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まずいビールを飲みたくないので

吾妻あづまひでお先生のエッセイマンガ『アル中病棟』は、アルコール中毒の患者が集まる病棟のことが克明に描かれています。

かつては漫画家として人気を博し、現在まで続く「萌え系」の元祖といわれている(※諸説あり)吾妻先生ですが、昭和の末期ごろより低迷期に陥り、煮詰まってしまったとのこと。

ある日に「タバコを買いに行ってくる」と仕事場を出たきり、全く帰らずに山に籠もり、数年間に及ぶ失踪。

その後に保護されて家に戻ってきたものの、今度はアルコール依存症になったり、鬱病を発症したりと、踏んだり蹴ったりの中年時代を送られたのだそうです。

そのうち、失踪していた時期のことを綴ったのが『失踪日記』で、『アル中病棟』は実質的な続編にあたります。

どちらともコミカルなタッチで描かれ、時々クスッと笑えるような仕様になってはいるので、さらっと読めます。

が、これはフィクションではなく、リアルにこんなことが起きていて、リアルにこんな人がいるのだと思うと、後から本気で怖くなってくる。

といっても『失踪日記』の場合は、まあそうは言っても昔の時代の話だし、自分が失踪するということもまあないだろうからと、他人事として捉えていました。

なので、まだ深いところまでは刺さらなかったのですが、『アル中病棟』は本当にジワジワ来た。

なぜなら、自分もアル中はともかく、アルコール依存症に関しては、まあ予備軍だろうなあ……、という自覚があったので。

昔は、休みの日には昼間からビールを飲むなんてことは当たり前でした。

連続飲酒というほどのペースではありませんが、昼食後に缶ビールを1本。1本目を飲むと次が欲しくなるので、何時間後かにまた1本。

夕方になると近所のリカーショップに買い出しに行き、駅前の広場でまず1本(通算3本目)を飲んで、学校帰りの騒がしい人々を横目に、若いっていいものだなあとしみじみ。

当時の自分も20代前半だったので、充分に若かったわけですが、謎の老成感があったのです。でも、老年ならではの経験値があるわけでもなく、若手ならではのフレッシュさもない。

その少し前に辞めた会社の上司に「お前には何もない」と言われましたが、返す言葉もなかった。

本当に何もなかったので……。その後まったく別の職種でバイトをすることになったのですが、ここでも根本的にやる気がなかったので、楽しくない。

幸いというかなんというか、やる気がなくてもなんとなくできてしまう仕事内容だったので、そこに支障はありませんでしたが、まあ空っぽだったというか。

なので、そのあたりの頃の思い出がほとんど酒しかない。

上記の会社では飲み会がやたら多く、また酒に強い人も多かったです。

さらに、自分が新卒として入社した頃だとまだ、イッキ強要などのアルハラ文化が色濃く残っていて、なぜかコーンを丸呑みした状態でビールを一気飲みするという謎の芸などもありました。

これは自分でなく部長がその上のお偉い方にやらされていたのですが、あの芸は一体なんだったんだろう……。なぜコーン丸呑みなんだ……。

まあ、そういう空気の飲み会に出るのを繰り返しているうちに、それなりに強くなっていたようで、酒のことは好きになっていたのですが。

そんな時期になんとなく酔っ払いながら家の棚を漁っていると、まだ会社にいた頃になんとなく梅田のまんだらけで買った『アル中病棟』がチラッと見えたので、開いて読んでみました。もちろん缶ビールを片手に。

前述のように、この作品はコミカルに描かれていて、傍目からはどうしようもない社会不適合者の人たちも、「ちょっと個性的な奴ら」くらいの温度なので、読んでいる間はヘラヘラした気分でいられます。

これ、酔っ払っている時と似ている。飲んでいる間は、自分は絶対に大丈夫だという錯覚に陥っている。

けれど端から見れば、もうよせばいいのに、無駄に酒を食らい、翌日に胃腸を逆流させてキツイ思いをしている人なわけで。

その成れの果てが、この漫画に登場する、吾妻先生をはじめとする入院患者たち……。

読み終えた後、まだ少し缶ビールが残っていたのですが、それがついさっきと違ってまずかったことまずかったこと……。

もう二度とあのようなまずいビールを飲みたくないので、原則的に1日に3缶までとし、早くても19時までは飲みません。

そして、いつも棚のどこかに『アル中病棟』を……。病棟に入れられて断酒を要求されるのは嫌なので……。


サウナはたのしい。