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【映画の感想】『星の子』は、『2001年宇宙の旅』『新世紀エヴァンゲリオン』『コンタクト』に繋がる傑作!!

※以下は、「映画.com」のレビューに投稿したものの転載(若干修正あり)です。
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2020年の11/29に、新所沢レッツシネパークで『星の子』を観ました。

私にはメチャクチャ刺さりました!!
私が少し前から考えている事に、凄く符合しまくりました。原作も読んでみたい。(※このレビューを書いた後に原作を読みました。)
新興宗教がモチーフにはなっているけど、普遍的に人類の事が描かれていたと思います。

人間は、自分が信じたい事しか信じられない。
それを外側から、論理的に説明されても、自分達にも屁理屈にしても理屈がある。
そもそも、自分が理解できない理屈は理解できる訳はないし、理解したくない事であれば当然理解しない(聞く耳を持たない)。
大友康平さん演じる、ちひろの叔父さんの一連のエピソードです。

そして厄介なのが、この屁理屈がある場面では機能してしまう事がある。
精神的に追い詰められていたり、極端に弱っている時には、心の拠り所が必要になる。
それが正しい(本当)か正しくない(嘘)かは二の次です。
「溺れる者は藁をも掴む」ですネ。
本作でのちひろの両親は、この状態だった訳です。
そもそも、嘘や嘘を信じる事が悪なのか?
必ずしもそうでは無いですよネ。昔から、嘘も方便などと言ったりします。
学校の教科書にも載っている「一切れのパン」が、一番の良い例だと思います。
ちひろの両親にとって、一切れのパンが「金星のめぐみ」奇跡の水であった訳です。
それが木片であろうが、水道水であろうが関係ない。信じて生き続ける事が大事だったんです。
「鰯の頭も信心から」ですネ。
私は、これが宗教の本質だと思っています。

では、論理的な思考や科学的な見地、理屈が万能かと言えばそれは違います。
何故なら、科学は日々進歩する。それは分からない事がまだまだ沢山あると言う事です。
そう、科学は万能ではないのです。
科学自体も、解明されている事しか解らない。
逆に言えば、現時点の科学が万能ではないから宗教が必要とも言えます。
科学的である事の弊害は、唯物論的になり心の事が置き去りにされがちになる事。
科学や正しい理屈の象徴がちひろが授業で受ける数学であり、科学万能主義の象徴が岡田将生さん演じる南先生(数学教師)なのだと思います。

これらの事は、人類が進化の過程で、知恵と心を持ってしまったからなのだと私は思います。
中途半端に知恵を持ってしまった人類は、自分に降り掛かる災難を避けようとして、それを解ろうとする。
自分の愛する人を苦しみから救ってあげたい。なにより自分が救われたいと、何かせずにはいられない。
だから、屁理屈をこねたり、何か理由が必要になる。

ただ、宗教も科学も、妄信してしまえばどちらも一緒なのだとも思います。

今のコロナ禍に、これらの事が象徴されていると思います。
コロナ禍に於ける一番の問題は、新型コロナウイルスではなく人間としての有り様や心なのだと思います。

人は一人では生きていけない。
人は、群れたいし社会に身を委ねたい。
人は、誰かを信じたいし家族や仲間を作りたい。
だから、人は人間になる。

南先生の噂話、「ひかりの星」の海路さんや昇子さんの噂話は、人間の下世話な部分の象徴だと思います。
それは、一般的な社会であろうが、新興宗教であろうが変わらない。
何故なら、それらを構成しているのは人間だからです。

新興宗教は悪や詐欺だと決めつけている方が多い。
現実にはオウムの事件もあったので、ステレオタイプ的に決めつけるのは仕方ないのですが…
本作中の教団「ひかりの星」は、本当に悪なのでしょうか?
効能などない只の水を、効果があると謳って販売するのは当然犯罪です。
ただ、神社やお寺で売っているお守りってどうなんでしょう?
初詣に出掛けたり、神社にお祈りしにいった時、お賽銭を入れたりしますよネ?
一方的に騙している詐欺商法などと違って、「ひかりの星」は心の平安や安心を提供しています。
只の水としては法外な価格かもしれませんが、その価値が水ではなく精神のケアにあるのであればどうなんでしょう?

他の方のレビューを読むと、新興宗教を特別視している方が多いですが、普通の宗教も同じだし、社会だったり国家だったりも同様なのだと思います。
未だに男女の差別があるし、先の大戦前の日本、封建時代の日本は今から思えば信じられない事が普通に行われていた。
世界では、魔女裁判や天動説などが常識だった訳です。
社会的な価値観は、時代的なスケールで見れば更新されていきます。
今、様々な意見が交わされているLGBT問題、遅くとも1世紀後には解決していると思います。
自分が所属している社会やそこでの価値観は、正常だと思うし、正しいとバイアスが掛かります。
科学の発達だったり、時代背景などはあると思いますが、私は本質的には変わらないと思います。
消費税が段階的に引き上げられ、大企業や富裕層が優遇されている社会は、悪徳新興宗教と何が違うのでしょうか?
民主主義(普通選挙)の限界も見えてきたし、資本主義が最強の社会システムでない事も解ってきました。

本作、本当に素晴らしいシーンばかりなのですが、上手く一連の話しとして纏められないので、個別に書きます。(^^;

