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街のベンチ 〜「過防備都市」から現在〜

街に近頃新しくつくられたベンチ
なんの変哲もないベンチ

しかしこれは2人しか座れない
随分贅沢なつくりといえばそうかもしれない

中央の隔たりとなる手すりがなければそこへ座って大人3人は腰掛けられるではないか

さらには横になって眠ることも出来るではないか

そうです

それこそが問題なのです

以下に記されるには

座るという行為だけに奉仕する純粋な機能主義。逆に言えば、これまでのベンチのかたちは、その上で寝るという行為も誘発させる機能の曖昧さを持っていたのである。気持ちいいことと悪いこと。両者は裏返しの関係だ。気持ちよく座れる椅子のデザインを研究するということは、同時に座り心地の悪い椅子を知ることでもある。現在は後者のデザインが追求されているのではないか。   五十嵐太郎「過防備都市(中公新書ラクレ)」

本書は16年前に上梓されたものである

いまや新たにつくられるベンチに前者を見つけることは難しいかもしれない。

今でこそ「ソーシャルディスタンス」と声高に叫ばれているので
結果的には後者の(手すりで隔てる)デザインは好意的に作用しているとも思えるけれども

そもそもこの意匠の経緯は排除することが先立っていたことを

見慣れすぎてしまうと忘れがちになってしまう

そして今の状況であれば

なんと時代にマッチしているのだろう!

とすら思って散歩の折に抵抗感なく座りやすくなった人も少なくないだろう

不意に隣に接するようにして見知らぬ人に座られるようなこともないのだから


さらには

マクドナルドの消費者管理では、椅子を硬くしておくことで、長く座っていられず、客の回転をよくしているという。長居する気分にはならず、いつの間にか食事が早く終わり、店を出ていく。これは限りなくグレイゾーンに属する、ゆるやかな排除の手法といえよう。      (同上)

コロナ禍でも好評を博しているマクドナルドだが

ここで批判的にすら書かれている店内環境は

今となっては3密対策に貢献すらしていることになる

時代や環境や状況が変化すれば
人々の景観に持つ感情はいとも簡単に変化する

ベンチも然り

マクドナルドも然り

世の中とは実に皮肉なものだ

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