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原広司『集落の教え 100』|読書メモ

著者の原さんは、京都駅ビルとか札幌ドーム設計した建築家で、東大の教授もやってたんだけど、そんな権威バリバリの肩書きなのに「象徴としての建築-体より、匿名的で無秩序な建築-群に興味がある」みたいな方で、この本は東大での十数年に及ぶフィールドワークの研究結果をまとめたもの。

世界の様々な集落に関する論考が、写真+文章の構成で一つずつ丁寧にまとめられている。構造体としての建築でも、都市でもなく、集落ってとこがスキ。

集落にも様々なタイプがあって、山の稜線に並んでるものもあれば、谷底の川沿いに並んでるものもある。礼拝堂を中心に密集して築かれるものもあれば、山の中腹にポツポツと離散して築かれるものもある。そうした集落の特徴を、気候や宗教や文化とセットで考察して、集落の構造を100の切り口から眺めたのがこの本。

ちょっと面白かったのが、ペルーのタヤタヤという地域でみられる住居の話。なんと、ひとつの住居(敷地)の中に、郵便施設や教育施設があるんだと。つまり「都市の中に住居」があるのではなく、「住居の中に都市」がある、みたいな逆転の構造があって。

でも昔は世界的に見てこういう住居の形は珍しくなかったらしいし、日本でもひと世代前までは、自宅の一角がお店になってたりする住居は一般的だった。寧ろ現代の住まいは、もともとあった複合的な住居の機能からいろんなものが剥がされた状態になってるんだ、と著者は書いてるのね。忙しい現代人にとっては、風呂に入って寝るためだけに部屋がある的な。

でも最近は、世の中的にまたそこからV字に折り返しが来てると思ってて、たとえば前に自分が住んでたロイヤルアネックスは、賃貸マンションの中に食堂・ホテル・ワークスペースと色んなものがハイブリッドされてたんだけど、そういうコンセプトの住宅やホテルや店舗って増えてるなーと思うし、コロナで自宅の中に仕事スペースが必要になったりと、再び住居や敷地の中が、外部にある都市の機能を吸収しようとし始めてる。

この本自体はやや抽象的で難解な文体なんだけど、個人的にはなんか色んなうねりに接続できそうな交差点にあるような本だった。

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