「黒いベール」(チャールズ・ディケンズ)

あらすじ

 年末の黄昏時に若い医師が休憩室でくつろいでいました。その日は風が強く、雨も降っていてとても寒かった。医師は1日中歩き続けて疲れていたのでウトウトしてしまっています。

 恋人のローズのことを考えながら眠ってしまっていた所を、雑務を任せている少年に起こされました。女性が訪ねてきたようですが、警戒している様子です。外にいた女性はとても背が高く、喪服で正装していました。顔は黒いベールで隠されています。顔は見えませんが医師の方を見ていることが感じられます。

 女性は体の病ではなく、心が傷ついているようです。女性は助けて欲しい患者は自分ではなく、別の人物のために力を貸して欲しい。手を尽くさずに死を待つわけにはいかない、と必死に伝えます。

 若い医師は人の苦しみに平然としていられなかった。すぐに往診しようとします。しかし、女性は助けて欲しい人がもうすぐ死んでしまうと知っていても医師が診察できないと言います。奇妙な話ではありますが、医師は翌日の朝に往診することにしました。状況がわからないので、考えないようにしたくても想像を巡らせてしまいます。

 翌朝訪問した場所は治安が悪く、医師の不安を取り除く事はありませんでした。廃屋が並び、地域住民の様子からも貧しさがわかります。その中でも一際荒れ果てた外観の家が目的地でした。

 医師は怖気付きながらも勇気を振り絞ってドアをノックします。現れたのは昨日とは違う人物でした。部屋に通され、待っていると昨夜と同じ服装の女性が現れました。

 医師が患者に会うと既に死んでしまっていました。調べてみると患者は今朝絞首刑を執行された人物でした。女性の息子は仲間が証拠不十分で放免されながらも、死刑の判決が下っていました。

 医師は惜しみなく女性に援助を行いました。その行いは後に手に入れた地位や名誉よりも医師の心を満たすものでした。

感想

 途中までホラーのような雰囲気でした。助けて欲しい人物がいるのになぜ「早く来て欲しい」ではないのか考えていると、救いのない理由にショックを受けます。医師は絞首刑が執行される前に着いたので待たされますが、怪しすぎて怖くなってきます。

 絞首刑になった息子の仲間が無罪になっているところが女性にとってさらに受け入れがたい事実になっています。片方が無罪でもう片方が死刑だったら誰でも納得できないと思います。

 医師の一貫した善意はとても尊いものです。正しくやりがいが評価されていることも嬉しいことです。


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