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“メダル齧り”がなぜ不快になるのかについて考察。(#46)

8月4日、東京オリンピック2020、ソフトボールで金メダルを獲得した代表チームメンバーである後藤希友選手が表敬した名古屋市庁にて河村市長が金メダルをかじるシーンに現役選手だけでなく、様々な場所から抗議の声が上がっています。
後藤選手の所属先であるトヨタ自動車も「今回の不適切かつあるまじき行為は、アスリートへの敬意や称賛、感染予防への配慮が感じられず残念に思う」との声明を出しております。

この件について思うことは基本的にトヨタ自動車の声明と同じです。
ただ、トヨタ自動車だから謝罪したのかという点と謝罪するくらいならそもそもするな(行動に責任を持て)という違和感があります。
突然された行為について、どのような対処もできません。
しかしながら、この行為がなぜ“あるまじき行為”なのか、冷静に検証してみてもよいと思っています。

あるまじき理由①:破壊行為

やり取りの中でこのようなものがありました。
記者からの質問に対し、河村市長の回答は次の通りです。

「噛んだと言われれば噛んだ」
「ぐっと歯が喰い込むような噛み方はしていない」

この市長のコメントをみたとき、市長だけでなく質問する記者たちも問題の本質がわかっていないのだな、と感じました。
問題は「誰が」噛んだかであり、噛んだ「程度」の問題ではないのです。
仮に噛んだ程度の問題なら、「モノが傷ついたかどうか」が焦点になります。
これはモノが傷ついたかどうか、という物質的な観点での意見です。
モノが傷つけば、持ち主は傷つくかもしれません。
ですが、それを上回るのは“モノが傷つくかもしれない”という行為であり、程度ではありません。
そして現役選手やオリンピアンだった人たちの意見をみる限り、共通するのは嫌悪感、つまり心理的側面の問題です。

仮に金メダルへ勝手にシールを貼られたとしましょう。
シールはシール剥がしで剥がすことが可能です。
しかしおそらく抗議の反応は今と同じだと思います。

あるまじき理由②:咀嚼行為

実は①の理由よりむしろこの咀嚼行為が問題の本質になります。
先にも挙げましたが、問題の本質は「誰が(オリンピックメダルを)噛んだ」かです。
かつての表彰台の上で例えばシドニーオリンピックの高橋尚子選手が自らのメダルを噛んだシーンなど、見つけられます。
その際、否定的なコメントは少なかったと思います。
(※ちなみにラストスパートでシモン選手を振り切る際のラストスパートでサングラスを取って投げたシーンが「教育上良くない」といったクレームがあったと言いますが、概ね好意的な見方です)

メダルとは「順位をモノによって表現した」モノであり、それを当事者が苦労の末、手に入れたから価値があるのです。
だから本来の価値はメダルの色でなく、メダルを獲得したアスリート自身でありますが、競技の結果として手に入れたメダルをどう扱うかもアスリートに委ねられます。
少し脱線しますが、かつて先輩から「甲子園の土」を貰ったといって喜んでいた野球部の同級生がいましたが、彼自身甲子園に出場していません。
自分が出場して手に入れたものでない「土」にどのような価値があるのだろう、と思いましたが、感覚的には似ているのではないでしょうか。

そして咀嚼とは、「自分のモノにする」行為にほかなりません。
みなさんはどうして食事をするのでしょうか。
楽しみや団欒といった交流もありますが、本質的には「栄養摂取」のためではないでしょうか。
その栄養は誰のためのものかと問われれば、当然摂取者自身(つまり自分自身)のものでしょう。
たとえばライオンが他のライオンに獲物を横取りされたら、横取りした相手に対して怒るか、ショックを受けるのではないでしょうか。
同じことをされたら「泣く」、と表現したメダリストの方もいましたが、きっと後者の感情だと思います。
自分のモノを自分で咀嚼するならば、誰も異論を挟みません。
ただ第三者が行うと「自分のモノを(第三者から)粗末に扱われた」となるのが自然です。

これは浮気に対しての考え方にも通じる部分かもしれません(ここでは少し論点がずれるため説明を割愛します)。

まとめ

最初飛び込んだニュースをみたとき、端的に「汚いな」と思いました。
何の好意もない中年男性に自分のモノを齧られるって同性でも異性でも嫌じゃないですか。
ただ「他人にモノを傷つけられたら腹立つな」といった物質的な部分を残しながらも、感染症対策の点はいったん外へ置いたとしても、それがなぜ「敬意や称賛への配慮が感じられない」のかが言語化できていませんでした。
第三者にとっては本来価値を誇示する立場にないものをあたかも当事者のように振舞い、挙げ句、何の機智に富んだものでもパフォーマンスとして扱われたこと=メダルの価値を下げる行為となり、私が最初に抱いたような感想と結び付き、不快感になったり、不評を買っているというのが問題の真相ではないでしょうか。

まあ、要するに「余計なことはするな」って話ですが、そんな配慮がなかったから余計な事をしたのでしょう。

今回に懲りて、他の場所でも同様のケースが起こらないことを切に願いたいですね。

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