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臨床助産師から看護系修士に進学した2年間のプロセス

この度、修士の卒業が決まりほっとしています。思い返せば、とんでもなく忙しい2年間で、最後はまるでゾンビのようでした。論文の基本は、本でも読めばある程度わかります。でも、実際のスケジュールや誰かの躓いた点ってあまり載っていなくて、誰かが活かせるなと思い今回文章に残すことにしました。ちなみにわたしは、勢いで大学院に乗りこんでいった一看護職です。


修士論文のテーマは入学以前に決めておいたほうがいいのか?

修士の学位を取得するにあたって必要となるのは修士論文となります。

大学から修士にストレートで進学をする人は、大学の卒業論文から延長したテーマを持っていることがあるようです。しかし、社会人から大学院生になったわたしは特にこれといったテーマは持っていませんでした。

病院で働く中で、言葉でうまく表現できないけれど、このままでいいのかというどこかモヤモヤとした思いをテーマにしたいという思いだけはありました。私が進学した大学院は、学部から大学院へのストレート進学ができないことが特徴だったため、同級生はみんな私と同じようにそれぞれ臨床現場でのモヤモヤからテーマを選んでいました。例えば、コロナ禍での看護師の待遇、新人教育への疑問などです。

大学院2年間のプロセス

大学院の講義(1年生の5月~7月)

大学院1年生の前期は、共通科目から必修科目が8単位、その他興味のある分野の科目から3単位選択して合計14単位以上を取る必要がありました。専門科目を足して30単位以上が卒業単位でした。これは、退職して進学した私には苦になる単位数ではなく、高い学費を無駄にしないように、興味のある授業は片っ端から取りました(64単位取ってました)。本音を言うと、もっと講義を取りたかったです。

前期では、看護研究とはなんぞやというところから、どのような看護研究の種類があるのかなど講義形式で学びますが、大学院に進学したからといって、看護研究が全部わかるわけではなかったです。研究には本当に様々な方法があって、自分の研究する分野のことは少しはわかるけど、結局は自己学習だということを学びました。

テーマを決める(1年生の8月)

「修士論文のテーマは1年生の前期が終わる頃に決まっていればいいよ」と言われました。私のテーマが決まったのは、1年生の8月頃でした。
元々テーマをしっかり持っていた人は早々に決めていましたし、科目履修をしていた方も事前に先生に相談してやりたいことを整理していた方もいました。そんな事前準備が皆無だった私は、1年生の前期に興味のあるキーワードを使って論文を検索して、自分が興味のある分野で明らかになっていることと明らかになっていないことを調べ、先生と話し合いました。先生は、付箋を使って「現状とその特徴」「影響する背景はなにか」「今わかっていることは何か」「期待される支援」で分けてくださって、頭の整理をしていき、最終的にテーマを絞り、質的研究を行うことになりました。
質的研究は、インタビュー調査。量的研究は、アンケート調査と置き換えて読んでみてください。

研究計画発表会(1年生の1月)

2年生の1月、研究計画発表会で「自分はこういうテーマで研究を行います」という発表をしました。この発表会は、他の分野の先生方からご意見をいただく機会となります。修正後、やっと倫理審査です。

倫理審査(1年生の3月)

研究計画を発表したあとは、倫理審査に向けての準備です。
私は、図書館で先輩方の修士論文を参考に2か月ほどかけて作成しました。気軽に聞ける先輩の修士学生がいなかったこともあって、イメージして作ることがすごく難しかったです。要領のいい人は研究計画の発表と並行して作成し、すぐに出していた人もいました。わたしの大学では、倫理審査は月1回行われます。1回で提出が終わる人もいますし、2回、3回と何度も返される人もいるようです。私は2回目で合格しました。「倫理審査を乗り越えれば、あとは計画書通りにするだけだからね」という、先生の心温まるメッセージを胸に励みました。

研究協力者を集める(2年生の5月~9月)

研究協力者は、基本的に自分と全く関わりのないところから集めなければいけません。研究協力者が集まるまで、自分だけでなく、多くの人が本当に集まるのか?という悲壮な雰囲気を漂わせていました。
研究依頼をする過程で、修士を卒業してる人の話の早さには驚かされました。修士を卒業している人は、このプロセスを自分も経験しているため、かなり協力的でアドバイスも的確でした。一方で、倫理審査を通った計画書に沿って研究を行う必要があることを知らない人たちのあまりにも的外れな助言には辟易しました。内容を読まずに全く違う人を紹介してくれる人もいました。研究協力者募集のためのキーパーソンを探すなら、修士卒の人がオススメです。100人の内1人が「いいよ」って言ってくれたらいっかと思って、母数の多そうな組織に片っ端から連絡をして、最終的に5人の協力者を集めることに成功しました。

