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3月15日◆シニアが都会に移住してみたら…

昨日のエッセイ「待ち合わせはやっぱりコメダ」でも触れたことだが、私の両親(共に70代)は、2023年にそれまで70年以上も過ごしてきた東海地方を離れ、関東地方に移住した。移住先に選んだのは、”川を越えたら東京23区”という場所。シニアになってからの都会移住である。

それまで住んでいたのは、田舎と言えど人口30万人くらいの中都市で、交通の便はそれほど悪くないところだった。けれども病院には車がないと行けなかったし、家の付近はバスルートから外れていたため、車に乗れなくなったらどうするか、という不安はつきまとっていた。私や妹が住む関東地方から新幹線で2時間もあれば着く距離だったとはいえ、移動が新幹線という時点で“心の距離”はそれなりにあった。

だから父から一昨年、本気で移住を考えていると聞いた時は、ビックリした反面、少し肩の荷が下りたような感覚を抱いた。もちろん、同じ県内に住むことになったからと言って緊急事態のリスクが減ったわけではない。それに私の家から電車で1時間はかかる。けれど、車を1時間走らせば夜中でも駆けつけられる距離であることや、妹の家が徒歩圏内であること、そして車に頼らずとも公共交通機関を使って自分たちで出歩けることを考えたら、不安の度合いはだいぶ下がった。そして何よりも良かったのは、会える頻度がバク上がりしたことである。

これまでは1年に1度どころか、3年に1度しか会わないこともあった。二人が60歳くらいまでは特になんとも思っていなかったのだが、だんだん会う度に小さく弱くなっていくような気がして、切なさがこみ上げていたのだ。だからと言って急に年寄り扱いをすることもできず、やり場のない気持ちをどう消化していいか、正直自分でもわからなかった。そうこうしているうちに母は老後うつのような症状が出始め、コロナ禍で拍車がかかりずっと家に引きこもっていたので、心配はもはや危機感へと変わっていた。

そんな中で父から移住計画を聞かされたので、”荒治療にも程があるのではないか?”とも思ったが、どうやらこの決断は功を奏したらしい。母は見違えるほど明るくなり、新しいライフスタイルを楽しみながら受け入れている。まだ芸術に触れるような都会らしい娯楽は体験していないようだが、それでも知らない街を散歩するだけで十分刺激を得ている様子。ある日「この前道に迷っちゃって…(笑)」と暴露してくれた表情は、笑いに満ち溢れていた。たとえ何かに失敗しても、できなくても、ただ笑っていてくれれればそれでいい。そんなふうに思えるようになった自分にも、少し驚いている。

少しでも多くの時間を笑って過ごしてほしいし、なるべくたくさんその姿を見ていたい。今の状況なら、きっとそれは叶うだろうと思っている。

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