見出し画像

プラプラ堂店主のひとりごと㉒

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜

片口のはなし

 12月になった。雪が降る日もあるけれど、札幌はまだ雪が積もらない。そういえば、去年はホワイトクリスマスではなかった。それどころか大晦日にも積雪がなく、すごく気持ち悪い感じだった。年末感がないというか…。雪が積もれば積もったで大変だと愚痴るけど、今年はホワイトクリスマスになるといいな。そんなことをつらつらと考えながら店番をしていたら、常連の春さんが遊びに来た。おかっぱ頭にメガネが似合う春さんは小さな雑貨屋をやっている。かわいい文房具やアクセサリー、それに地元の陶芸作家の焼き物なんかも置いてあるんだ。ぼくがふらりと春さんの店に行って、食器を買ってからのご縁。それから、ちょくちょく春さんもぼくの店に来てくれるようになった。渋い物が好みで、鉄製のレトロなテープカッターとか、小さいちゃぶ台なんかを買ってくれた。ちゃんと着ればいいのに、紺色のダウンを肩にひっかけて「寒いね〜」と店に入ってきた。

画像1

「寒いなら、ちゃんと着なよー」

「うん、今日はすぐ帰らなきゃなの。ほい、届け物」

ビニールの買い物袋の中に、新聞紙に包まれた何かが入っていた。

「にんじん。早く抜かないとって思ってたのに、どんどん遅くなってさあ。昨日ようやく抜いたの。上の土が凍ってて抜くの大変だったけどね。にんじんさん、ちゃんと元気でいてくれたのよ」

春さんの家には広い畑があって、野菜やハーブを育てていると言ってたっけ。

「へえ、もう地面は凍ってるんだ。にんじん、うれしいなぁ」

「美味しいよ!じゃ、車だから。また来るわ!」

「えっ、ありがとう!」


…行っちゃった。ぼくは新聞紙の包みを開いた。まだ土のついたままのにんじんが、ごろごろ入っていた。小さいのや、大きいの。長いの、丸いの。いろんな形がある。触ると冷たかった。オレンジ色が「私生きてますよー!」と叫んでいるみたいに鮮やかだ。

「美味しそうだなぁ」

 さて。何を作ろうか。うーん、新鮮な味を楽しみたいから、サラダがいいな。合わせるのは、、レーズンにしようか。ふと、春さんの店で買った片口が浮かんだ。白地のぽってりとした丸い片口だ。ぼくは片口が好きでいくつか持っている。信楽焼の渋いこげ茶のや、漆器もある。なんだろう、あの形に惹かれて、つい買ってしまうんだ。でも、このにんじんのサラダなら絶対春さんの店の片口。あの白地に鮮やかなオレンジがきっと映える。ふふ、夕飯が楽しみだ。

ぼくはしばらくテーブルににんじんを置いて眺めた。土からでたばかりのにんじんの元気を分けてもらうために。

画像2


ありがとうございます。うれしいです。 楽しい気持ちになることに使わせていただきます。 また元気にお話を書いたり、絵を描いたりします!