今更後悔 修士論文作成には、めっちゃお金がかかる

大学によるのかもしれませんが、わたしの場合は修士論文を作成するにあたって必要な費用は、基本的に自分たちで賄う必要がありました。

質的研究(インタビュー調査)では、同意書の印刷や切手、封筒、インタビュー先までの交通費、施設利用費、お礼代、更に、在日外国人を対象としたため、マイナー言語の翻訳代に20万近くかかりました(これは研究室が負担してくれました)。
量的研究(アンケート調査)の場合は、アンケート用紙の印刷や切手代、封筒代諸々。有料の尺度を使う場合は、1回で10万円ほど飛んでいくそうです(ある程度研究室が出してくれるところもあります)。

このように、修士論文を作成するにあたってめっちゃお金がかかるので、補助金など申請しておく必要性を学びました。私の場合は、情報収集不足でしたので、今更です。

インタビューをする(2年生7月~9月)

インタビューは、公共施設の個室で行いました。
公共施設は、利用するために現地で施設利用登録→施設利用予約→施設利用とプロセスがあり、更にその市や区に住んでいない人は追加料金が発生しました。インタビューするための施設の利用登録だけに行って往復2時間、電車代に加えて施設利用費が1回2000円くらいかかることもありました。つまり、インタビューでの移動範囲が広くなれば広くなるほどお金がかかるということです。zoomなどを駆使することも可能ですが、しっかり時間に区切りがある関係よりも、少し雑談して「本音を言ってもよさそうな人だな」って信頼してもらうには対面のほうがいいのかなという印象を受けました。

インタビューが終わったのは、2年生の時の9月1週目。
修士論文は12月提出だったため、残りの3か月で分析、結果、考察を作り上げる必要がありました。

文献検討を完成させる(2年生の8月)

文献検討は、インタビューや倫理審査の待ち時間など、結果が出てくる前には完成しているほうがいいです。この段階に辿り着くまでに、序論、文献検討、研究方法まで出来ていると、その後がかなり楽です。 
文献検討を作るにあたって、私は先輩の修士論文の書き方を参考にそのままあてはめて使わせていただきました。まさか、最後に問題が起こるとは露とも知らず・・・。

分析していく(2年生9月,10月)

質的研究(インタビュー調査)の分析は、「量的研究(アンケート調査)と比べてかなり大変だよ」って言われていたけど、いやはや本当に大変でした。

まず、録音させてもらったものを文字に起こす作業です。私は自動で文字に起こしてくれるAI搭載の録音機を利用していたのですが、外国語と混じっていたこと、通訳さんの日本語の発音に訛りがあったことで全く意図していない言葉になっていました。仕方ないので自分で全部打ち込んで、文字を整えてコードにする作業、コードからキーワードを取り出してサブカテゴリーに抽出する作業、サブカテゴリーを並べてカテゴリーを生成する作業を行っていきました。

質的研究が何かということは色々な本に載っていますが、具体的にどうやって出てきたデータを分析していくかということは書いていなかったり、本を読んでも難しくてよくわからなかったりしました。下の本がとてもわかりやすかったです。

結果をまとめる(2年生10月,11月)

結果は、担当の教授だけではなく副担当の先生全員に確認してもらい、何度も修正をかけました。この間に、「分析の過程でふと思った事はメモしておくように」といわれました。この時のメモが、考察を書く時の鍵になるようです。分析が出来てしまえば、結果は先輩の修論を参考にしてあてはめていくだけでした。結果がまとまって先生方から「考察に進んでいいよ」と言われたのが論文締め切りの1か月前で、めちゃくちゃ焦っていました。でも、周囲もおなじようにめちゃくちゃ焦っていたので、質的研究はどこも同じような進捗状況なのかもしれません。

考察をまとめる(2年生11月,12月上旬)

考察はまとめていたメモを使って書き上げたものの、できあがったものはただただ持論を展開するものになってしまいました。先生に、この結果に共通することが何か、どのようにアウトラインを作ってから書き始めないと考察が目的からぶれてしまうと指摘され、作り直しました。今思えば、当然の話ですが、その時は心から「見逃して欲しい」と思ったのを覚えています。

