいて、キリル文字を使っています。

結局のところ、話し言葉は国境を越えて広がっている一方、書き言葉は国単位でかなり決まっている、というわけです。文字に関する情報を含めて言語分布地図を作ろうとすると、そこがトラップになるとご理解ください。


言語と国家

国旗と言語に関して、こんなコメントをいただきました。
いろいろといいわけを書くのは不粋なのですが、ここはサポートページだし、何が「リスキー」なのかということも含めて解説を加えておきます。

前節にも書きましたが、話者の分布範囲と国境が一致しているわけではありません。しかし、「国語」を定めることが、国民統合の方策として使われることが少なからずあります。

たとえば、ルクセンブルク語は、ドイツ語の方言に過ぎないとされていましたが、ルクセンブルク政府主導で表記法などが整備され、1984年にルクセンブルク大公国の公用語と定められてドイツ語から政治的に独立しました。
ボスニア語は、言語学的にはセルビア・クロアチア語と同じ言語であるとみなされていますが、ボスニア政府の政治的立場では異なる言語ということになっています。

さらに、モンゴル語のところにモンゴルの旗を立てるというのは、「モンゴル国以外に住むモンゴル語話者の軽視ではないか」とか「モンゴル語はモンゴル国の独占専有物じゃない」とか「モンゴルに住む非モンゴル語話者を無視している」といった批判を産む土台になったりします。
もっと過激なことを言えば、「○○語を話さない奴は○○国民じゃない」といった、言語を理由にした排除思想だって世の中にありうるわけです。

このように、言語学的な区分と政治的な区分が一致しないことがしばしばあります。そして言語の扱いが政治上の問題や紛争の火種となることもあるわけです。その一方で、言語を政治やナショナリズムの道具として扱うことを嫌う立場から、国旗を言語のマークとして使うことに抵抗を感じる人が少なからずいます。

さらには、現地で生の言語を調査している研究者から見れば、政治的な問題に踏み込んで現地政府に目を付けられるようなことは避けたいわけです。たとえば、中国は新疆ウイグル自治区に民族問題を抱えており、この地域を「東トルキスタン」と表示することは、中国政府に対する反抗的な態度だと認識されるかもしれません。滞在許可が出なくなるとか、現地の公安組織から嫌がらせをされるとか、研究に支障が出るようなリスクは避けたいと思うのが自然です。

まとめると、この地図のポーランドボールを「政治的だ」「学問的じゃない」と批判する余地は十分にあるわけです。この地図を見た専門家が渋い顔をしながらリスキーだと言うのはそういった背景があると思ってください。


アルタイ語と幻の「アルタイ語族」

アルタイという用語に関して、こんなコメントをいただきました。
アルタイ語を地図に入れなかった理由は2つあります。

アルタイ語はトゥバ共和国の西隣にあるアルタイ共和国の公用語で、西に隣接するロシア共和国アルタイ地方なども含め、約5万人の話者がいると推定されています。トゥバ語やサハ語と同じテュルク語族の北東語群に分類されています。現行の表記法では、ロシア語のキリル文字アルファベットに加えて、ј [dz/ɟ], ҥ[ŋ], ӧ[ø], ӱ[y] が使われます。

このアルタイ語、世間でよく知られたアルタイという名前に比べて、話者数はかなり少ないのです。話者が50万人くらい存在するクリミアタタール語ですら地図に入れられなかったので、アルタイ語を入れるのも断念することにしました。それが1つ目の理由です。

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( ↑ はアルタイ共和国のポーランドボールです。せっかく作ったし再利用)

さて、比較言語学の盛んなりし頃は、「ウラル・アルタイ語族」というユーラシア中北部を横断的にカバーする大語族が提唱されていました。しかし、1960年代になると、「ウラル」と「アルタイ」は別物であり、そもそも「アルタイ語族」の存在すら怪しいという考えが広がります(下の英語版 Wikipedia に経緯がまとめられています)。

