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芸術作品の中には作者の想いが残っている (約1800字)

パリで三番目に行ったのが、ルーブル美術館です。ここは場所からして素晴らしいところでした。中心地を少し離れたところにあり、広々とした敷地に美術館が立っています。

よく晴れた気持ちの良い日で、春の明るい陽射しが降り注いでいました。ヨーロッパは日本にくらべて乾燥しており、事物がくっきりと見えます。昔は宮殿だったという美しい建物の輪郭を、目に焼き付けました。

この美術館で一番感銘を受けたのは、キリスト教を題材として作品が多いことです。十字架にかけられたキリストやピエタの絵をたくさん見ました。昔の人たちの素朴な信仰心を絵を通して受けとめることができて、感激しました。大げさな言い方になりますが、イエスが十字架の上で死んでいったことは、大きな意味があったと改めて思います。

ずっと見たいと思っていたルノワールの絵にも、ここで対面しました。絵の中から淡い光が滲み出るようなルノワールの絵は、本当に美しかったです。精魂込めて絵を描いた彼の想いが絵の中に残っていて、それが自分を包み込んでくれるような気がしました。

この美術館は広く大きくて、どこへ行っても絵や彫刻が展示してあり、その数に圧倒されるばかりです。迷子のようになり、何度か学芸員の人たちに行きたい場所を聞く羽目になりました。その度に丁寧に教えてもらえたので、有難かったです。

次に行ったのが国立近代美術館です。この建物はユニークな形をしており、美術館というより近未来のデパートといった趣き。エスカレーターと階段を使って、美術館に上がりました。モダンな建物が、歴史を感じるパリの街並みの中に不思議と調和しているのは面白いと思いました。古い街並みが残っているパリでは、過去から現代への時間の流れを感じることができます。国立近代美術館に行って、パリは未来を志向している街でもあるのだと思いました。

この美術館には、主に20世紀以降の作品が展示されています。具体的にはマティスやカンディンスキー、クレーといった画家たちの作品です。何を表現したいのか分からないものも多いのですが、分からないものは分からないなりに面白く感じます。自分の持っている常識を搔き乱される感じが、たまらなかったです。

ここでは自分の好きな画家であるデビュッフェの絵に会えました。子供が自由気ままに絵の具を使って遊んでいる、という感じの不思議な絵を描いた人です。彼の絵も意味は分かりにくいのですが、眺めていると心に強く迫ってくるものがあります。20世紀美術館で見た絵は、童心を感じさせながら恐怖と寂しさもこみ上げてくるという不思議な雰囲気を持っていました。

最後に行ったのは、オルセー美術館です。ここには私の好きな絵が一番多くあり、行く前から楽しみにしていました。印象派の絵を中心に自然を描いたものや素朴な情感を感じる絵が多く、日本人には一番親しみやすいのではと思います。

ミレーの絵とゴッホの絵、ルソーの絵が特に印象に残っています。農民を多く描いたミレーの絵を見ると、二人の祖母のことを思い出しました。二人とも農家で米やさつまいも作っていました。父方の祖母は晩年腰が曲がってしまい、痛々しい姿でした。

自然の中で懸命に働く農民たちの姿を活写したミレーの絵は、見る人の心に畏怖の念を呼び起こします。腰が曲がってしまうような激しい労働を続けた祖母のような農民たちに、敬意を払うミレーの作品をじっくりと見ることのは、一生忘れられない思い出になりました。

ゴッホの自画像を見ると、絵を見るというよりゴッホ自身に会った気持ちになります。ゴッホの心の中に渦巻いていた激しい情念が、心に伝わってきました。悲しみや苦しみ、芸術に賭ける意気込みといった画家の想いは、消えることなく自画像の中に残っていると思いました。

ルソーの絵がオルセー美術館の中にあるとは知らなかったので、見つけた時は驚きました。私の大好きな画家の一人で、小さな画集を持っており、ときどき眺めています。素朴さと童心が一体となった個性的な絵は、何度見ても見飽きることがありません。オルセー美術館に展示してあったルソーの絵は、童話的で明るく、郷愁を呼び起こすものでした。ルソーの絵は、オルセー美術館のサプライズの贈り物のような気がしました。

これで私のパリの美術館巡りの記事はおしまいです。長い記事を読んでくださり、ありがとうございました。




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