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オブジェと化している洋書の謎 【pirokichiBooks】

雰囲気演出中の役者

雑貨屋さんや服のショップ、さらにはカフェなどで、お洒落な雰囲気を演出するのに一役買っているのが、ハードカバーの洋書です。

布製の色とりどりのカバーに金色の型押しされたタイトルなどの英字。それらが数冊並ぶと絵になる、ということはわかります。

これが日本文学全集や日本語の学術書などですとそれはそれで存在感がありますが、そもそも「なぜ洋書なのか?」というのは、仮に日本語ですと、文字の持つ意味が明瞭になり過ぎて寧ろ気になりすぎるのでしょうか。

そうすると本の置かれたスペースが途端にオブジェとしての存在意義から書棚という意味づけがなされ、「手に取ってみようか」という衝動に駆られてしまうかもしれません。


手にとってみる

あるカフェに立ち寄った際、ふと傍に置かれていたオブジェと化している3冊の洋書のなかの1冊に目が留まりました。

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特に営業に支障は無さそうと判断して、恐る恐るその1冊を手にとってみると『GLUTAMATE: TRANSMITTER IN THE CENTRAL NERVOUS SYSTEM』と背表紙に記されていました。

グルタミン酸: 中枢神経系における神経伝達物質』というタイトルとなりますね。

こちらの本になります。

ただの表紙だけで中身は白紙だったりするのか?と思い開いてみますと、

中は表紙に記されている通りの内容の活字が並んでおりました。正真正銘の実物でありました。

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そして裏には、

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なんと「麻酔科 ○○○○」と署名されておりました (お名前は個人情報ですので伏せさせていただきます)。

所有者は…

こうなってくると、この所有者であった方とは実在するのか?と調べたくなって参りました。

一般的に医師などを含む研究者は、科研費という研究費のデータベース上に登録されており、その情報は一般公開されております。

そちらにおいて、署名されているお名前と一致する方がヒットし、所属としては某国立大学医学部の研究員でいらっしゃることが判明しました。専門分野としては麻酔科と書かれておりましたので、おそらく間違いありません。今もご活躍なさっていることがわかりました。


これらの洋書はどこから?

とすると、これらオブジェ化している洋書は、国内で使用されていた履歴を持つものが含まれていることがわかります。

想像するに、個人所有者が古書店などへ手放し、それをどういうかたちでか、カフェを経営する方々が手に入れて、今この目の前にある。

と考えられるのですが、そうすると「オブジェ用洋書」として販売されている商品があるのか?

それとも古書店へと、カフェやショップなどの店員さんが、あるいはスタッフさんが赴き、雰囲気のある洋書を見繕いにいくのでしょうか?

個人的には、古書となってから、それが実際オブジェ化なされるまでのプロセスが非常に気になりました。


おわりに

使用されなくなった古書の活用例の1つを御紹介致しました。

家具屋さんで、レイアウトの参考例になるよう薄型テレビの紙製の模型が置かれていますよね。

その薄型テレビ模型よろしく、私はオブジェ洋書は、実物ではないのでは?と思っておりました。しかしそうではありませんでした。

オブジェ化洋書は既に書籍としての使用は、つまり書籍自身が持つ文字情報自体はもはや意味を成さない状況であり、もしもまだ読みたいという方がいるとすれば、その本の本来の役割は果たせていないことになってしまいます。

そう考えるといささか切なくもなって来るのですが、捨てられてしまうよりはお店の片隅で雰囲気を醸し出す存在であっても良いのかもしれません。

目にする人は、長年探していた1冊と出逢うこともあるかもしれません。その本がどうやっても入手出来なかった1冊であれば、お店側へ頼み込んでお譲りして頂く、ということも起こり得るかもしれません。

本の運命とは実に数奇なものです。

是非みなさまもオブジェ化洋書を見かけたら、どんな本なのか、注目してみてはいかがでしょう。

ひょっとすると新たな発見があるかもしれませんよ。


おしまい

最後までお読みいただきありがとうございます。 いただいたサポートは麦チョコ研究助成金として大切に使用させて戴きたいと思います。