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道草小噺⑪薺<ナズナ>

2021年最初の道草小噺は、薺(なずな)です。

七草粥にも登場するので、食べたことある人は結構多いんじゃないかと思う薺。

七草粥、実家に住んでいた頃は毎年母が作っていて、密かと楽しみにしていたのだけど、七草粥には7種類もの野草(野菜もあるけどね)が細かく刻まれて入っているので、食べていてもどれがどの野草か分からない。つまり、味の分解はできない。

ただ、”なんか知らんけど美味しい”。それが七草粥。

今年初めて自分で作ってみて(野草歴10年のくせに)、その”なんか知らんけど美味しい”の正体が実は薺だったんじゃないかと今ほぼ確信している。

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七草粥だけど、実は七草揃っていない。コオニタビラコ(ホトケノザ)は去年ようやく認識して2021年こそは食べようと思っている野草のひとつ。今回はスポットがちょっと離れているため諦め。ハハコグサ、近くではなかなか見なくて食べる機会を失い続けている野草のひとつ。今年は食べたい。ハハコグサでアレを作りたい。


それはなぜか。

2020年ハマった野草が薺だからだ。

だいたい毎年何かしらの野草にハマっているのだけど、2020年は圧倒的に薺だった。

(2019年は確かイヌビユと葛、その前はたぶんシロザ。)


薺自体は元々好きで、主にあの白くて可憐な花をお弁当やケータリングにあしらいとしてよく使っていた。


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2018年頃の照り焼きテンペ丼。サラダにもカラスノエンドウやたんぽぽが入っていて野草づくし。照り焼きテンペの上に乗っているのはホトケノザ・なばな、そして薺。


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一番右の紫キャベツのおかずの上に小さいある白い点々が薺。薺はちょっとふりかけてもかわいい。


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焦がし白菜のポタージュ。きれいな色にどうしても仕上がらないので花たちの力を借りる。真ん中の葉っぱはカラスノエンドウ。


薺は、全然派手さはなく、あくまでも控えめで、まさに”可憐”という言葉がぴったりの見た目。

2018年の野草のディナーコース「星屑と道草」の時には、薺はまさに星屑のかわいさだ!とチラシのイメージ画像に。


ものすごくアナログに、薺をセミドライにして、紺色の布に散りばめて撮影(その後色調整)。今でもとても気に入っているし、この柄のワンピースとかあったら欲しい。誰かテキスタイル化しませんか?

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でも、この時はまだ、七草粥で意識せずに食べていることを除いては、まだ本体を食べることに興味を持っていなかった。

薺の花以外に興味を持ち始めたのはおそらく2018年の秋。

その前の年の2017年の秋もしくは初冬、畑の草取りをしていた時に、大根のミニチュアみたいなのがたくさん生えているのを発見。

完全に畝の外だし大根ではないはず、でも見た目がほぼ大根だしなんだろうと不思議に思って引っこ抜いてみると、根っこはひょろひょろでやっぱり大根ではない。畝の端っことか、畝間とか全然関係ないところにばっかり生えている。

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だいたい群生している。薺パラダイス。


不思議に思いつつ、その時はそれ以上は特に深掘りすることなく、そのまま忘れてしまっていた。

そして2018年の秋、大根のミニチュアに再び出会う。

たまたまどこかで出会ってなんとなく時間を共にして一期一会を楽しんで、随分後になってから全く別の場所に会った時、なんだか嬉しい気持ちになって、あ、この人仲良くなれるかも、もうちょっと知りたいな、ていうあの感じ。

気になったので畑の主の小林ファームさんに聞いてみたら、”薺じゃない?”と言われ、じゃぁ食べてみるか!ととりあえずパスタにして食べてみた。おいしかった。

でも、元々は野菜がない時に野草を食べる派だったので、冬野菜が出始めると冬野菜を食べることに忙しくて薺を食べることにならなかった。

再び食べることになったのは、2019年4月の野草ディナー”道草晩餐会”の時。


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この時散らしているのは、菜花。


野草ディナーイベントは私にとって、その時の自分の野草料理の集大成であり、個展のようなもの。やっぱり新しく出会った野草は登場させたい。おいしいものの存在はできるだけ世に知られて欲しい。

どうやって登場させようかと、ネットでいろいろ探したところ、中国のある地域では薺が野菜の売られていて、どうやらワンタンやスープの実として食べられているらしいことを発見。道草晩餐会でも、上海で定番らしい薺と豆腐のスープ、”萕菜豆腐羹”をヴィーガンアレンジで登場させることに。もちろん、テンペと共に。

参考→http://blog.livedoor.jp/chijintianxia/archives/1837333.html


でも実は道草晩餐会は4月の開催でこの頃には薺はすっかり花を付けているものがほとんどで(つまり薹が立った状態=すじすじしていて固くて食べてあまり心地よいものではない)、使える状態のものを採集するのに随分と苦戦。なので、薺は4月ではもう遅いということを学んだのが2019年春のこと。


