星座の完成

勤務先のフロアの行きどまりにある背の高い細長い窓は暗く
一度も降ろされたことのないロールスクリーンがついていて
ロールスクリーンを降ろすためだけについている長い長い紐は
天井から吊るされ通気口からの風でいつも大きく揺れている

わたしの影がガラスに映っている 顔は映っていない
外をのぞきこむ 紐の輪とともに髪がゆらゆらとなびくのがみえる
影の中に蛇のようにうねる車の列や夜景のさえざえとした光が
二進法で針のように浸食してくる 現実とは図らずも握りしめられた
薄く乾いた肌であり
指でふれるたびにはじめて知る無数の襞からなる柔らかな紙であった
涙がわたしのものだったころたしかに光は滲み
綴じられることのない書物の任意の頁の一語を夢見た
いま指先がすべてを数え切ろうとしている わたしは明瞭に語ることができる
それでも生きつづけるわたしとは何者なのか

紐がゆらゆらと踊っている 首を括るには長すぎる
身体は撓み冷たい床に余るだろう 不協和音も調和であり
不整な美もただの美である 驚きはもう前から歩いてはこない
ただ冷笑をしりぞけるために 過去への櫂を投げ捨てる

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