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憧れを手にした金曜日

2010年12月24日という日は、あなたにとってはどんな日だっただろうか。

クリスマス・キャロルが世界中に鳴り響いたその日。サンタクロースが、良き子供たちのために、夜空から幸せの種を蒔いたその日。

誰かにとっては、遠く記憶の彼方に去ったただの金曜日のひとつでしかなかっただろう。誰かにとっては、永遠に忘れられない特別な無二の金曜日だっただろう。どんな金曜日であったとしても、そこに確かに金曜日はあった。それは決して嘘じゃない。

だけど僕にとってその日は、嘘みたいな金曜日だった。



……いえ、嘘です。いや、嘘じゃないんだけど(どっち?)。

曜日は忘れていました。この調子だと書く側も読む側も疲れそうなので、いつものヘラい感じに戻します。

2010年12月24日金曜日、自分は東京の地で、えー、…………迷子になっておりました。

水道橋駅から歩くこと20分弱。徒歩5分で着くはずの目的地がいつまで経っても見えず、なぜか観覧車が見えてきました。

これは……あ、なんか、後楽園とか書いてある……。知らぬ間に後楽園の入り口に来てしまったらしい。どうしたものか。

最先端のガジェットであるスマホ(当時はまだスマホは時代の先駆者のみが持つアイテムであった)でどうにかならんものか。GPSってどうやって使うんだ?

いや、そこらへんの人に訊けばいいだけなんだけど、イブの遊園地付近はカップルだらけで、話しかけづらい……。

と右往左往していたら、肩まで垂らした髪の女性が歩いているではありませんか。隣には赤い髪の女性もいらっしゃいます。おふたりとも上下ともに真っ黒な衣装。あの格好は間違いない。コスプレイヤーだ。初期INORANコスの人と中期SUGIZOコスの人だ。

そのコスプレイヤーのお姉さまがたの後をつけていくと、おお、無事に辿り着けたぜ。東京ドーム。

読売ジャイアンツの本拠地で、引退セレモニーで清原選手が大泣きした地で、かつてX JAPANのYOSHIKI氏が何度となくブッ倒れた地だ。実在したんだ……。

20代になるまで関東方面に行ったことがなかった自分にとって、東京そのものがテレビでしか見たことのない街だったし、どこかファンタジーだったのです。

風がめちゃくちゃ強い回転ドアを抜けて、道を教えてくれたお姉さまがた(自分が勝手について行っただけ)に脳内でお礼を言って、とりあえず入場は完了。これで生のLUNA SEAが観られる。

ええ、なぜ関西在住の自分が新幹線に乗って東京ドームまで来たのかというと、LUNA SEAの再結成記念ライブを観るためでした。

自分が河村隆一さんという人を知ったのは小学生の頃で、その河村さんがヴィジュアル系バンドのボーカルであることを知ったのは中学生の頃で、そのヴィジュアル系バンドのLUNA SEAが終幕(解散)したのは高校生になりかけの頃。その後、2007年に一夜限りのライブを行っていますが、大学の卒論の追い込み時期のため行けず。

なぜか図書館に置いてあった『REW』というビデオに映っていた、走り回りながらギターを弾いたりマイクスタンドを投げたり銀テープが飛び交ったりするパフォーマンスを実際に観ることはもうないのだろうなあと思っていたのですが、しばらくしてネットをサーフっていたところ、オフィシャルサイトに謎のカウントダウンの文字が出てきたという情報を入手。

そのカウントダウンは再結成へのカウントダウンであり、その後「REBOOT」と称して、2010年12月24日から26日にかけてライブコンサートを行うことが正式に発表されました。

これは凄いことだ。とっくに解散して、絶対にもうライブを観ることはないと思っていたロックバンド。解散する前は子供だったからライブに行けなかったロックバンド。そのLUNA SEAが復活する。そして今の自分は大人だからそれなりにお金があるし、ひとりで遠くに行ける。

だから今、東京ドームの指定席に自分は座っている。舞台袖には、本物の河村隆一さんやSUGIZOさんや真矢さんがいる。Mステを視ているわけでもポップジャムを視ているわけでもなく、LUNA SEAの生の歌と演奏をその場で観ているのだ。

「ここからはじまるのさ 今」と、この日のトップナンバーを飾るに相応しい歌詞で締めくくられる『Time Has Come』は、ここでリアルタイムで演奏されている。すげえな。

なんだこれ。夢か。浮遊感と高揚感が漂う『gravity』の音の流れに酔い(頭よさげに見えるけどよくわからん表現だな)、CD音源にはない「♪ラ~ラ~ラ ♪ライラライラ~」 というスキャットにただただ感動(語彙力)。

「ぽぉぉぉぉ唱法」などと称されていますが、河村隆一さんのスキャットは本当に感動するんですよ(大事なことなので2回いいました)。この日のセットリストにはなかったけど『RA-SE-N』という曲にもライブにしかない「ラ~ラ~ラ~ フゥ~~」というスキャットがあって、文字にしちゃうとなんかバカっぽいけど、とても感動的(語彙力がないので3回いいました)。

あと、『gravity』は自分がLUNA SEAを知ってから最初に出た新曲だったので、個人的な思い出もあります。たぶんいちばん有名な『ROSIER』よりも先に知ったんですよね。

それから先のことは、なんとあんまり覚えていません。

なんかその日の夕方以降のことのすべてが嘘のような、ふわっとした感覚だったように思います。小さい頃に憧れていたけど届かなかったものに、ちょっとだけ届いたような届かなかったような。

これが地元の関西だったらまた違う感情だったのかもしれませんが、東京という憧れていたところで、LUNA SEAという憧れていたかっこいい大人たちを観られた。

大袈裟にいえば夢が叶ったのですが、なんとなく寂しい気持ちにもなって、京都の友達に電話しました。

当たり前ですが、彼は関西弁で電話に出ました。なんか安心したので、お礼ということで、帰ってからオフィシャルグッズの1000円のノートをあげました。

LUNA SEAのロゴが表紙に印字されている以外はふつうのノートです。彼はそのノートをふつうに使いきったそうです。ふつうがあるから特別があるのです。

たぶんそういうことです。また行きてえな東京ドーム。また迷って後楽園に行く自信があるけど。

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