◆ちひろの面食いについて
あのアイドルが、タレントが、俳優が、「格好いい」「キレイ」「可愛いって」って普通に言いますよネ。
実際、私も女優さんは、目が大きくて顔が小さい方が好きです。
(勿論、それだけではありませんが… (^^;)
特に幼い頃は、無邪気にそれを前面に押し出してきます。
でもコレって、善悪にも人間性にも全く関係ない。
でもソレを、美しい→好き→信じる→正しいと勘違いして(同化させて)しまう。
大好きな南先生に、否定・拒絶されたちひろは可哀想でしたよネ。
でもコレって、ちひろの一方的な想い(込み)が原因な訳です。
(私は、南先生が悪い人だとは思っていません。)
世間でも美醜に言及しがちで、根拠を伴わない勝手なイメージや先入観がもたらす問題の象徴だったとも思いました。
コレは、新興宗教→悪にも繋がっているとも思います。
―《後から追記①》――――――――――――――――――――――
ラストシーンについて書きながら気が付いた、ちひろの嘘にも関係あるのかも?
面食いを公言する事の是非は置いておいて、ちひろは嘘がつけなかったのかもしれない。
自分が好きなモノ、美しいと思う気持ちに正直だっただけなのかも?
それは、人間として未熟である事の象徴だったのかも。
他者の気持ちを想像できる、想いやれる事が足りない。
(「◆評価が分かれるラストシーンについて」に続く)

『2001年宇宙の旅』で、HALがボーマン船長達の殺害を企てる切っ掛けも、木製探査の本当の目的を隠す為(嘘)だと私は思っています。
人類の進化と嘘の関係を描いていて、『星の子』にも繋がっている様に感じます。
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◆評価が分かれるアニメーションパートについて
私は大好きです。
世界観と言うか時空間が一気に広がった感じがしました。
オーラスやクライマックスに持っていっても良い素材だと思いました。
(ストーリー的に陳腐になるとは思いますが…)
だからこそ、この映像が予告編で公にされていた事に怒りを覚えます。
このシーンを初めて映画館で観たら、もっともっと気持ちが高まったと思います。
本当に残念です。(怒!!)

◆教団施設内で両親と会えないくだり
孤独の不安や家族の大事さを再確認するくだりだと思いました。
教団に対する悪い噂があるので、「もしかして?」的にサスペンス調の面白さも加味されていたと思います。
ちひろが、自分の家族以外の家族(だけではないけど)と出会い、様々な家族や家族の形がある事を知る。
そして、ラストへ繋がるのだと思いますし、ちひろが社会と触れる事の象徴だったとも思います。

◆評価が分かれるラストシーンについて
ちひろは、早く帰りたくて「見えた」と両親に嘘を言ったのだと思いました。
このラスト、ストーリー的には好きではないです。
結局、ちひろは家族の関係性を断ち切れない、人は人間として生きる為にその呪縛から逃れられない。
構造的に進化が行き詰まっている、人間の、人類のポテンシャルの限界が語られている様に感じました。
私には、絶望的なラストにとれました。人類の幼年期は終わらない。

あれ!? 書いていて気が付いたけど、ちひろの嘘って初めての嘘?
人間になる為には嘘も必要と言う事かも。

本作の粗を探せば、シーン・シーンが的確で雄弁過ぎるので、説明的かも? と思いました。
でも、他の方のレビューを読むと、私の懸念は老婆心だった様です。(^^;

『星の子』は、人類の進化、人間性、宗教が語られている、『2001年宇宙の旅』、『新世紀エヴァンゲリオン』(旧シリーズ)、『コンタクト』に繋がる傑作だと私は思います。
未見の方、是非、御覧ください。
今年(2020年)の年テンを決める前に、観ておくべき作品です。
因みに、私の年テンでは4位でしたが、私にとってオールタイムベスト級です。多分、Blu-rayを買うと思います。

個人的には、「ラストラブレター」の影山祐子さんが、エキストラ出演されているのもお気に入りポイントです。(^^*
(「ひかりの星」本部で、ちひろがホール(集会会場)に入場する前のロビーのシーン。)

―《後から追記②》――――――――――――――――――――――
原作を読みました。
ストーリーの大筋自体は、基本的に同じです。
但し、原作はちひろの視点でストーリーが展開されるので、映画とはテイストが大きく違います。
特に冒頭、ちひろが生まれた後「金星のめぐみ」に辿り着くまでは、実質1ページも無くあっさりと描かれています。
勿論、原作全てが描かれている訳ではないので、残した部分の選び方が絶妙です。
原作を読むと脚色の素晴らしさも分かります。

ラストシーンのちひろの嘘については、私の勘違いでした。
原作では、ちひろは本当に流れ星を見ていました。(^^;;

小説を先に読んでいたら、「人類の~ 進化の~」なんて解釈にはなっていなかったと思います。(^^;
「現代社会に蔓延る隠された仕掛け」みたいな解釈だったかもしれません。
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―《後から追記③》――――――――――――――――――――――
原作に無かったエピソードに、ちひろが(蒔田彩珠さん演じる)姉と両親に隠れてコーヒーを飲むくだりがあります。
他の方のレビューを読むと、信仰上禁じられている事への反発との意見もありますが、私は人の成長の象徴である様に感じました。
私自身も、子供の頃は「何でこんな苦いものを大人は好んで飲むんだろう?」と思っていましたが、今は大好きです。
また、人は自分が理解できない理屈は理解できる訳はないにも繋がりますし、経験を重ねる事により理解できる様にもなる。
大森監督、流石です。d(^^

(ラストシーンでの)初めての嘘について、私の勘違いでした。(^^;
南先生の似顔絵をクラスメイトに見つけられて、外国の俳優だと嘘をついてましたネ。
でも、本作でも『2001年宇宙の旅』でも、嘘は重要なファクターだと思います。
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星の子1

12/26に、テアトル新宿で2回目を観ました。

星の子2


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