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『夜明けのすべて』を読んだ_20240514

「夜明け前が一番暗い」。小4で知ってからずっと好きな言葉だ。
書店で帯に「知ってる?夜明けの直前が、一番暗いって」とあるのを見て、『夜明けのすべて』を手に取った。(このフレーズはおそらく登場しなかったが。)


PMSで月に一度感情がおさえられなくなる藤沢と、パニック障害を抱える山添。小さな会社の同僚のふたりを中心とした物語だ。

私はPMSと診断されたことはないが生理にはかなり悩まされているし、パニック障害ではないが精神科に通院している。そして両方の薬をのんでいる。

物語のなかでふたりの症状が劇的に改善することはなく、上向きになったりやっぱりだめだと思わされたりしながら日々が進んでいく。その様子は現実として想像に難くない。
ふたりの関係や会社の雰囲気も、ドラマティックすぎず、けれど現実にはおそらく稀有で、でも全くありえないとは感じない絶妙な空気だ。そこに希望を感じる。

藤沢の言動をきっかけに山添が昔好きだったものを思い出したり、ふたりの関係性のうえで普段と違うことができたり、そういったひとつひとつの出来事にあたたかいきらめきを感じた。
山添の前職での上司である辻本課長からのメールや手紙にもぐっとくるものがあったし、空が白みはじめるようなラストにも胸が静かに熱くなった。


私も社会に出てすぐは意識も高く優秀で、向上心を持って仕事に取り組んでいたが、体調を崩して以来そうもいかなくなった。
ふたりのように会社ごと変えたわけではないが、部署を異動した。調子が良くなったり低空飛行になったりしながら何年かやってきた。

この本を読み、直後に感想を走り書きしたのが3月末だ。
本の内容と自分の体調によっては感情がひっぱられてしまうかも……とうっすら危惧しながら、タイミングをうかがって本を開いたのを覚えている。
物語はちょうど冬から春にかけて描かれていて、春の到来、夜明けを感じさせる場面で終わる。
感想のメモを今読むと、当時は不安が強かったんだなと思える。私の夜もまた明けつつあるようだ。
私の主治医も山添の主治医のようにいつも変わらない質問をするが、この間私の様子を見てカルテに二重下線を引いていた。
また夜はくるかもしれない。でもきっとまた明けると思えることが、夜のなかの光だ。



瀬尾まいこ『夜明けのすべて』 の表紙。2023年,文春文庫のもの。
瀬尾まいこ『夜明けのすべて』 2023年 文春文庫
単行本は2020年 水鈴社刊



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