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「雪のひとひら」ポール・ギャリコの繊細な世界

ポール・ギャリコの小説を推したい!その一心で、この記事を書きました。

彼は80年ほど前のアメリカ人作家で、日本でも30冊以上が訳されています。
でも今、書店で彼の本を見かけることはありません。古い作家ですものね。

けれど私は、そのことにしょんぼりしてたまらない。そこで、

「超有名じゃない古典にも、胸打たれる本はいーっぱいあるんだぞ!
時代の垣根をぶっ壊して、心に寄り添ってくれる小説こそが、名作なんだい!」
と、叫んでみたいと思います。


新潮文庫より刊行。挿し絵は原マスミ。

まずご紹介するのは、「雪のひとひら」。

この作品は、雪の結晶「ひとひらちゃん」を通して、ギャリコが生きていた時代の「典型的なアメリカ女性の一生」を、描いた物語です。

つまり、子だくさん・中産階級主婦による「私の人生語り」ってこと。

あ、待って、読むのをやめないでー。
つまらなくないから!本当、面白いので!

なぜならギャリコは「詩の心」を通して、ひとひらちゃんの人生を見つめているからです。

生き方が多様化している現代ですが、人の気持ちにそれほど大きな違いはないと、私は思います。

例えば、ひとひらちゃんが生まれて初めて動物を見た時の驚き。
好きな人に出会った時の、モジモジ感やドキドキ感。
自分ではどうにもならない問題にぶつかった時の痛み、悲しみ。

「そうなんだよね、わかるわかる」と、思えるものばかり。

そして、平凡な一生がどれほどの美しさと驚きに満ちているかを、私たちに伝えてくれるのです。

ギャリコのやさしい文章に、原マスミのすばらしい挿し絵が加わって、この小説はまるで「文字の絵本」。

ちいさなお子様にも、自信を持っておすすめできる1冊です。


やはり新潮文庫より刊行。表紙は山本雅子。

2冊目は、「ザ・ロンリー」。
恋愛小説だけどメインテーマは、「大人になるって、どういうこと?」です。

時は第二次大戦。アメリカ空軍のパイロットであるジェリーは、23歳の青年。
裕福な親元から離れ、同期や先輩の前で「一人前」ぶるけれど、その心は戦争の厳しさと怖さから、ひどく傷ついています。

そんな彼が孤独の中、「一人前の大人」になり、真実の愛に気づく物語です。

私は今を、「大人になることがとても難しい時代」だと思っています。
なぜなら「大人」の定義が、昔ほど単純で、わかりやすくないから。

店を3軒経営していても、大人になれるわけじゃない。
ランドセルを背負っているのに、大人の香りがする子もいる。

なぜそんなことが起きるのか。
どうして「大人」にならなくちゃいけないのか。
そもそも「大人」って、何なんだ。
私はこの本を読んで、答えを見つけられた気がします。

あと、ラブストーリーとしても一級品です。少女マンガ好きにはグッとくる物語だと保証いたしましょう。


ポール・ギャリコは文章がやさしく、とても読みやすいのが特徴です。

人の心の深みを、えぐりすぎず、とがり過ぎず、押し付けがましくなく、まるで愛猫を柔らかく抱きしめるように書いてある。

その繊細な色合いには、品格を感じます。

しかし、著者近影を初めてみたときには、驚きました。

「首を痛めてるポーズ」に、自由業を感じさせはするが。

ポール・ギャリコ 1897年 NY生まれ。
スタンウェイン銀行の頭取を18年務め、その後NY州の上院議員となる。頭取時代はその辣腕ぶりから、「鉄のマネー・タンク」との異名を持っており・・・

私ぷるるの脳内より

って感じに思えたから。なのにあんな優しい小説を生み出すとは・・・

「私ってまだまだ。もっと人を見る目を養わねば」と、深く反省させてくれるのもポール・ギャリコの良いところ。

そんなポール・ギャリコを、ぜひよろしくお願いします!!





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