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【読書感想文】旅の楽しみの一つは知らない人との出会い(1149字)

沢木耕太郎さんのエッセイ『旅のつばくろ』を読みました。国内の旅を主題にした短いエッセイが収められています。読んでいると、ほろりとする話が多くて、良い本を読めて嬉しいとしみじみと思いました。

この本を読んで気付いたことがあります。それは、沢木さんが人との出会いを大切にしていることです。旅先での出会いは短いものです。ほんの一瞬の出会いもあるでしょう。でも、その時に生まれたつながりは、かけがえのないものになることがあります。

「縁、というもの」には、宮城での出会いが書かれています。講演会に出席するために、沢木さんは初めてこの地を訪れました。そこで熱心なファンに出会います。ファンの人は講演会が終わったら、ぜひ自分の鮨屋に来て欲しいと声をかけてくれました。

講演会の後に懇親会があり、その場で一緒に講演をした吉村昭氏にファンのことを話したら、懇親会よりはそのファンの店に行きなさいと助言してくれました。沢木さんはタクシーで駆けつけて、料理とお酒のご馳走を振る舞われました。このファンとは今でも付き合いが続いているそうです。

このエッセイには旅先での貴重な出会いが描かれていますし、作家吉村昭氏の律儀で、思いやりのある人柄が伝わってきます。私は吉村さんの本が好きで多くの作品を読んだのですが、寡黙で律儀で、情に厚いこの作家の生き様が感じられました。沢木さんは何気ない出来事を描きながら、吉村昭氏の人柄を浮かび上がらせることにも成功しています。

「夜のベンチ」には、若き日の沢木さんの忘れられない出会いが、描かれています。十六歳の沢木少年は夜行列車で東北を旅していました。ある夜に疲れ切って、駅のホームで毛布をかぶって眠っています。待合室にいたのは、沢木少年とホームレス風の男性でした。

足音が聞こえて、ホームレス風の男性が近づいて来るのに気づきます。自分の財布を盗もうとして接近しているのかもと思い、沢木少年は恐怖で身を固くします。でも、その男性は、ずれ落ちていた毛布を掛け直してくれたのでした。

胸が熱くなる良い話だと感じました。この経験のおかげで、沢木さんは、「旅の性善説」を信じるようになったそうです。旅先で親切にされた経験は私にもあって、大切な思い出として心の中に残っています。初めて東京に行く時にブルートレインに乗りました。その時に向かいの席の元ボクサーだった人が、色々話しかけてくださり、楽しかったことを今でも覚えています。緊張していた私を見かねて、助けてくださったのでしょう。

どちらかというと旅行は、外国に行きたい方です。でも、『旅のつばくろ』を読んで、日本国内にも良いところが多くあることが分かりました。日本の魅力を再発見した思いです。暗いことが起こり続けているこの時期に、本書を読めて良かったです。


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