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フランスのブランドで感じた差別化戦略について

Voicy「コテツのブランディングと商売の話」コラム
読めばブランディングができて商売が上手くなる
このコラムは、コテツがVoicyのブランディングと商売の話で語った内容を文章化し加筆したものです。
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Voicy No.0070 2021年11月8日放送
フランスのブランドで感じた差別化戦略について

品質で差を付けたい。

日本人と日本企業は品質で差を付けたいし、
そう信じている傾向があります。

品質とは説明のつく差です。

「うちのなんとかは、なんとか成分がほかよりいっぱい入っている」というように、成分・製法・機能の数で違いがあると言いたいのです。
車なら燃費とか馬力、スペックです。

昔から買っていただく物自体に魂が宿るし、
魅力がここにあると思っているから、
その物自体の差をどうしても言ってみたいのです。

もちろん、俺もそういうカルチャーで生きてきたから、
営業ではとにかく違いを説明したいので、
「A社の商品はここがこうで、B社の商品は
ここが優れているように見えるけど、
最近出た当社の商品はこんな性能で、
ここを上回る数字をたたき出しています」みたいな売り方を
当然するわけです。

これは日本企業が1970年~1990年まで勝ってきた1つの理屈であって、
故障が少ないのも数値化できる差です。
故障率を出せたり、燃費がよかったりするのも同じです。

ウオークマンが世界に出て行ったときに、「世界最小最軽量」と、
計れるもので売ったのも一緒です。
20世紀、日本企業、日本ビジネスはずっと製品と品質で差を付けて勝ってきたので、俺もずっとそういう形で商売をやってきたのです。

フランス高級チョコと独占契約を結んで

俺がフランスから高級チョコを独占契約して、
持ってきて日本で売ろうと思ったのが、最初のブランドとの接点です。

フランス国内には日本に入ってきていない
おいしいチョコレートがあるはずだ。
ちょうど高級チョコブームが始まっていたので、
それを日本に持ってきたらめちゃくちゃ売れるんじゃないか
という気持ちでした。

チョコが好きだったのと、
値下げに巻き込まれないビジネスだというのが決め手になって、
フランスに行ってみたんです。

フランス語がしゃべれるわけでもないし、海外経験が長いわけでも
強いわけでもないけれど話してみようと思いました。

時間は少しかかりましたが、
日本のバレンタインの催事はすごいものねというのは
フランス人のショコラティエ(チョコレート職人)も結構ご存じで、
最初の取引に至ります。

4つのブランドの違いは何か。

最初は4ブランドが、日本でテストしてもいいことになりました。

4ブランドの違いとか、他社とうちの高級チョコの違いを
説明できるようになろうと思って、
つくっているキッチンを見に行ってみると、
同じようなつくり方をしています。

もちろんベースは町のチョコレート屋さんで、
家族でやっているフランスのチョコレートブランドで、
日本でいうと町のパン屋さんみたいな感じです。

チョコレートが文化に根ざしていて、
それを日常的にたびたび買いに行くので商売として成立しています。

日本の明治のチョコレートのように工場でつくっているわけではないから、行ってみるとオーナー兼ショコラティエ(職人)が指揮執行し、
少ないところだと3人、多いところだと20人でつくっているわけです。

でも、どこもやり方は同じで、
つくり方に何の差も見受けられません。

もちろん目の前では言わないです。
「みんな同じことやっているんですね」と言うのは大変失礼だから。
でも、のちのち、これが大して失礼じゃないとわかってきます。

日本でチョコレートのCMを見ていると、なんとか製法で、
口溶けまろやかにとか言いますよね。

「粗挽きネルドリップ製法で」とかコーヒーの宣伝でも言うんですが、
これは説明できる製法の違いです。

チョコをつくっているところを見ても、
あまり違いは見らなかったなと思いました。

では、原料が違うではないかというので、
原料についていろいろ教えてくれるわけです。
それをメモっていても4ブランドに違いがありません。

ヨーロッパにはクーベルチュールといって、豆を入れて、
それをどろどろのチョコに変えていく会社があって、
有力チョコレートブランドは、
大体そこから仕入れていることが多いのです。

なので、仕入れ元も一緒。

それはラーメンなら麺の仕入れ先が同じようなものです。
原材料や入れているところもあまり変わらないので
最初は違いがよくわからなかったのです。

しかし日本人は、どうしても説明できる違いが欲しい。
服でも生地がいいとか、なんとか織りだとかが必要です。
チョコには意外とそれがなくて、これをどう売っていくのかと思いました。

チョコの違いは分析すればわかるのか。

今もそうですが、
当時も俺はプロにアドバイスしてもらう体制を取っています。

ブレーンを用意して戦略を立てるところは、
ボストンコンサルティンググループという
外資系コンサル会社を辞めた方がつくったアドバイスをする会社に
入ってもらっていたので、
4つのチョコブランドをどう売るか相談したのです。

