短編小説 / アリス。
彼の金の髪はまるで 絹糸のようにつややかで
触れることすら憚られるほどのそれを、
ふと、取り去ってしまいたくなったの。
どうしようもなく、
それが欲しくなってしまったの。
はじめて会った時、
あなたお庭で本を読んでいたわ。
林檎の木の下に座って、読んでいたのは
ええと、ええと。
…………そう!不思議の国のアリス。
わたしが青いワンピースを着て、
あなたが時計をもっていたから、
「 しろうさぎさん、待ってえ 」 って、
言いながら追いかけっこをしたのね。
走りながらなびく髪はとってもきれいで、
そうだわわたし、
その時からあなたの髪が欲しかったの。
でも、切ろうなんて思ってなかったのよ。
本当よ。
あなたの髪を落としたくなったのは、
三日前の晩だわ。
あなたがおかあさまと遊びに来たでしょう。
そしたら、おかあさまの話を聞いてしまったの。
「恋人がね、」
「恋人が?」
「出来たらしいの」
「あらそうなの!」
「お相手はどなた?」
「それがね、────」
って、聞いてしまったの!
どうして、どうして。
彼はわたしのものなのに。
わたしのうさぎさんよ。
彼の恋人はきっと、彼の髪にほれたんだわ!
彼の中身なんて、見てないのよ。
きっと。
そうよ。
きっとね。
そうだわ、彼の髪をなくしてしまいましょう。
そうしたら、別れるはずね。そうね。そうよね。
名案だわ。名案だね。
そうときまったら、さっそく準備をしなくっちゃ
鋏と、髪をとっておく可愛い缶の箱。
明日、時計を持ってきて欲しいって言わなくちゃ。
青いワンピースをきたら、
また追いかけっこをしたいわ。
きらきら太陽の光で輝く髪はみれないけど、
わたしはちゃんと、
あなたが好きなのよ。ふふ。
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