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オーナー今井の暴露 前編 「身内が次々と死んでいくセラピスト」


 午前8時の中目黒の一角、オーナー兼店長の今井はメンズエステの施術ルームとして使用しているマンションの一室に入った。

 彼は40代半ば、バツイチで別れた妻との間に8歳の息子がいる。

 親権は元妻が持っており、養育費を払っている。



 今井は玄関で靴を脱ぎ、キッチンが併設されている廊下へ進んだ。

 キッチンの横に小さな冷蔵庫があり、そこに待機中のセラピストが食べられるようなお菓子、飲物、冷凍食品を入れた。

 それから、奥の部屋に入り、クローゼットを開けた。

 ハンガーにはセラピストのキャミソールがかけられており、その下に私物入れと金庫が置いてある。

 今井は金庫のロックを解除して中から名前と日付、金額が書かれた封筒を全て取り出した。

 ざっと日付分、出勤した人数分の封筒があるかを確認し、持ってきたカバンに詰め込むと、今度は部屋のチェックに取り掛かる。


 部屋の掃除は行き届いているか、ゴミはちゃんと捨てられているか、紙パンツなどの備品は揃っているかなどを一通り確認しおえると、電気を消して部屋を後にした。



 エレベーターで1階までおり、エントランスを出ようとしたその時、
今日の12時から出勤予定のセラピスト、みれいから電話が掛かって来た。


「もしもし、お疲れ様です。オーナーすみません。祖父が危篤で病院に行かなくちゃならなくて。なので、今日はお店休ませてください」


 みれいは慌てたように言った。

 今井は少し考えてから、


「この間、おばあさまも亡くなられたんですよね?」


 と、確かめた。


「はい……」


「その前には、叔母さんと従兄弟でしたね」


「…、もしかして、私が嘘ついてると思ってます?」


 電話越しにみれいの声が大きくなった。


「4ヶ月の間にそんなにもお亡くなりになるなんて驚いてしまいました」


「でも、本当なんですけど」


 みれいは頑なに主張した。

 もし本当だとしたら、彼女が殺しているのではないかとさえ思えてしまう。


「それに、普段から体調不良で休むことも多いですよね」


「持病があるんで...」


「あまり言いたくない話ですけど、新規のお客さんもリピートはほとんどないですし、うちには合わないんじゃないかと思って」


 今井はやんわりと切り出した。


 ずっと彼女に不信感を抱いていた。

 この様な勤怠状況だし、改善する気も悪びれる様子もないし、辞めてもらうつもりだったから丁度良い機会だ。



「……」


 みれいからの返答はなく、ブツっと電話が切られた。


 彼女はこのまま辞めるな、と確信した。



 今井は深呼吸をひとつして、この日出勤予定の他のセラピストたちに予約状況などの確認の連絡をすることにした。




 今日は稼ぎ頭となるふたりのセラピストが出勤する。

 ひとりは歴8年、もうひとりは歴3年だ。

 どちらも、出勤予定を公開したら、すぐに全て予約満了になってしまう。



 それと、今日は初出勤の女性がいる。

 藤村沙紀という人妻である。


 メンズエステの客に既婚者は多い。

 風俗ではないから罪悪感が薄いのだろうか。


 しかし、客たちは知っているのだろうか。

 メンズエステのセラピストにも既婚者が多いことを。


 この間、沙紀を面接したときに、彼女はこう語っていた。


「私の夫が元々メンズエステに通っていたんです。それまで、メンズエステというもの自体知らなかったんですが、調べてみると、風俗ではないですし、なかなか稼げそうなので働いてみようと思いました」


「ここで働くことはご主人には内緒で?」


「いえ、知ってます」


 彼女はそう言って、詳しいことを話し始めた。

 続く.....


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