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【読書日記】10/5(約980字)

私はまどさんの詩が大好きです。人間がこの世に存在する神秘と喜びを、優しく透明な言葉で表現した作品は比類がありません。『ぼくがここに』はこれまで数えきれないぐらい読みました。

亡くなった時の妹さんのインタビュー記事を読んだのですが、「神様のような人だった」とありました。私もそうだと思います。

『ぼくがここに』の中に蚊のことを書いた三篇の詩があります。蚊を叩いて殺してしまい、申し訳ないという気持ちが伝わります。この優しさ。私には絶対に到達できない境地です。蚊は不快で、迷惑な存在と思います。

でもまどさんの詩を読むと、蚊も一生懸命に生きていて、それを疎ましく思うのは人間の身勝手さだ、と分かってきます。三篇目の詩で、蚊が天に昇って、星になって瞬き始めることが描写されており、この詩人の限りない優しさを感じました。これから紹介する「ぼくがここに」はまどさんの代表作で、何度読んでも胸が熱くなります。

ぼくがここに

ぼくが ここに いるとき
ほかの どんなものも
ぼくに かさなって
ここに いることは できない

もしも ゾウが ここに いるならば
そのゾウだけ

マメが いるならば
その一つぶの マメだけ
しか ここに いることは できない

ああ このちきゅうの うえでは
こんなに だいじに
まもられているのだ
どんなものが どんなところに
いるときにも

その「いること」こそが
なににも まして
すばらしいこと として

いろいろな詩を読んでいますが、こんなに優しい詩を読んだことがありません。人間一人一人がかけがえのない存在であることが、子供でも分かる優しい言葉で表現されています。人間だけに限定されず、生き物全てが大切な存在という詩人の気持ちもこめられています。

どんな命もここに書かれているように「こんなに だいじにまもられているの」です。今の世の中では、とてもそんな風に思えないことが多いです。生きるのが苦痛だと感じることさえあります。

それでも、私が今ここにいて生きていることだけは、否定できません。たとえ殺されてしまっても、生きていた事実を変えることは不可能です。辛い時はこの詩に書かれている生きることの恵みを思い出せば、道が開けます。

辛くなったら、私は何度もこの詩に立ち返ります。今ここで生きていることの喜びを、繰り返し教えてくれる詩です。ただ読むだけではなく、この詩の言葉を自分の血肉にしたいと思っています。

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