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soi-disant poésie

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記事一覧

こなれた生

ずいぶんと生がこなれてきた
右足を踏み出せば左手がさりげなく前に出ているし
嫌なことを聞かれたら聞こえないふりをするし
出かけるときに何を着るか思い悩むこともない

ずいぶんと生がこなれてきた
ゴミ箱に紙を丸めて放ると吸い込まれるように入るし
いつも鞄に傘がはいっていて濡れることもない
ともかく早く寝て明日考えればいい

ときどきやってくる
コンビニの棚の前でなにも選べなくなって立ちすくむときが

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ねこ

ねえおねがい話をきいてわたしの
話をきいてほしい でも話をきいてほしい
のではなくて
ただ話しているのをただ
きくようにみていてほしい あなたにわたしは
届かない だから話なんて
きかないでほしい わたしは
とびきりおしゃれなねこと暮らすの

やさしいひとが好きというけれどそれはただ
やさしくされるのが好きなだけ
やさしくされることで自分の存在を
なんとかたしかめているのね よくしっている
やさし

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球体恐怖とミソジニー



中身が詰まっていて丸みを帯びた,弾力のある立体的な身体は母以外であってはならない,そして母なるものはすべて家の中に閉じ込めなくてはならない,無賃金で働かせることで自尊心を削がなくてはならない,苗字を剥ぎ取らなくてはならない,外に出るという発想が浮かばなくなるほどに序列を叩き込まなければならない

薄っぺらい身体に重すぎる頭をぐらぐらと載せた適齢期の若い女たちは従順なこどものようで好ましいが油

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痕跡を走る

捌いた魚の内臓を棄てたごみ箱の中に
床に落ちた長い髪の毛をつまんで棄てる
棄てなかった世界の痕跡が強い光の中に
輝く塵のように舞う そこにわたしはいる

愛しているものの影をとらえ それが影であることに
唇を噛んだ季節がなつかしい
周回遅れに急き立てられ懸命に走るうちに
追いつかないことを悟ったわたしは深く水に潜った
より遠くまで進むためのひと蹴りを静かに繰り返す時間の中で
遅れているのではなく進

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そのあとの湿度にゆれる

老いた愛を弔いにいく
真夏の湿度に濡れていく なまぬるい血がこそばゆい
汗よりも重く涙よりも鈍い
海よりもあたたかく雨よりもなじむ

鋭さが痛みと近いのならば言語とも近いのだろう
しかし饒舌の豊かさではなくただ湿度があるだけなのだ
怠惰に無言を蕩尽してはならない

毎日首から落ちる庭の芙蓉をしなびぬうちに掃くつもりが
蝉まで息絶えて仰向けに落ちている 
みつめながらとらわれる 取り残されて静寂のは

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蚕の死骸とただしい眠り

ざわざわと喧しい静寂の その音の粒を解像しようとしたとき
肌の下ではるか昔の指の記憶がよみがえってきたので
灰色の光とともに揺れる雨露を覗きこみただ風が吹かないことを祈る
かつてと書くわたしが現在に生きるためにただしく眠らなくてはならない

細い糸を撚り薄く透ける布を織って顔に何層も巻きつけるとき
長い髪が巻きこまれともに織られてしまって解くことができない
片手に乾いた花をにぎり粉々にする 片脚を

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岸へ漕ぐ

小さなボートの櫂を漕いで わたしたちは
岸へ向かう 潤んだ牛の瞳の色をした湖に
月が揺らぎ流れてゆく 声を密やかに殺し
頬を伝う涙のように 光はただみずからが
音のない液体だと知っている 瞼のうらで
記憶を流している そっと水に寄り添って   

ボートの床板はばらばらと剝がれていって
破片が黒色のなかに溶けていくのを見送る
わたしの髪がなびくところにもう底はない
溶けゆく舟の上でわたしたちは向か

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星座の完成

勤務先のフロアの行きどまりにある背の高い細長い窓は暗く
一度も降ろされたことのないロールスクリーンがついていて
ロールスクリーンを降ろすためだけについている長い長い紐は
天井から吊るされ通気口からの風でいつも大きく揺れている

わたしの影がガラスに映っている 顔は映っていない
外をのぞきこむ 紐の輪とともに髪がゆらゆらとなびくのがみえる
影の中に蛇のようにうねる車の列や夜景のさえざえとした光が

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月をひろう

ことばの一瞬の澱みにきづき
まなざしの一瞬の翳りをとらえながら
きのう愛していると言ったひとが
きょうはもう愛していないと言うのは
きょうも愛しているからだと知っている
きょうもかわらず愛していることに
耐えられないからだと知っている

生き急ぐ無愛想な晩夏の光が
たしかにわたしの筆跡で書かれた手紙を
投げやりに投函して去っていく
書かれた文字を目で追うごとに
時制が赤鉛筆で書き換えられる
はじめ

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死神の横顔

アイスコーヒーをそそいだグラスのなかに
黒い小さい虫がとびこんできてそのまま
インクの染みのようにくたっと浮いて
縁にゆらゆらと流れ着いていく
コーヒーのうえにできた溶けた氷の透明な層の静けさをみながら
わたしはただグラスをながめていた時間の長さを知る

濃紫色のうつくしいあざみが
炎天下の駐車場の傍らで光を跳ねかえし群生しているのを
毎日みながら駅まで歩いた
両手でも抱えきれないほどのあざみが

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名指しと影

均質な光のもとには影がないのでなにも立ち上がらない
白くすみずみまでのっぺりと冴えわたってとても清潔だ
青ざめた紙の上でわたしたちは愛し合うそこに謎はない
ぎりぎり光を強めてじりじり目をこらして明日のための
紙のしみをみつけなければことばがうしなわれてしまう

まぶたのうらに過去の光の強弱が埃のように沈んでいく
ことばとは強弱であり差異であり生をひきのばすための
静寂と喧噪の波をまるごと受け入れる

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よるのうた

みる
とじる
うかぶ

くちびる
はだ
ゆび
くらい
やみ
あける
やみ
みえない
さわる
ぬの
かべ
あめ
らじお
あめ
くるま
あめ
ながれる
こきゅう
ひそめる
みみ
ほそめる
とりたち
とおい
あわい
ひかり
あめ
みえる
あける
あさ
とじる
わたし