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ゆりの暴露 第6話 「ゴミ箱からコンドーム」


 それから数ヶ月して、ゆりは他のセラピストから、ヨレヨレのスーツの客(第五話参照)のことを聞くことになった。

 メンズエステのマンションタイプの部屋では、他のセラピストと会うことはよくある。

 早番と遅番で同じ部屋を使う場合、入れ替わりの時に顔を合わせるのだ。

 ゆりはいつも19時からのシフトなので、同じ部屋を使うことが多く、早番のマリアと挨拶程度に会話を交わす。

 彼女は特段顔が可愛いわけではないが、元々ヨガのインストラクターをしていただけあって、スタイルはよかった。

 それに、いつも出勤前から予約が埋まっているような人気のあるセラピストだった。

 もしかしたら、年齢が二十歳とまだ若いから、需要があるのかもしれない。



 ある日、彼女が使ったあとの部屋に入り、いつも通りの接客をこなして、帰り際にゴミの片付けをしていた。


 ゴミ箱の蓋を開けた瞬間、妙なにおいがした。

 何のにおいだろう

 と、興味本位で注意深く見てみると、ボールのように丸められたティッシュの中から、小型のバイブと使用済みのコンドームが僅かにはみ出していた。


 ブワッと身が震えた。



(えっ、気持ち悪い! まさか、マリアさんがここでしたの?)





 数日後、ゆりは早番で来ていたマリアと部屋の入れ替わりの時間が重なったので、

「この間、ゴミ箱にコンドームと小型のバイブがあったんだけど……」


 と、探りを入れてみた。

 すると、マリアは笑いながら、


「ああ、あれは私のですよ」

 と、あっけらかん答える。


「もしかして、お客さんと?」


 ゆりはきいた。


「そうです。何度か来てくれたことのある人ですけど」


「いつもそういうことしているの?」


「お金くれたひとだけですよ。昨日の人は、二万円しかくれなかったけど、金欠気味だったしまあいいかなと思って。でも、年齢は三十代でしたけど、冴えない感じのサラリーマンで、ちょっと気持ち悪かったですけどね」


「そのサラリーマンって……」


 ゆりは入店してから来たあの変な客を思い出した。
 ヨレヨレのスーツで不潔な見た目、要求を断ったら怒って帰った男。


 そのことを彼女に話してみると、


 「多分、その人ですよ。また来週予約入っているんですけど、今度は値段吊り上げちゃおっかな」


 マリアは悪びれる様子もなくそう答えた。


 マリアは週に4日の出勤で1日3人はお客さんがつくセラピストだから、週に17万円は稼いでいるはず。

 月のお給料は60万円以上で、私の2倍以上稼いでいるのに、それでも金欠になって本番行為をするなんて意味が分からない。

 それともいつも風俗行為をしているから、何とも思わないの?

 いつも予約で埋まっているのは、風俗行為をしているから?



 こんな子と同じところで働きたくないと、ゆりはその時思った。

 ここにいると彼女と自分が同じ次元の人間と思われてしまう。


 やっぱり、メンエス自体を辞めようかな。

 だけど、給料を考えるといま辞めるわけにはいかなかった。

 将来、特にやりたいことは決まっていないが、メンエスで少なくとも300万円は貯金し、貯まったらメンエスを卒業して何か資格の勉強をしようと考えていた。

 まともな仕事をあんなに探したのに見つからなかった。

 このままじゃ貯金どころか生活費も払えなくなる。

 だから、300万円貯めるまではメンズエステで、ここで働こうと決めるしかなかった。



 それからは、マリアとは会ってもほとんど会話することもなくなり、そのうちに、彼女は店を辞めた。


 ゆりもしばらくは変な客に出くわすこともなかった。 



 

 そして入店してから一年近く経った秋の終わり。

 ゆりの人生の中でも、最も衝撃的な出来事となる客がやって来た。

 続く......


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