分かりにくいけれど、緑のが薺。豆腐切るのが楽しいレシピ。豚の代わりにテンペ+スパイスで。

薺スープ

緑のが薺。豚の代わりにテンペ+スパイスでヴィーガン仕様に。これがかなりいい感じでこれをアレンジしてお弁当でもたくさん登場させた。とろみは米粉(米粉はショップマドレさん)。


2019年秋は、薺を引っこ抜いた時のあの牛蒡のような土っぽさに辛みのある爽やかな香りがたまらず、この頃の畑バイトでひたすら草刈りをしていた時、薺を刈った時は”大当たり”、ハコベは”当たり”(ハコベも結構いい匂いする)、ホトケノザとオオイヌノフグリは”ハズレ”(ほぼ無臭)、と草たちには失礼だけどそうやって一人遊んでいた。
畑帰りに摘んでパスタにしたり、野菜炒めに入れてみたり、スープにしたり少しずつ薺と仲良くなっていったものの、その後は工房移転のため木下実験室休業、改装DIY、引っ越し準備などにてんやわんやで、気がついたら薺の採集時期は終わっていた。

そして、引っ越してから半年が経ち、ようやく新しい暮らしにも慣れた2020年秋。

そろそろかな、そろそろかな、と畑に行くたびに薺の存在を確認する。薺のようなものが出始めて(小さすぎると同定が難しいし採集も調理も大変なので我慢)、ようやくいいサイズになった頃の畑バイトの作業は大根の畝の草刈り。

草刈りしていると、だいたいはホトケノザ(たまにハコベとオオイヌノフグリ、そしてノゲシ)なのだけど、たまに薺の群生にあたる。

最初は、刈った時の匂いだけは楽しみつつ仕事だからと”草刈り”として薺も一緒に刈っていたのだけど、途中で”ん?これ採集したら一石二鳥じゃない?”と気づき、採集することに。

すると、ついつい抜くのが楽しくて(そしてたまらない匂い)作業を終えると両手一杯の薺!

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ウハウハというのはこういうことか!という気分の高ぶり。

せっかく摘んだのでいろいろ作ってみよう!いっぱいあるんだし!というものすごく気軽な気持ちで、とりあえずきんぴらにしてみることに。イメージは、大根葉。見た目も似ているし絶対にいけるはずという謎の確信のもと作ってみたらこれが大ヒット。

夫にも好評だったのもあって調子に乗って、今度はお弁当でじゃがいもと合わせてきんぴらにしてみたらこれも抜群の美味しさ(薺だけだと相当な量を採取する必要があるため、こういう時は野菜に頼る。)。

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じゃがいもは、近江園田ふぁーむさんのアンデスレッドとドラゴンレッド。胡麻はもう10年種継ぎながら育てている自家栽培の金胡麻。


さらに、食堂ヤポネシアさんにおすそわけ頂いた特製マグロのオイル漬け(つまりツナ)と合わせてパスタにするとこれがまた絶品。


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アクのない野草はとりあえずパスタにしてみるのが手軽でいい(もしくはオムレツね)。おすすめは、カンゾウとノビル。間違いない美味しさ。


鍋をする時には具材として入れてみたり、おひたしにしてみたり、混ぜご飯にしてみたり。

どれも本当においしくて、収穫する時の香りがとにかく最高なので、収穫も楽しい。

そうして薺の虜になっていったのでした。

そんな薺、花は付けだしているけれど、まだまだ美味しく食べられます(ギリギリ4月頃まで)。

ミニチュアの大根を見つけたら、とりあえず引っこ抜いて、鼻をきかせてみるところから始めましょう。

ごぼうのような土っぽさと、マスタードやわさびのようななんとなく辛みのある爽やかな香りがすれば、それが薺です。


いきなり収穫するのはちょっと…という時は花を確認するのが確実。

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タネツケバナと少し形が似ていますが、もし小学校の頃、帰り道で”ぺんぺん草”のハート型の葉っぱをちょっとだけ引っ張ってシャラシャラと鳴らして遊んだ記憶がある人は、その記憶をたどってみてください。

それが、薺です。

もし不安な場合は、とりあえず今回は存在の確認だけにとどめておいて(場所はしっかり覚えておいてね)、次の秋、10月か11月頃、もしくはもっと分かりやすくなる12月頃まで食べたい気持ちを温めておくのも、なかなかいいものです。

そんなわけで、ものすごくシンプルで確実に美味しいきんぴらの作り方です。


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薺のきんぴら

<材料>

薺(根っこごと)…好きなだけ
ごま油…適量
酒…適量
醤油…ほんの少し(香り付け程度)
胡麻…適量

<作り方>

①薺は採集したら早いうちに水でよく洗う。根元に土がたまりがちなので、根元は特に丁寧に。

②よく洗ったら水を切り、根っこはちょっとすじっぽいこともあるので細かく、葉っぱはざっくり2cm程度の長さに切る。

③フライパンにごま油を熱し、薺を入れて炒める。

④全体に油が回ったら、酒と醤油を入れてアルコール分を飛ばし、最後にごまをかけたらできあがり。

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おいしい薺ライフを。



他にも野草のこといろいろ綴っています。

https://note.com/pun_the/m/ma2d85dfc4fcb


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