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「カンバン」の本質を「トヨタ生産方式」から学ぶ

「カンバン」は「kanban」へ

最近ソフトウェア業界で主流になりつつある、「アジャイル開発」やその手法の「DevOps」と必ずセットで出てくる言葉の一つに「カンバン」がある。
これは、チームでアジャイルな開発をする際のプロジェクト管理の手段、「カンバン方式」を表す言葉だ。
全てのタスクを見える化し、進捗ごとに区分するこの手法は、今や開発現場以外でも多く受け入れられ、Trelloをはじめとするタスク管理サービスにも多く取り入れられている。

ちなみに私も、3年くらいThings3を使っていたが、最近一部のタスクをNotion上でカンバン方式で管理しはじめた。今までモヤっとしていた部分がかなりクリアに管理できるようになったので、また別の機会に紹介したいと思う。これすごいの、本当に!

さらに、この言葉は「kanban」という表記で、「カンバン」の音は残したまま世界中に広まっている。「sushi」「kawaii」などに並ぶ、日本を代表する言葉の一つになりつつあるのだ。

「カンバン」はトヨタの「ジャストインタイム」の手段にすぎない

世界中のエンジニアの間で使われている「カンバン」だが、元々ソフトウェア業界で生まれたものではない。
なんと自動車業界、つまり物づくりの現場から生まれた考え方なのだ。

自動車業界のリーディングカンパニーであるトヨタは、40年以上も前に、当時業界最先端だったアメリカに3年で追いつくために、日本の特性を活かした二つの考え方を中心とした大改革を行った。
それが、「ジャストインタイム」と「自働化」である。

「ジャストインタイム」は”必要なものが必要なときに必要なだけ”届くようにする、という考え方で、
それまで当然のように行われていた、部品を大量に倉庫に保管して、必要に応じて後ろの工程に流していく手法とは真逆に、ゴールの方から必要な物を必要なだけ前工程にリクエストし、その前工程で必要な物を必要なだけ前々工程にリクエスト、を繰り返していく方法がとられる。
真逆の発送は「買い溜め」になるだろうか。

ジャストインタイムを実現するために、全ての工程で一目で情報が共有できるような伝達手段として「カンバン」を用いられている。

40年以上も前から製造の世界で使われていた手法が「新しい手法」としてソフトウェア開発に取り入れられているのだ。

 ”変化に強い” 「アジャイル」と「ジャストインタイム」

これだけ聞くと、要は在庫をあまり持たない「ジャストインタイム」って有事に弱そうな印象を持つ人も多いと思う。
しかし、実は変化に強いのがこの「ジャストインタイム」の特徴でもある。
実際、トヨタの生産方式に注目が集まった一つのきっかけに、オイルショックによる世界的不況で、世界中の自動車メーカーが大打撃を食らう中、トヨタだけは比較的小さいダメージで持ち堪えたことがある。
なぜか。
これは、「ジャストインタイム」が注目されながらも多くの組織では導入が見送られることに通ずる部分があると考える。

ジャストインタイムを実現するためには、「必要なものを必要なだけ作れる体制」や「必要なものを手戻りなく作る能力」が求められる。
そのために、トヨタでは徹底的にムダを排除するための取り組みが無数なされている。
例えば、「自働化」という思想もそれを表す一つである。
省人化のためには、まず作業効率を高めることを追求し、その中で必要な部分だけ設備改善を行う。
作業を機械化する際も、必ず自働停止装置を設け、ミスが決して出ないように、人の介入は最低限で良いようにされている。

つまり、変化への強さを支える、圧倒的な個人力「自働化」と圧倒的なチーム力「ジャストインタイム」は表裏一体で、これらを適用するためには、手法だけを取り込めば良いのではなく、組織の考え方、構造を根本的に設計しなければならないのだ。

アジャイル開発の現場でも、ただプロジェクト管理を「カンバン」にすれば良いのではなく、100%作り上げるという思想から離れられるか、上流過程から下流過程までがチームとして動けるのか、フィードバックを短いスパンで得られる仕組みになっているのか、などウォーターフォールの思想の元にある思想・構造を根本的に覆し、手段として「カンバン」を取り入れる必要がある。

そして、それによって得られる形「ジャストインタイム」や「アジャイル」は、「変化に強い」という特徴を持つ。

「カンバン」を活かすためには

「カンバン」の根底に「ジャストインタイム」があることを念頭に置けば、「カンバン」を使って生産性を上げようと思ったときに気をつけるべきことも見えてくる。

・絶対にやることのみを書く
 →”やるかもしれない”や”いつかやりたい”ではなく、「やること」だけが見えている状態にする
・プロセスとプロセスの境を明確にする
 →何が完了したら次のプロセスに進んで良いのかを定量的に全員が分かるようにする
・枚数を減らすことを考える
 →重複しているタスクはないか、不要なタスクはないか、全体を俯瞰しつつ判断する

などだ。

もちろん、あくまで「カンバン」は手法なので、各々の環境や目的に合わせた形で取り入れれば良いだろう。
ただ、始まりは「ジャストインタイム」という効率の鬼のような思想を体現するための手段であることは、「カンバン」の価値を最大化するために知っておくと良いように思った。

時代は常に変わる。トヨタがアメリカを越えようとしていたあのときとは、背景も異なるし、そもそも手段を取り入れる目的も違う。
それでも、根底から変わらないものも多い。
ツールを使う、それだけのことでも、本質を理解しようとし、自分に合う形で取り入れようと挑戦する、その過程にも大きな価値があるのではないか。


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