中国が攻めてくる!と狼少年は叫ぶ

 こんなことを言ってきたひとがいる。
<ロシア、中国は独裁国家。弱ければ侵略する。香港は中国共産党に言論の自由を奪われた。中国共産党は台湾侵攻を近々行おうとしている。そのとき沖縄は戦場となる。
中国には戦えば痛い目に合うと思わせなければ必ず攻めて来る。
歴史上中国共産党は、ソ連と国境紛争、ベトナムに侵略戦争、インドと国境紛争、朝鮮戦争、台湾にミサイル攻撃、フィリピン沖の島を侵略、内モンゴル自治区のウイグル人弾圧。
このままでは日本も中国から侵略される>

 中国脅威論を唱える右派の典型的レトリックだ。

 中国が近隣を併合しようとしてきたのは、数千年来の帝政の時代からだが、日本は一度も狙われていない。今のように国際法もない時代ですら、朝鮮、ベトナム、ラオス、ビルマ、ブータンなど、近隣の諸国は独立を維持してきた。

 ただし、いま台湾を狙っているというのは本当だ。台湾に外省人がいて北京語を喋って暮らしているかぎり、大陸中国は自国領扱いしたがる。

 中国の大国主義は昔からあるものを、わざわざ中国共産党とくり返して書くのは、反共主義者だからだ。ソ連が樹立されたとき、欧州列強が侵攻した歴史を考えたこともないのだ。ソ連はハリネズミになった。スターリンばかりが悪かったわけではない。そのとき、日本もシベリアに派兵して占領したのだ。

 中国の行ってきた戦争を列挙しているが、どれも近隣とのもので、アメリカのように遠くベトナムや中東や中南米まで軍を送ったり、国家元首を暗殺したり拉致したりはしていない。これは今後も変わらないだろう。戦争は不経済だからだ。それに世界じゅうにいる華僑はどうなる。華僑は中国の金ヅルだ。

 日本は中国にとって近隣だ。しかし、海を隔てているから、占領は困難だ。ベトナム、インド、朝鮮も占領されていない、というのも、これらは海に面していて、ウイグルやチベットのような内陸国とはちがい、占領は難しいのだろう。日本はどちらに似ているか。言うまでもないことだ。

 中国は独裁国家だというが、ゼロコロナをめぐってあちこちでデモが起き、習近平は政策を転換せざるを得なかった。日本でそんなことがあったか? いまや三権分立を反故にした、押しも押されぬ独裁国の国民が隣国を侮る資格はあるまい。

 日本は中国に侵略されるだろうか? いまのままで行くと、その可能性は大いにある。しかし、『戦争論』を著したクラウゼヴィッツの「戦争は手段を換えた政治の継続にほかならない」という金言を俟つまでもなく、重要なのは政治、すなわち外交である。

 いわれなく他国に怯え、侵攻を妄想することが、戦後ずっと続いてきたニッポンは、自らを改めて、外交に徹することが、生き残れる唯一の道だ。中国とガチで喧嘩して勝てるわけがないのは、太平洋戦争当時陸軍大将だった遠藤三郎が指摘した通りである。

 日本に必要なのは、米国と中国の間で「ずるく」「ご都合主義的」に立ち回ることだ。どっちかに忠犬のごとく添って、ワンワン吼えるべきではない。

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