そうしたら4つのブランドをレーダーチャートのように、
何々の味が強いとか、分量が多いとか、相対評価できる要素を並べて
点数化する作業をやるというのです。

たとえば日本車なら、スポーツカーのイメージはホンダが強い。
ファミリーカーのイメージはトヨタが強い。
最近では、加速性能は日産が強いとか、数値化して比較ができます。

そのようにブランド4つを書いて、日本で有力なところを
3つぐらい持ってきて合計7つ書いて、
パッケージとか見た目なども点数化していきました。

野球だとスカウティングリポートです。
肩の強さ、長打力という要素に分けて、要素を還元していって、
それを点数化して、その差を見ようということを高級チョコレートでやる。

それをベルギーとかフランスのチョコレートを持ってきて始めました。

参加したコンサルティング会社の人と自分の会社の幹部でやったんだけど、参加者全員の頭にハテナが出てしまう。
食べてみると、どれもおいしいね、そんなに変わらないねとなって、これは一体どこに差があるんだということになりました。

雰囲気で差別化。

この辺から俺は、ブランドは数値化や相対比較して、
「こっちのここが優れている」といって買うものではないと
思い始めていました。

最初デパ地下にチョコを入れたときも、差を説明したかったので
理屈をこねたいし、
スタッフにもそう説明させるようにやっていたんだけど、
あまり売れなかった。

でも、それが全然違う視点だとわかったのです。

あるとき自分が取引を始めていたフランス人ショコラティエに
聞いてみたのです。
「つくり方に特別なやり方が何かあるわけじゃないんですか」と。

暗に、ほかで見たけど、同じだよねという意味で言ったら、
「そうだよ。だって俺、あそこと師匠は一緒だもの」。

つまり、「同じだよ」と言っていたのです。

もちろん分量とか味付けの最後のところは違うと思います。
ただショコラティエというチョコレート職人の世界において、
「俺は誰々と師匠は一緒だからさ」という話。

つまり、俺と彼はつくっているものは大体一緒だよみたいになって、
じゃあ、何を説明したらいいのか聞いてみました。
そうしたら、
「まず俺がつくっているということが違うだろう」というのです。

同じものをつくっているけど、これは俺がつくっている。
あれはあいつがつくっている。
それが価格やブランドを説得する差になるよと言いたいらしい。

そこのショコラティエは4代続いていたんだけど、
「普仏戦争のときにどこどこの国が攻めてきたけど、俺のひいじいちゃんはチョコレートをつくる工房から逃げなかったんだよ」みたいな。

うん、それが?という話じゃないですか。

結局、歴史を売っているということを言いたいわけです。
今日買うのは一粒のチョコだけど、そのチョコを
自分がつくっていることと、このチョコを売ってくる中に、
どんなドラマがあったかみたいなことを言ったらいいと言うわけです。

でも、俺としては伸びてきた日本企業の売り方になってしまっている。
そこではっと目が覚めて、
頭に電球がピカッと光ったような感じがありました。

これは物を売っているんじゃないんだ。
ブランドの差別化は、歴史とか、どんなドラマがあったか、
だれがつくっているかで違うと気づいたのです。

今となっては世の中的にもブランドはそうだよなとわかる方はいるけれど、自分がそれをやっていたのは15年前ぐらいで、
あまりそういう捉え方をしていませんでした。

数値化や相対比較で売るやり方は、
iPhoneが出てきて競争ルールが変わってしまいました。
iPhoneはわざと重くしているぐらいだから、
それでジョブズが「美しいでしょう?」みたいなことを言う。
家電で「美しいでしょう」に、当時は俺もびっくりしたものです。

時計でも服部セイコーにはすごい技術と精度がある。
フランス、イタリアの時計は技術も推してきますが、素敵でしょう、
官能的でしょうということを推してくるわけです。
持っているとステータスが高まるでしょうみたいな。

だから時計自体の技術的理屈で買ってもらうつもりが、
そもそもないのです。

ワイン、葉巻も同じです。
無形なものでステータスも買ってもらっているという覚悟がある。

差別化のポイントは物ではなく、歴史、誰がつくっているか、
センス、スタイル、雰囲気、ムード、ステータスなどの空気感です。

ブランドは最後、好みの勝負に持ち込めるかどうかなので、
比較を出していると逆に差別化にならないことが途中でわかってきて、
今は、自分は日本企業でもタレントさん、議員さんという
人のブランディングでも、相対比較からできるだけ離れるように
徐々に持って行くやり方をしています。

今日は以上です。久々野智小哲津でした。

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