私のまわりみち 文献検討のブレを指摘された(2年生12月,締り切り1週間前)

考察をまとめ、一旦形にした時点で副担当の先生方に読んでいただきました。ひとりの副担当の先生は、「これでいいと思います」とおっしゃいました。しかし、もう一人の副担当の先生から「この文献検討は結局何がいいたいのかもわからないし、形がなってない」と言われ、文献検討を作り替える必要が出てきました。真っ青になりました。先生によって、修士としての論文作成のプロセスさえわかればいいと考える先生と、より学術的な質を求める先生。大学院生に求めることが違うことがわかりました。

このときは本当に発狂しそうでした。わたしは、ひとりの先輩の修士論文の書き方をそのまま忠実に自分の論文に反映していました。その論文は、あまり良くない論文だったそうなのです。そんなことある???

この指摘をきっかけに、複数の先輩の論文を見てみると、書き方は様々で、その中で一番わかりやすかった先輩の論文の書き方を参考に再度仕上げました。文献検討は、今までどのような研究がなされていて、最後にはなぜこの論文のテーマや目的にしたのかということを系統的に書かなければいけません。しかし、書き直そうと思っても、わたしは文献がうまく管理できていなかったことで余計な時間がかかりました。この頃のわたしは、いろんな人から「表情がなくなっていた」と言われますし、ゾンビのように過ごしていた自覚があります。この学びから、複数の先輩の修士論文を比較して自分がいいと思うものを選ぶこと、時間があれば適宜いろんな先生にコメントをもらうことが大事だと学びました。急がば回れ、ですね。

最後の数日にもなると、常に頭がパニックで飽和状態で、満タンのコップに更に水を入れていくような状態でした。何を言われても頭に入っていかないのです。この頃のわたしは本当に役立たずでした。救い上げてくださった先生方には足を向けて眠ることができません。

修士論文提出(12月中旬)

この後の数日間は、記憶がありません。

修士論文提後の口頭審査(2年生12月下旬)

提出した修士論文を読んだ複数の先生による口頭審査が行われました。そこでは、「この研究の新規性とオリジナリティは何ですか?」と聞かれ、わたしが答えた新規性とオリジナリティに沿った考察が出来ていないという指摘を受けました。あとは、言葉が統一できていなかったことにも気づかされました。例えば、育児と子育て、子どもと子供などです。先生がおっしゃるには、口頭審査で考察が指摘されて変更することはよくあることなので、結果までは何人もの目でチェックして分析しておく必要があるとのことでした。私の場合は、様々な事情により結果から指摘されたので再分析後に結果、考察の組み替えを全体的に行いました。

修士論文発表会(2年生1月中旬)

口頭審査後3週間ほど修正期間があり、口頭審査でのご意見を修士論文にどのように反映したか発表する場が論文発表会でした。時間を空けて自分の論文を見直すと「この指摘、確かに・・・」と思う点はとても多かったです。「もう少し要領よく作成して、もっと見直す時間があったらよかったな」という反省は、次回の論文作成時に活かします(しばらくはもういいです)。

修士論文の印刷(2年生2月)

修士論文は、最終の合格が出たあとに自分で業者に頼んで印刷する必要があります。色々と業者はあるようですが、いくつか見積りをしたときに一番返信が早く、誠実な対応をしてもらった業者がこちらでした。

修士論文完成後(卒業後)

今後は、社会に向けて公開するための手続きになります。
卒業後にもすることあるんですか・・・もう早く手放してしまいたい・・・という思いでいっぱいです。
でも、協力いただいた方々に還元するために頑張らねばなりません。

まとめ

修士論文を2年間で作り上げてみて思った事は、想像以上に時間がなかったということです。特に私は、修士や論文に関する知識がないまま入学をしたため、圧倒的準備不足でした。

修士論文の2年間のプロセスを体験してみてわかったことは、以下の6点でした。

  • お金がかかるので助成の申請がおすすめ

  • 研究協力者を探すにあたり、修士卒がキーパーソンになるととても話が早い

  • 文献を整理しておくことが大事

  • 用語は意識して統一しておく

  • 先輩の修士論文を参考にする場合は、いくつか比較して、一番良いと思う方法を参考にすると良い。1つしか見ていないと問題があったときの打撃が大きい。

  • (2年で卒業したければ)結果をまとめるはじめる前に、文献検討を複数の先生に見てもらっておくと良い

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