他人との風呂は楽しい
かつて住んでいた家から徒歩10分のところに銭湯があったにもかかわらず、小さい頃に風呂屋に連れられた経験というのはありません。
20歳くらいの頃、大学の先輩と名古屋に遊びに行った時に入ったところが、自分の人生で初の銭湯でした。しかし、その頃は風呂屋に全く興味がなかったので、まるで記憶に残っていません。
そもそもアトピーだったので、人前で肌を見せるという行為そのものが嫌だったし、他人と風呂に入って何が楽しいのか、という気持ちもありました。
大学の別キャンパスには大浴場が付いていて、泊まり込みの時はそこに入れたのですが、友達に一緒に行こうと誘われても、自分は後から入るからと断って、できるだけ他人がいない時間帯を見計らって入っていたほどです。
最初に就職した会社は、入社前に1週間くらいの山篭もり(某超有名ブラック企業の傘下の会社だったので研修がブラック)をさせられまして、いちおう風呂の時間はあったのですが、スケジュールがタイト過ぎて、芋洗い状態。
余計に他人との入浴を避けるようになり、市内にスーパー銭湯ができたという風の噂を聞いても、「ふーん。そう。知らね」で終わらせていました。
そんな自分が、たまたま会社の優待割引があることを知って、テレビCMなどで名前だけは知っていた、大阪の通天閣の近くのスパワールドに足を運んだのが3年くらい前。
その浴槽の多彩さに感銘を受け、休むだけではなく、寝ることだってできる広い休憩処がまた心地好く、温浴施設とはこんなに素敵な空間なのかと、ただただカルチャーショック。
そこから、日帰りで行ける近くのスーパー銭湯や健康ランドを探しては行きまくりました。
そして最終的に行き着いたのが、番台あるいはロビーがあって、ボディソープやシャンプーは持ち込みで、サウナに入る際はバスタオルを巻いて、お客さんは基本的に地元の住民……、という、昔ながらの、一般の街の銭湯。
はっきりいって最初は、かなり敷居が高かったです。
ほとんどのお客さんが知り合い同士だったりするからアウェイ感もあるし、スーパー銭湯みたいにタトゥー禁止の規則もないから、とても立派な彫り物をなさった方もおられる。
こんなところに自分が来てええんかいなと思いつつ、入ってみればなんのその。
別に誰からも怒られたりしない。というか、そもそも干渉されない。「おまえ見いひん顔やな」と話しかけられることもない。
女湯だとヌシみたいな常連の人がいて、一見さんはマナーに関して事細かく注意される、なんていう話を聞いたことがありますが、男湯に関しては、本当にそういうのを見たことがない。
確かにアウェイ感はあるけど、風呂は静かに入りたいので、慣れてくれば、むしろそのほうが都合がいい。
修学旅行や会社研修でみんなと風呂に入るのが嫌だった本当の理由は、そこでも会話しないといけないからだったのかもしれない。
周りの人々が誰も自分のことを知らない世界で、自分の世界へと浸る。家でもそれはできなくはないけど、他所でそれをやるというのがなんとも心地好い。他所なので他人がいるものの、その他人がずっと他人のままなのもいい。
まあ別に、常連さんと仲良くなってもいいのですが、あえて外での自我を解放する手段として銭湯を使いたい。
他人と風呂に入るのは楽しい。こんな楽しいことに、なぜもっと早く気付かなかったのか……。ああ、水風呂の冷たさが心地好い。遠くに行けそう……。
サウナはたのしい。