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【小説】星を拾った (577字)

目が覚めた後、星を拾ったとつぶやいた。
理由が分からず、首をひねる。そんな夢を見たのだろうか。思い返してみても、心に何も浮かばない。

起き上がって、顔を洗い、うがいをして服を着替えた。寒い朝で下着だけになるとくしゃみが出る。素早く着込んで、外に出て歩き出した。まだ夜は開けていない。東の空がうっすらと茜色に染まっていた。

星を拾った。歩きながら、そう呟いてみる。やはり何も分からない。気にしないで、歩き始めた。冷たいけれど早朝の澄んだ空気は心地良い。歩きながら深呼吸をして、吸い込んだ。

散歩を終えて、素早く朝食を食べると駅に行き、いつもの電車に乗った。なぜだか今日は体が軽い。会社に行きたくないという気持ちも、湧きあがってこなかった。会社に入る前に、星を拾った、とまた呟いてみる。何も思いつかない。気にしないで中に入った。

その日は残業だった。夜の八時過ぎに会社を出た。残業は嫌だったが、とにかく一生懸命にやった。終わった後いつもは不機嫌な顔の上司が、にっこり笑って、「お疲れさん」と声をかけてくれたことが嬉しかった。

あたりは真っ暗で冷たい風が吹いている。歩き出したときに、朝のことを思い出す。「星を拾った」

そう呟いて空を見上げると、流れ星が見えた。本当に久しぶりに見る流れ星だった。理由は分からないが、「世界中の人たちが少しでも幸せになりますように」と祈った。


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