短編小説 「孤独について」


 呼べば来る女は何人か居た。孤独を癒してくれる女は居なかった。電話帳に並ぶ名前を眺めながら泰二は指を動かした。
「今暇?」
 声に出すと情けなくなるが自分の声が寂しく聞こえた。すぐに返信を寄越す女が良かったのに一度も返信をよこした事がないユズハという女を選んでいた。
「早く読め」
 ユズハは合コンに数合わせでやって来た、地味な女だった。眼鏡をかけていた。声は低く髪の毛はストレートで肩ほど、化粧っ気のない静かな女だった。他の事は知らない。合コンで皆の連絡先を聞き、別れてからはそれっきりだった。今日はありがとうなどという挨拶程度の文章にさえ、既読ひとつ付けただけの女だった。他に気になる人はいないか。スワイプしようと指をスマホに付けた時だった。
 既読がついた。泰二は胸の前でガッツポーズをした。スマホが震える。電話がかかってきたのだった。
「えっ、嘘だろ」
 ユズハは返信もせず通話のボタンを押したようだ。迷惑だったか、と泰二は考えたがまぁいい。通話する事にした。
「泰二さん」
「おー、ユズハちゃん久しぶり」
 ユズハは答えない。沈黙が怖くて泰二は明るい声を出した。
「あの時以来だね、元気にしてた?」
「いいのに」
「えっ?」
 低い声でため息をつくように声を出され泰二は怯んだ。
「私を数に入れなくていいのに」
 ユズハは諭すようにゆっくりと発声した。泰二は言われている意味が分からなかった。
「私、人って苦手なんです」
「あっ」
 泰二は直感した。これだったんだと。自分が欲しいものはこれだったんだと。とたんに嬉しくなり笑いを殺した声が漏れた。
「笑われても仕方ないですけど」
「いや違う、誤解」
「誤解?」
 ユズハが首を傾げたような気がする。泰二は見えないのに手を左右に振った。
「俺が語りたかったのは孤独についてだから」
「孤独について?」
「デートしたかったわけじゃないんだって、今気付いた」
 ユズハは沈黙する。
「それはそれで淋しいですね」
「嘘だろ」
 泰二が笑うとユズハも笑った。
「じゃ、出かける?」
 泰二が気を使うとユズハはううん、と言った。
「出かける気分なんですか?」
「いや、わかんね。でも通話したい」
「いいですけど」
「よかった」
「でも、孤独についてって何ですか?泰二さん孤独なの?」
 泰二は少し考え、言葉を選ぶ。
「そう。でも孤独とは、なんて話がしたい訳じゃないんだ」
 そんなのワカンネーし、というとユズハは相槌を打った。
「でも俺は孤独がわかる人と話がしたかったんだ」
 ユズハは沈黙する。泰二は祈るように喋る。私も孤独がわかるとユズハが言うのを信じて。

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