要するに、表面的な類似性を見るだけでは不十分で、語彙や音韻などの対応関係が明らかにならなければ同語族とは言えない、という考え方が浸透してきたわけです。現在においては、テュルク語族の各言語に加えて、モンゴル系の諸言語や、満州語などを含むツングース系の諸言語を合わせて、「アルタイ諸語」という緩いまとめ方にとどめることが多いようです。

つまり、この「アルタイ諸語」というのは、「家族や兄弟とは言えないかも知れないけど、もしかしたら血縁があるかも知れない顔の似た人達のグループ」といったようなものです。
というわけで、存在の怪しい「アルタイ語族」をことさらに推す必要もなかろう、というのがアルタイ語を入れなかった2つ目の理由です。


Q&A あるいは想定問答集

Q: なんでこんな地図作ったの?
A: いっぱいあるテュルク系言語の概要を把握したいという妄想に駆られての犯行です。初版を公開したときのツイートに書いた欲求そのままです。トゥバ語とその周辺のことが知りたくて関連情報をまとめてるうちに、こんなことになりました。


Q: この地図作ったあんた誰?
A: 通りすがりのトゥバ音楽ファンです。だからトゥバ語が地図に入ってます。トゥバ共和国はモンゴルの北西に位置していて、モンゴルのホーミーに似た喉歌の文化があります。まとめ作ったから見ていってね。楽しいよ。


Q: あんた専門家? 信頼していいの?
A: 専門家じゃないです。テュルクの専門家の領土に土足で踏み込んでいる自覚はあります。爆死上等。

A2: というわけで、初版 (ver.0.90) では、さっそく地雷を踏んで爆死しました。ver. 0.91 以降では訂正してあります。


Q: 情報ソースは? 
A: 地図の内容の大半は、日本語版・英語版および 各国語版の Wikipedia の該当項目、およびそこで言及されているサイトを参照して作りました。間違いが見つかれば教えてください。

とくに話者人口推計に関しては、日本語版・英語版・その他の言語版で Wikipedia の数字が全部違っていたりしてカオスです。数字の桁数以外は怪しいと思ってください。地続きの中央アジアでは、1人が複数の言語を話すのも普通のことなので、どのレベルの話者を推計に含めるのかという線引きの問題が常にあるわけです。 

また、キリル文字からラテン文字への移行が計画・進行中のカザフ語やウズベク語では、今後の情勢により採用される文字の一部が変更になる可能性があります。下の Wikipedia ページにカザフ語のラテン文字化に関する紆余曲折が載っています。


Q: テュルク語の話者って相互に意思疎通できるの?
A: こちらのリンク先の動画とそのコメントをご参照ください。


Q: あの白目の付いた丸い旗のアイコンは何なの?
A: ポーランドボールと呼ばれている、擬人化された国キャラです。かわいいよね。興味のある方は下のサイトの説明をどうぞ。
手描きで作るのが正式らしいので、デジタルツールで作ってる私の描き方は邪道なのかも知れません。


Q: 何のソフトを使ってこの地図を作ったの?
A: 古代バージョンのイラレです。誰か最新版のライセンスを私に買ってください。


Q: それぞれの言語の良い教科書を教えてください
A: 私は個別の言語の教材に関する情報は何も持ってません。ごめんね。

……と書いておいたところ、専門家であるウギャーさんが学習者向けの情報をまとめてくださいました。ぜひそちらをご覧ください。

このほかにも、テュルクの言語と文化に関して精力的に書いておられるウギャーさんやタタ村さんやまそしゅさんのツイッターやnote記事を参考にされると有用かもしれません。

さらに専門家の皆さんによる「テュルク友の会」の note も始動しました(私は関係者じゃないです)。


ライセンスおよび利用料(無料!)

Q: 『テュルク語族マップ』は無料?
A: 無料です。仕事だったらこんな面倒な作業はしないよ。このサポートページを超えるサポートはご期待なさいますな。


Q: 『テュルク語族マップ』再利用してもいい?
A: 非商用ならご自由に再利用ください。
可能ならこのページまたは私のツイッターへのリンクを表示してください。
無料公開してますが、著作権は放棄してません。
アフィリエイトブログ・アフィリエイトサイトに使うのは禁止します。
商用利用に関してはツイッターのDMで個別にご相談ください。



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