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秘密に憧れた12歳児が大人になるまで
物心ついた頃には、近所のレンタルビデオ店でよくドラえもんのビデオを親に借りてもらっていました。
過去に視たものでも何度も借りており、特に映画のドラえもんのお気に入りだった『のび太と鉄人兵団』なんかは、もういいかげん借りるのをやめろと言われてしまったくらい。
ロボットでありながら人間の感情を理解してしまい、最後にせつない決意を下すヒロインのリルルが魅力的なのですが、それに気づいたのはもうちょっと大きくなってからの話。
当時はそれよりも、現実とは左右があべこべではあるけれど、家もスーパーも山も川も現実と全く同じものが存在するという鏡の向こうの世界、「鏡面世界」に惹かれていました。
この鏡面世界はパラレルワールドなので、住人がひとりもいません。現実には家にいるはずのママもいないし、スーパーには誰ひとりとして客がいないし、レジに店員もいない。
無人のスーパーで、夕食の食材をタダで買い占める(変な日本語だな……)場面がなんだかすごく好きで、もちろんそんなことを現実にやってはいけないのですが、あの絵面の妙な背徳感を気に入っていました。
のび太は大量のインスタントラーメンを、ジャイアンは大量の生ハムを、カゴいっぱいに詰め込みまくる。「いくらなんでも買いすぎじゃない?」という表情をしつつも、けっこうノリノリでレジ打ちの真似事をするドラえもんがまたかわいい。
他のエピソードでも、雲の王国とか、地下室にアパートをつくるとか、自分たちしかいない世界をつくる過程を見るのが好きでした。秘密基地っぽいものに憧れていたのですね。
しかし、実際には真似しようとしてもなかなか難しい。
建設会社の廃材置き場や、夜は誰もいなくなる神社など、人目に付かないところはそれなりに近所にあったはずですが、そこに段ボールなどを持ち込んでマイハウスなどを作ろうとすれば、どこかから偉い大人が出てきて怒られるのだろうな……というくらいの想像はできるようになっていたので、実行に至りませんでした。
やっちゃいけないと思えば、やってみたくなるのがクソガキというもので、空想は膨らむばかり。
たとえばこの家の押し入れの壁の向こう、隣の人の家の壁との間に入り込めたらどうか。
そんなに広くはないだろうが、そういう誰も知らない秘密のエリアがあったら、すごく楽しいのではなかろうか。
などと考えていると夜はぐっすり眠れて、四次元ポケットを道端で拾って、こんなこといいなできたらいいなを叶える夢を見られました。こんなことの内容は成長するにつれていかがしい方向に発展していき、あんな夢やこんな夢は広がるばかり。
とはいえ、ふしぎなポッケで叶えてくれる22世紀の親友はいつまで経っても机の引き出しから出てこない。
現実はもっと渋いものであり、秘密基地なんて現代の日本で作ろうものなら警察に補導されてしまう。
そのような常識を身につけるにつれて、夢の規模はいつのまにか縮小され、秘密のものを隠す扉がほしい、というささやかな願いに変わっていました。
秘密のものとはなにか。
小学6年生ともなると、コロコロコミックの内容も幼稚に思えてくるし、未だにドラえもんとか読んでいたらダサいという風潮が周囲に芽生えはじめ、その代わりに別の方角へと興味を示すようになったわけです。つまりはまあ、エロに目覚めますわな。
ただ、18歳になるまでは、その手のいかがわしい本は買えないし、TSUTAYAの奥のカーテンの向こうにあるコーナーにも入れません。
ニッセンのカタログという抜け道を見つけたのは高校生になってからで、いとらうたし12歳児には、せっかく目覚めた感性を発散する術がなく、どうしたのかといえば……。
絵に描きました。
それまでドラえもんとメタモンとディグダとカピゴンくらいしか(なぜかカピゴンはけっこう得意だった)まともに描いたことのなかったクソガキが、いきなり段階を踏み越えて春画(?)に挑戦したのだから、革命といえるでしょう。
参考資料は『名探偵コナン』の第17巻。当時の最新刊ですが、水着姿のお姉さんがいっぱい出てくるので、早くもエロオヤジの頭角を表した12歳児としては、これはもう模写するしかないと、ノートに描きました。
お姉さんがウミヘビに噛まれる内容で、小五郎のおっちゃんの元奥さんであり蘭ねえちゃんのお母さんである妃英理さんの初登場回ですが、そんなことよりも1ページめの蘭ねえちゃんの水着がエロくて、ウミヘビに噛まれるお姉さんもエロい。
残念な大人になった今となっては読み返してもたいして興奮せんのですが、なにせイタイケな太陽だった12歳児のオレンジ色のレンジは高まるばかりで、脳内の温度は沖縄のそれのように高まり、ヘタクソな水着イラストを完成させてひとりで悦に入りました。
さて、これをどこに隠そうか。
その頃に住んでいたのは2DKの狭い家でしたので、もちろん自部屋など存在せず、もともと家具だらけだった6畳間にほぼ無理矢理に置かれた勉強机は誰もがいつでも中身を見られるようになっていたので、引き出しなんぞにテキトーに隠したら瞬時に見つかってしまう。
これはどうしたものかと逡巡し、結局どうしたのか今となってよく覚えていませんが、たぶんクッシャクシャに丸めてゴミ箱に捨てたのでしょう。
親もゴミ箱の中身なんて確認しなかったでしょうから、バレてはいないと思うのですが、あのスリルはちょっと癖になり、中学生になるとさらにそういったものを生産しては捨てていきました。
パソコンを入手してからはハードディスクが秘密の箱になり、紙に書かずともインターフェイス上で生産できるようになったので捨てる必要もなく、インターフェイス上で生産したものはパスワードをかけて隠し通せます。
幼い日の夢が叶った代わりに、心の中の大切なものを忘れたような気が……、することはなく、私のクラウドにある秘密基地はどんどんえらいことになってきている。
流出しちゃったらどうしよう。いっそ鏡の中の世界にすべてのデータを放り込みたい。
サウナはたのしい。