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学び編 6 置き石の美学

大暑の頃 蝉時雨 打ち水をしながら 師匠が 語りました

夏祭りの その日を 楽しむ ひとがいる
夏祭りの 花火をつくるのに 一年かける ひとがいる
夏祭りの 伝統を守るために 一生かける ひとがいる


その一日の 祭りは 
その場を 企んだひとの 情熱と
その場を 準備するひとの 継続と
その場を 楽しむひとの喜びで 出来上がっている

師匠 と呼ばれる人が すべきことも これに似ている

場を企む 情熱と 
場を整える 継続と
場を拡げる 工夫とで
人々が精進する場を作り それを支える

友よ 
それが 道場 というものさ
では 道場の企み とはなにか

万物は 立ち止まると よどみ そこから腐っていく
常に 前へ進むものだけが それを まぬがれる

それが 道の革新を引き起こす 場の企み

場の学びは 個 と 全 が 円環となり 
無限に 学び続ける 創発の 仕組み

それが 道の革新を 引き起こす 場の企み

場の学びが 道の学びと 一体になり
各々の独自を育て 多様に伸ばす

それが 道の革新を 引き起こす 場の企み

道の革新を引き起こす 
あなたの情熱が それを支える

修行するひとを支え 精進する場を 与えるのさ
では 道場の準備 とはなにか

道場は 独自を磨く者同士が 
互いに 切磋琢磨する場
彼らの 独自を集め  多様な独自を見破る

それが 道の革新を 引き起こす 場の準備

道場は 弟子たちの 違う独自と
違う独自を 衝突させる場
独自と独自をぶつけ合って 
その衝突で 互いの独自を磨く 

それが 道の革新を 引き起こす 場の準備

道場は 切磋琢磨する同志が 
稽古を通して 学ぶ場  
ただし 手取り足取り 教える場 ではない

知識は教えられるが 技は体得するしかない

からだが 自然に 動くまで 
こころが 自然に 反応するまで 
厳しく励まして 稽古を促す

それが 道の革新を 引き起こす 場の準備


道の革新を引き起こす 
あなたの継続が それを支える

修行するひとを支え 精進する場を与えるのだ


では 道場の工夫 とはなにか

独自を持つものが 
なにに触発されるかは 計り知れない

師匠は 多様な置き石で 創発を 促す

ただし 弟子たちに それを気づかせない
彼らは 自らが選び取ったかのように 
かつての型を破る

置き石の存在を知らずに 
自らの創発によって 型を破る

それが 道の革新を 引き起こす 置き石の美学

師匠として 自分の芸の伝承を 
置き石として 配置する

ただし 順番に並べただけでは 
全員に 一様な成長が起こるだけ

道場は 
多様な実験 多様な混合 
多様な創発を 促す場

ゆえに 型の体系を組み立てた後に 
その順列を 捨てる
型の全体図を 頭にいれながら 大胆に 省く

弟子の創発が 偶発的に起こるように 
置き石を配置する

それが 道の革新を 引き起こす 置き石の美学


弟子たちにとっては 
迷路のように配置された 置き石である

迷いつつも 興味が続くように 
微妙に置き石を 調整する 

それが 道の革新を 引き起こす 置き石の美学

技のひとつづつを 習得できるように 
弟子に 置き石ごとの鍛錬を 課す

それぞれは 弟子が自分で「できるーできない」 と 確認できる稽古に分解して みせる 

からだが 自然に 動くまで 
こころが 自然に 反応するまで 
稽古を見守る

いつしか 自然に 悠然と 無駄なく 身体が動く

それが 道の革新を 引き起こす 置き石の美学

そして 弟子たちは あなたの技を識る

あなたの技を 真似ながら 自分で試す 
時に失敗し 再び挑戦する 
そして いつしか あなたの技を 体得する

自分の独自と 新たな技を組み合わせて 
新たな技を 生み出す

そのとき 弟子たちは 
瞬時に きつ然と 迷いなく 行動する

それが 道の革新を 引き起こす 置き石の美学
置き石が 気づきにくいもので あればあるほど 
弟子たちは 自分で 新たな技を思いついたと考える

迷路のように 入り組んで 
簡単に たどり着けないほど 
弟子たちは 自分で 新たな型を編み出したと考える

それが 道の革新を 引き起こす 置き石の美学
 

師匠と 弟子たちが 道場で集い 
互いに 切磋琢磨する

弟子が得た新たな技を 自分の技と 比べる
弟子が得た新たな型を 自分の型に はめてみる
より洗練されているならば それを加え 
古きを 潔く捨てる
そのとき 学びの円環が回る

それが 道の革新を 引き起こす 置き石の美学

置き石を省き 迷路のように 配置する理由は
師匠の 予想を超える 新奇な型を生み出すため

弟子の 学びが 師匠に 衝撃を 与える
学びは そうやって 相互の変容 として 存在する

それが 道の革新を 引き起こす 置き石の美学

師匠と 弟子が 互いに 
識る ー 試す ー 体得する ー 捨てる の
学びの円環を回す

そして 技が進化し 型が多様になり 芸が深まる

それが 道の革新を 引き起こす 置き石の美学
個は 技を追求し
場は 型を多様にし
全は 芸を伝承する

それが 道の革新を 引き起こす 置き石の美学

道の革新を 引き起こす 
あなたの創意が それを支える

修行するひとを支え 精進する場を与える

師匠とよばれるものは
一馬力の限界を知り 切磋琢磨の跳躍を悟る
袋小路の危険を知り 選択肢の可能性を悟る
流行のはかなさを知り 継承の偉大さを悟る

道場という
多様な切磋琢磨から 
多様な 創発の火花が発し
多様な 独自が育つ

道の学び と 場の学び
それは 別々なもの ではなく
陶然と 一体になった 大きな道

場の学びを 継続するするものが
道の学びを 継承する
修行するひとを支え 精進する場を与える


夏祭りのその日を 楽しむ ひと
夏祭りの準備に 一年かける ひと
夏祭りの伝統を 守るひと 

夏祭りという営みは 長い時間のなかで 
しなやかに 継承されていく

打ち水の匂いが 雷雨を呼び 師匠は 早寝すると 退きました。

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